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ワイルドダンスは嫌いじゃない。

 手製の手槍を手に林を徘徊する事1週間、時に兎を狙い、時に鳩を狙って槍を投げるルージュ。

 今日も右手に嵌めた皮手袋が手に馴染む。


「・・・この辺の木苺も食べ尽くしましたわ、そろそろだとは思うのですが」

 農家の子供のような作業着を着込み、落ちていたどんぐりを拾い食用に出来る茸を麻袋に入れて行くその姿は、誰も彼女を貴族の令嬢とは思わないだろう。


「・・お嬢様、食べられる胡桃を拾うのは解るのですが、どんぐりを拾って埋めるのはなんでなんです?」


 ルージュはどんぐりを大量に拾っては、林の入り口に埋めていた。

 その謎の行動は最初(森遊び?それとも木を生やそうとしてるのか?)とか思ったりしたが、

(このお嬢様が?そんな子供みたいな遊びをするか?)とセバスを悩ませていた。


「セバス?私だってどんぐりでコマを作ったり、おはじき遊びくらいするわよ?・・・なんてな。

 まぁ見てなって、狩りってのはなにも獲物を追い立てるだけじゃ無ぇんだからよ」


 本来、貴族の狩りは農民を雇い、鍋・釜・フライパン等を叩かせ、音を立てて獲物を追い立てる。

 そうして追い立てられた狐や兎、鹿・猪を矢で射る、競技であり娯楽だった。

 それを8歳の少女が杖か杭のような手槍を使い、草群に投擲して獲物を狩ろうとしている、正直意味が解らない。



「止まれ」静かにルージュが呟き、手槍を握る。


(・・・獣臭?)静かな風に混ざるクソと小便と汗が混ざった獣の匂い。

 本来匂いを消して生きる獣が強い匂いを出している時、それは興奮状態と自分の縄張りから他の動物を追い出す時のマーキング。

 

 そして興奮状態の獣は、自分以外の獣が縄張りを荒らす事を看過しない。

 実力行使で襲い掛かる。


 黒い塊が藪から飛び出し、充血した眼球が敵を捉えた。

「猪か、まさか獲物の方から飛び出してくるとは。お嬢様、ここは私に」

 今の自分は公爵家の庭を管理する庭師、広大な庭では餌を求まれ徘徊する猪は害獣、駆除する事も仕事の一つ。


「鼻の良い猪が、人間を恐れず襲って来るとは不思議ではありますが」

「馬鹿を言え、ヤツは私の獲物だ。

 何のために私がこの辺りの食い物を根刮ぎ食っていたと思うんだよ。


 腹を減らした、食意地の悪いガキだとでも思ってたのか?

 一応公爵令嬢だぞ、私は」


「この辺り周囲40mにはもう木の実も茸も存在しない、そしてどんぐりを埋めて林の入り口まで誘導した結果だ」

 ネズミ捕りだよネズミ捕り、そうセバスに説明した私は猪を前に目を閉じた。


 獣の息遣い、地面を踏み威嚇する体動、気迫と熱と獣臭が混じった野性の闘気。


[スイッチ]それは平和呆けした貴族・王族に混じった[私]が生きる為に憶えた自己制御法。

 私の敵意・怒り・殺意・狂気を意識の底に沈め、日常世界に溶け込む為の手段だ。

 スイッチを切った私は、本来の私を解き放つ。


 ビクッ!飢えた獣は、敵の気配が一瞬全くの別の物に変わった事に筋肉を強張らせる。

 だが獣は飢えていた。


 目に写るのは小さい獣、匂いも足音も変わらない、自分より弱い存在だ。

 縄張りに入り込んだ獲物、そう飢えた獣は判断したのだった。


 一般的に猪は雑食、植物の実・野菜・根などを喰うとされ、他の獣を襲って喰うような事は無いと考えられている。

 しかし実際は生ゴミをあさり、動物の骨や人間の食べかす等も食べている事も報告されている。

 その上50㎏を超えた猪が飼い犬を襲い死亡させる事もある。


 飢えた猪は人を襲い殺傷する、それが自分より体重の軽い者であれば尚のことだ。

 獲物を牙で突き刺し、石頭で突撃し、蹄で踏み潰して内蔵を貪り喰う、それが野性の猪だ。


 ドドッ!足を地面に打ち付け、獲物を睨み付ける猪。

 四肢は大地を踏みしめ、口元からはヨダレを垂らす。


「おっ、お嬢様!」

 興奮状態に入った獣は猟犬を殺す。

 痛みも恐れも無く、ただ目の前の獲物を殺して貪り喰う狂獣になってしまうのです。


 腕の良い猟師はその前に獣の命を断つ、そうしないとこちらが大怪我をする事が解っているからなんですよ。


 狂獣の前に立ち塞がるルージュもまた血を滾らせていた。


(良い殺気だ、そう来なくてはな)


 自分が目覚めて行く、殺意と狂気の炎に当てられ[私]が目を開く。


 タッ!


 先に動いたのはルージュだった、力を込めた1歩が地面を打ち、その動きに反応した猪が走り出す!


 フェイント!

 突撃を始めた猪を真横に跳んで躱し、その無防備な横っ腹を槍で突く!


 ガキッ・・

 堅い腹だった。

 筋肉の鎧の上に脂肪の鎧、針のような獣毛と堅い皮が重なり、幾重にも重なった獣の防御が手槍の攻撃を上回り、木の槍が刺さらない。


「やっぱり血も流れねぇのかよ、やべぇな」


 木の槍が刺さったのはわずかに数㎝、それも筋肉で押し返され弾き返された。

 それに対し、猪の突撃や牙は簡単に自分の身体を引き裂くだろう。


 絶対不利、その状況に思わず私の口角が上がる。


 [勝たなければ死ぬ]

 [生きるか死ぬか]

 自分にはそれしか無い事の再確認。


 ここからが本番だ、『shall wee ダンス?』私と踊ろうぜ可愛い、うり坊ちゃんよ。


 私の槍を弾いた猪が方向を変えて牙を剥く。

「そう来なくちゃな、王子様。wild、Danceは嫌いじゃねぇぜ。

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