降臨
村に戻る途中でローナに話しかける。
「そう言えば、君はなんで空を飛んでたの?」
「あ、その事なんだけど、実は、なんか追われていた気がしたのよ」
「追われてる? 誰に?」
そう尋ねた時だった。
ピカッと。
空が光った。
そして木々の奥の向こうに、光の柱が落ちたような光景が広がる。
「きゃっ」
ローナは短く呻く。
それから、ドン、と小さく衝撃が響いた。
ローナは「…なにかしら」とつぶやく。
「行ってみよう」
僕らはその方向へ行ってみる事にした。
ガサガサと…
茂みをかき分けた先の小さな広場みたいな場所。そこに居たのは天使様だった。
すごい美人だ。
輝くような銀髪。端正な顔立ち。そして白い羽毛の羽と頭の上の輪っか。
天使様だ。
すぐに分かる。
にわかには信じられないけど、天使様が居る。目の前に。
だけど、その天使様はどこか、冷たいような印象を受ける。
一見すると無表情だけど、鋭い目線は全ての者を射貫くような厳しさを感じる。
そして綺麗な刀身の剣。
「て、天使様?」
「お前は何者だ?」
天使様にそう問われた。
ローナは僕の後ろに隠れながら言う。
「あ、あいつよ多分。私を追ってたの。ラルス、助けて!」
そんな事を言うローナと僕に天使様は鋭い視線を向ける。
そんな中、ローナは怯えながらも言うのだ。
「わ、私を殺してもいい事なんて無いわよ!」
僕は聞いてみる。
「天使様、貴方は、どうして…ここへ?」
すると天使様は答える。
「私はやるべき事をやるだけだ」
後ろのローナがビクっと震えた。
僕はこわばりながらも、拳を握りしめ言う。
「て、天使様はやっぱり、悪い奴を倒すんですか?」
「そうだ」
抜き身の剣が怪しく光る。
「そうですか…」
「…」
ローナが僕の服をぎゅっと握ったのが分かった。
僕は意を決して言う。
「でも、この子は、悪い子じゃないと思うんです!」
鋭く睨みつける天使様。
でも僕は続ける。
「魔族だからって、悪とは限らない事もある筈です!」
ローナは「ラルス…」と小さく呟いた。
「だから、天使様でも、いきなり切り伏せるのは待ってくれませんか!」
そこまで言うと男性が飛び出してきた。
「おい! ガキんちょ! こんなトコに!」
村に来ていた調停官、ケインさんだ。どうやら僕らと同じように光の柱を見たんだろう、それを確認しに来たようだ。
それから彼は言うのだ。
「天使様…いや、まさか、隊長…いや、ヴァルキリー・ヴァネッサ様…」
天使様も「ケインか」と短く答えた。
ケインさんはどうやら、このヴァルキリーのヴァネッサという天使様と知り合いのように見える。
そのケインさんが僕に続けて言う。
「お前何やってんだよ。 それに後ろのそいつ! 魔族だろ」
「僕は、この子が悪い子だと思えません。まだ悪い事をしてる所も見てません。だからどうか、退治しないようにお願いしてるんです」
「このお子様め、なんて口聞きやがる…」
「僕は、勇者になるんだ…勇者は、困ってる人の味方なんだ!」
そう叫んだ。
すると天使様は言うのだ。
「それがお前の意志か」
天使様の握る剣の刀身が怪しく光る。
怖い。
でも僕は引き下がりたくなかった。
一度言った事は曲げたくない。
ケインさんも「お前、相手が誰だか分かってのか!?」と言う。
でも僕は言う。
「今、この子は僕に頼ってる。だから、僕もそれに応えたい…」
天使様は「どういう結果になってもか?」と問う。
なので答える。
「未熟だけど、僕は、自分を頼ってくる相手を見捨てたりしない!」
そう叫んだ。
今の僕じゃ到底天使様に適う筈もない。
切り伏せられるかもしれない。
でも精一杯、主張した。すると、天使様は意外な言葉を発した。
「別に退治するなんて一言も言ってない」
…
え?
「必要ならそうするが、様子を見に来ただけだ。物音がするから確認をしにな」
なんだか拍子抜けした。
この天使様はローナを退治しようとしに来た訳じゃないみたいだ。
「よかった…でも天使様がなんでこんな所に」
「私の事はいい。お前はなぜそいつを庇う? お前の目的はなんだ?」
そう問われて、僕は答える。
「はい、僕の名前はラルスです。僕はこの近くの村を旅立ち、勇者になりたいと思います」
そう主張する僕だったけど天使様は非情な言葉を向けた。
「ラルスよ、残念だがお前は勇者になれない。今のままではな」
「ぇ…そんな…ど、どうすれば勇者になれますか…?」
「足りていない。基礎すら出来ていないのだ」
厳しい言葉に僕は黙ってしまう。
でもここで引き下がる訳にはいかなかった。
「教えてください! どうすれば足りない部分を失くせますか? どうすれば強くなれますか?」
「まずは冒険者の見習いから始めろ。それから見習い勇者を目指せ。話はそれからだ」
「は、はい。精一杯頑張ります! でも、誰の見習いになればいいんですか」
「それぐらい自分で見つけろ」
厳しい指摘に、僕は負けそうになりながらも指導を乞う。
「僕には、教えてくれるような強い冒険者の知り合いはいません」
「ならばそこから始めろ。人脈作りも立派な冒険の基礎だ」
「人脈なんて…」
「辞めるか? 別に構わんぞ。わざわざ危険な人生を送らなくても生きていく方法や職業はある」
「でも…僕は、夢を諦めたくはありません」
「…」
見下ろしながら僕を見つめる天使様に、僕は意を決して進言する。
「あなたが…」
「…」
「あなたが僕に教えてください! 僕を弟子にしてください。貴方なら出来る筈です。さっき、あの人が言ってました」
少しだけケインさんの方を見ながら僕は続ける。
「ヴァルキリー。そう言いました。あの人は。天使様の中でも強い人だというのは分かります。だから、そんな貴方に僕は指導を受けたいです」
そんな風に言うがケインさんが割って入るように言う。
「おいおい、ちょっといくらなんでも弁えろ、相手が誰だか分かってないだろ」
「でも僕は…」
食い下がる僕に天使様は少し思ってもみないような事を言う。
「お前は少し勘違いしているようだ」
「な、なにがですか?」
「ヴァルキリーの名前から強さを想像しているようだが、お前が得なければいけないのは単純な力ではない」
「よく分からないけど、それも貴方からなら学べると思います! どうか…」
でも天使様は僕を突き放すように言う。
「私は行く所がある」
「どこですか?」
「揉め事の解決だ。込み入っているようで見に行かねばならない」
「…僕も」
「…」
「僕も行かせてください!」
「今のお前では太刀打ちできない場所だ」
「天使様の戦いを見て勉強したいんです。冒険者とは…勇者とはなんなのかを」
「勇気と無謀は違う物だ」
必死になる僕をケインさんが止める。
「おい、もうよせ。ちょっと駄々が過ぎるぞ」
でも僕の懇願についに折れたのか、天使様が言う。
「何も出来ないぞ。今のお前では」
「見てるだけも構いません。得る物は探します、自分で!」
「望んだ結果になる保証は無いぞ」
「それでも…次への勉強に繋がるなら!」
「…」
見かねたケインさんが言う。
「ボウズ、気持ちは分かるがこの人は忙しいんだ、お前が思ってるよりはな。だから相手はできなんだ」
でも天使様が言った。
「いいだろう」
ケインさんが言う。
「な? 駄目だって言ってるだ…え?」
天使様は表情も変えず言う。
「そこまで言うならお前にその資格があるか見届けてやる。ケイン、支度しろ」
そう言いながら、言葉を続ける。
「四人でパーティーを組むぞ、そこの魔族もだ」
言われてローナはやや驚きながら言う。
「わ、私も?」
天使様は言う。
「自分を庇った相手だ、義理ぐらいあるだろう」
「わ、分かったわよ! 望むところよ!」
ローナはなんだか引くに引けないようだ。
そんな中、突然話を振られたケインさんはびっくりした様子で「ええっ、俺もですか? ヴァネッサ様」と言う。
それに天使様は答える。
「隊長で構わん。以前のようにな」
こうして僕らはあっと言う間に四人パーティーになった。




