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見習い勇者と落第魔王の大冒険  作者: 話太郎
出会いと旅立ち
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出会いと旅立ち

 僕の名前はラルス。

 勇者を目指す一五歳。

 今、僕は森の中で天使様の前に立ちはだかっている。

 後ろには魔族の女の子。

 僕はこの魔族の女の子を庇っていた。

 どうして、こんな事態になったのだろう。

 思い返してみたけど、よく分からなかった。


 今から少し前の事。

 王都アルテアから少し離れたリトルアルテの村。

 僕はそこで旅立ちの準備をしていた。

 勇者になるため、この村を旅立つのだ。

 まずは王都を目指す。

 そこで冒険者の基礎を学んだり。

 詳しくはあまり知らないけど、たぶんギルドとかに行くんだろう。

 日課の畑仕事も今日でおしまいだ。


 村のおばさんが声を掛けてくれる。

「王都でも頑張るんだよ」

「ありがとう、努力していい結果が出せるようにするよ」

 そんなやりとりをする。

 すると、男性から声を掛けられた。

「おいガキんちょ、明日の準備はもういいのか」

 中年で金髪を後ろに撫でつけたこの人はケインさん。

 王都から来た調停官だ。

「まったく、子守りも楽じゃないぜ」

「お仕事大変ですね」

「まったくだ、人口把握や環境調査、雑用ばかりだ。ついでに王都に旅立つ子供の案内なんてな」

「一応、勇者を目指すんだけど…」

「ははは、言ってろ」

 彼は笑いながら「お前王都で何やるかとかも把握できてないんだろ」と言われてしまう。


 儀式や洗礼とかじゃないんですか? と聞くと昔話やおとぎ話じゃあるまいし、と更に笑われた。そしてこう続ける。

「お前神様とか信じてる口か?」

 なので僕は言う。

「一応、ここの近くは昔、聖なる神様が降臨した事もある場所がある、なんて言い伝えもあるけど」

「ふ~ん…まあいいけどな」

 そしてケインさんは「ギルドとかへの顔出しとか考えておけよ」なんて言って、どこかへ行ってしまった。

 王都ではやる事もたくさんあるのだろう、そう思いながら準備を進めた。


 それから僕は森に赴く。

 これも最後の日課。

 森の見回りだ。


 木々の生い茂る道、中にあるちょっとした広場、それに森の泉。

 お気に入りの場所の見回りを終え、一息ついた時だった。


「キャーッ!!」

 小さい悲鳴が聞こえた。

 なんだか遠くから聞こえたような、泉とは反対の茂みの方だ。

「な、なんだろう…

 僕は身構えた。声からして女性の声だ。何が起こっているんだろう?

 色々頭を巡らす。

 女性? 人間? こんな所に?

 でもここら辺に凶悪な魔族はあまり居ない筈だし…

 もし魔物だったとしても今は昼だし、魔物の凶暴性も夜よりは低い筈だし…

 色んな考えが浮かんだけどあまりまとまりはしなかった。


 そんな事を考えていると、ふいに空に人影が見えた。

 その人影は女の子のように見え、高度を下げながらこちらへ飛んでくる。

 でもその先には一本の木。

 ゴチーン! という音と共に女の子が止まる。女の子は木にまともに衝突した。

 目を回しながら尻もちを付き、後ろ向きに倒れて動かなくなった。

 ばたんきゅう、と言わんばかりにノビているその子に僕はびっくりした。

 その外見に驚く。

 頭から生えた角、背中の小さな羽、先っちょが三角マークのようになったしっぽ。

 どう見ても魔物だった。

 一応場所によって亜人や獣人が一緒に暮らす都市もあると聞いてるし、場所によっては魔物たちも一緒に暮らす所も伝承などで聞いてはいる。

 でも大概は退治するべきモンスターとして存在している。

 僕もいたずらをする弱いモンスターを懲らしめたりして少しぐらいは経験値もある。

 だから目の前の子を退治するか悩んだ。

 幸い相手は気絶中だ。今なら…

 …少し悩んだ後、それはやめておく事にした。旅立ち前の最初の戦闘が不意打ちで始まるのがなんだか嫌だったんだ。

 我ながら甘いというかそれでいいのかと考えたけど結局剣を鞘から出すのはやめてしまった。

 恐る恐る声を掛ける。

「ねえ、君…大丈夫?」

 勇気を振り絞った声掛けにも相手は反応しなかった。

 よく観察してみると腕に少しだけ怪我をしていた。飛び回っている時に枝にでも引っ掛けたのだろうか。

 擦り傷程度でどうしようか迷いもしたが結局薬草をすり潰して塗って綺麗な布を当て、ハンカチで巻いて固定することにした。


「…うん、これでよし」

 怪我の手当てを終え、泉で水を汲んでくる。帰ってきた所でちょうど女の子は目を覚ました。

 女の子は「ぅ…うん…」と言いながらうっすらと目を開け始めたので声を掛ける。

「大丈夫?」

 こちらの声掛けにボンヤリとして鈍い反応を示すがやがて叫び声をあげる。

「きゃあ! あ、貴方誰? っていうか貴方は人間? 私に何するつもりなの?」と言いながら飛び起きた。

 僕もびっくりして水筒を落としてしまった。そしてこう答える。

「べ、別に何もしないよ。君が木にぶつかって気を失ってたから介抱してただけだよ…」

 おっかなびっくり返答するが女の子は捲くし立ててきた。

「う、嘘つき! 私に乱暴するつもりなんでしょ…!」

「とにかく僕は乱暴なんてそんな事しないよ…」

「騙されないわよ!」

 女の子は僕に警戒心をむき出しにして言う。

「人間に捕まった魔族はそれはひどい扱いを受けるって聞いてるわ! まずは角は切り取られてハンコにされる!」

「金印や石の印が普通だけど最近は動物の角の印もあるらしいね…」

「羽は羽毛布団にされる!」

「鳥の魔物ならありえるかもしれないけど君の羽はドラゴンやこうもり系の羽で布団にはならないよね…」

「尻尾は呪術の道具にされるんだわ!」

「魔法には詳しくないけどそんな使い方あるんだ…」

「それで残った体は骨はスープのダシにされてお肉はお鍋にされて食べられるんだわ!」

「残す所が無い環境に優しい食材だね…」

「絶対に屈服なんかしないんだから!」

「だから何もしないよ…あんまり動くと巻いたハンカチがほどけちゃうよ」

 指を差して教えてあげる。

「…? なにこれ…」

「怪我してたから手当したよ。気付いてなかった? 木の枝とかどこで擦りむいたんじゃないかな? 大した怪我じゃなかったけど一応ね…」

 女の子は自分の腕に巻かれたハンカチを無言で見る。

 そして少しの間を置いてこう告げる。

「こ、こんなので恩に着せようったって無駄なんだからね…」

「別にこの程度でお返しなんて期待してないよ。それより君、やっぱり魔族なんだね」

 そう言われた女の子は「そうよ」と言って立ち上がって胸を張り堂々とした態度になった。

 角を生やしたロングヘアに羽に尻尾、背はほとんど僕と一緒だ。

「この私こそ、魔族の中の魔族、魔王ローナ・マオースグレーテ15世よ!」

「えええっ 君が魔王!?」

「…の予定よ!」

「予定?」

「その…私はまだ上級魔族試験も落ちちゃって…」

「…」

「って何言わせるのよ! 貴方こそ名前ぐらい名乗りなさいよ!」

 ローナというこの女の子はプンスカと怒りながら僕にも名乗るよう促す。

「ご、ごめん、僕はラルス、職業は勇者…希望だよ」

「貴方も人の事言えないじゃない!」

「う…まあそうだけど…将来はきっと勇者に、なれると思う。多分…」

「ああ…もういいわ! でもこれではっきりしたわね。私と貴方はライバルよ」

「ライバル?」

「そう。貴方は勇者になる。そして私は魔王になる。それで私は貴方を倒して世界を征服するの!」

 突拍子もない事を言い始めたので僕はローナを制止する。

「そ、そんな事は駄目だよ!」

「ふふふ、人間界の半分ぐらいは私の物にしてやるわ」

「半分でいいんだ…微妙に妥協してる目標だね…」

「うるさいわね! そんで貴方は私の家来にしてあげる。光栄に思いなさいよ」

「君の家来とか無駄に苦労しそうだね…」

「文句を言わない」

「まあ君の言い分は置いておいて、とりあえず村に戻るにしても、君のその姿じゃね」

「それはなんとかするから」

「あ、それに待って、戻る前に水筒の水を補充しないと」

 僕がそう言うと、ローナは質問してくる。

「どこかに水場でもあるの?」

「うん、すぐそこに泉があるんだけど」

「じゃあそこへ行きましょ」

 そんなやりとりをしながら泉へ向かう。


 ほどなく、そこで彼女は泉を見て言う。

「わあ…綺麗」と感嘆の言葉を漏らした。

 小川のせせらぎ、澄んだ水、飛んでいる蝶々…

「綺麗だよね、僕のお気に入りの場所なんだ」

 そう言う僕に女の子は「うん。とても綺麗」と微笑んでくれた。

 少しだけ二人で無言の時間を過ごす。

 水筒を補充しながら声を掛ける。

「これでよし、それにしても、君は不思議な子だね」

「不思議?」

「なんだかあんまり怖くないって言うか。魔族なのに」

 そう言うと、ローナは少しだけ呆れたように返答する。

「どんな風なのを想像してたのよ」

「なんかこう、すごく怖くて悪い奴、みたいなのを」

「人それぞれよ。魔族も色々。人間だってそうでしょ」

「そうだね…」

 僕は少しだけ思い直して続ける。

「魔王だから怖くてひどい奴、っていうのは決めつけかもしれないね。君はもしかしたら優しいのかもね。でも他のとこで魔族なんて名乗っちゃ駄目だよ?」

「わかってるわよ、魔族なのは秘密ね。羽と尻尾も隠した方がいいわね」

 そう言うとポンッと音がして羽と尻尾が消えた。

 ぼくは驚き言う。

「そんな事も出来るんだ…」

「角だけなら獣人って言えるわよね」

 ふふふ、可愛らしく笑うローナ。

 穏やかな時間だった。

 こうして僕らは泉を後にした。


 村への帰り道の途中、ローナが僕に言う。

「あ、あのさ…手当ての事なんだけど、ありがとう…」

「どういたしまして。すぐ良くなるよ」

 そう返すとローナは笑顔になる。

「うん」

 笑った顔が可愛かった。

 ひょんな事から二人パーティーになった僕らは村へと戻る事にした。



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