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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第2章 グルメな妖精と絶景のブルーメ
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59.武の大会の予選、思わぬ対戦相手

ディルの試合が終わってから、お昼休憩を挟みつつ何試合か見ていると、わたしとアザレアがいる貴族席に王子様がやって来た。


「ク、クラウス様! お越しになるなら事前に言ってくださいませ!」


アザレアがいそいそと自分の前髪やドレスを整えながら立ち上がる。


「休憩がてら寄っただけだ。すぐに戻る」

「そう・・・なんですか」


アザレアが明らかにしゅんと萎れてしまった。いつも無表情な父親とは違って、アザレアは分かりやすく表情がコロコロと変わるから見ていて面白い。


「・・・まぁ、しかし、明日はずっと一緒に見られるだろう。準備の進捗状況は万全だからな」

「そ、そうなんですか! 楽しみにしていますね」


王子様は護衛の人達を後ろに下がらせると、わたしが座っている椅子に座ろうとする。どうやらわたしが小さすぎて、座っていることに気付いてないみたいだ。


 ・・・お尻に潰されるぅぅぅ!!


わたしが手足をばたつかせて1人でパニックになっていると、アザレアが慌てて王子様の肘を掴んだ。


「あっ! クラウス様!お待ちになって!」

「な、なんだ!?」


ガタタン!


アザレアが王子様の腕を引っ張って引き寄せる。2人の顔の距離が凄く近い。そして2人とも耳が真っ赤になってる。


「ねぇ! わたしもいるんですけど・・・」


 恋のキューピットがここにいますよ。


「・・・っ!? ソニア様いたんですか!?」

「ソニアちゃん・・・」


2人は「コホン」と咳ばらいをしたあと、アザレアは澄ました顔で椅子にスッと座って、王子様は気まずそうにアザレアの隣に座った。


「ん? 今入場して来たのはディルじゃないか?」

「あ、本当だ」


王子様が見ている方にはディルが緊張した面持ちで立っていた。


 どうしたんだろう? さっきの試合ではあんなに余裕そうに笑ってたのに・・・。


ディルの視線の先を見ると、そこにはいつもの長い前髪を上げて、片手でナイフを遊ばせてるヨームが立っていた。


 え、なんで? 料理大会だけじゃなくて武の大会にも出るの!? というか戦えるの?


ヨームがニィっと口角を上げて口を開く。


「約束は覚えていますね? ディルさん」

「俺が負けたらソニアと一緒にお前の魔石の研究に協力する、だろ?」


 ・・・ちょい! 勝手にわたしを巻き込まないでよ!わたしは誰のものでもないんだから!


わたしが憤怒の想いを込めてディルの頭に直接言葉を送る。ディルはチラッとわたしを見て親指を立てた。


 なに? 任せておけって・・・? そういうこと?


「そして僕が負ければ、僕の持っている古代の・・・雷の魔石と言うんでしたっけ? それを1つ譲る。・・・で、大丈夫ですか?」

「うん、それで大丈夫だ」


 なるほど・・・、それならディルがヨームの誘いに乗っかってもおかしくない。新しく雷の適性が増えたのに魔石が無いと意味ないもんね。


「対戦相手はディルとソニアちゃんのお知り合いなんですか?」


アザレアがディルとヨームを見たあと、わたしを見る。


「ヨームはね、なんやかんやあって同じ宿に泊まってて、ディルとは同じ部屋なんだよ」

「そうなんですか。なんやかんやあって同じ宿に泊まってるんですね」


アザレアがクスクスと笑いながらわたしを見てくる。


 え、なに? なんでそんな面白いものを見るような目で見てくるの?


わたしが首を傾げながらアザレアを見上げていると、王子様がヨームを見て「ほう」と息を吐く。


「あの髪色は空の地方の出身か。 珍しいな」

「空の地方? じゃあここは何地方?」


 8年この世界で生活してきたけど、そんな単語初めて聞いたよ。


「ここは水の地方ですよ。・・・あ、そろそろ試合開始ですよ」


トトガが「始め!」と叫んだ瞬間、ヨームとディルがお互いに向かって走り出す。ヨームがナイフで、ディルが拳なので、リーチの差を考えるとディルが少し不利だ。


 ・・・でも、さっきは普通の剣を持った相手に余裕だったんだから、それに比べるとリーチの短いナイフならまだやりやすいよね。知らんけど!


「ディルー!頑張って~!!」


もうすぐでお互いの手が届く距離、というところで先にヨームがナイフを振り上げた。まだヨームのナイフがディルに届く距離ではない。それを見たディルは警戒して足を止め、ヨームにナイフを空振りさせようとする。


 ・・・ああ!危ない!ディル! 避けてぇ!


わたしの角度からは見えた。ヨームが今振り上げた手に持っているのはナイフではなく、直剣だ。ヨームが直剣を振り下ろした瞬間、ディルが慌てて後ろに転がって回避した。


「・・・あっぶなっ。いつの間にナイフから剣に変えたんだ?」

「僕、こういうの得意なんですよ。それにしてもよく避けれましたね。角度もタイミングも完璧だと思ったのですが・・・」


 そう言いながらヨームはわたしを横目でチラッと見た。


「まぁ、いいでしょう。僕も人の事を言えるような戦い方はしてないですし」

「・・・故意じゃない」

「いえいえ、それもあなたの力ですよ」


 もしかして、ディルにわたしの心の声聞こえてた・・・?


ディルは立ち上がって軽く息を整えると、キッとヨームを睨んで手招きする。ヨームは「乗ってあげますよ」と言わんばかりの笑みを浮かべて、剣を片手で構えて走り出す。ディルはじっとヨームの剣を見つめている。


「ハァ!」


ヨームが片手で剣を横薙ぎに振るった。ディルはそれをしゃがんで躱すと、一回戦の時のように素早くヨームの懐に入る。そのままヨームを吹き飛ばすのかと思ったけど、そうはならなかった。


「読めてますよ」


ヨームが剣を持っている手とは反対の手でナイフを持って、ディルに突き刺そうとする。


 そんなことしたら刃を潰してても死んじゃうよ!


わたしの心配は余所に、ディルは平気そうな顔で叫ぶ。


「そんなもの関係ない!」


ディルはしゃがんだ体制のままヨームに全体重をかけて体当たりした。


「ぐっ・・・」


ヨームは思わず剣を手放して、数メートル後ろに転がって、お腹を抑えて苦しそうにうずくまってしまった。ディルが追撃しようとヨームとの距離を縮める。すると、ヨームはプルプルと震えながら手を挙げた。


「こ、降参でふぅ・・・うぅ」

「・・・はいぃ?」


 え~・・・打たれよわぁ・・・


「うっ、ぐぅ・・・ぼ、僕は研究者ですよ。多少武の心得があるだけで、こんなの畑違いなんですよ・・・」


審判のトトガが拍子抜けしたような顔で「勝負あり」と宣言したあと、ヨームは生まれたての小鹿のように震えながら立ち上がって、係の人の肩を借りて退場していく。


 まぁ、でも、相手がディルじゃなかったら勝ってたかもね。


「あの少年も中々の使い手に見えたのだが・・・」

「まぁ。ご自分で研究者と言っていましたし・・・」

「ディルが強かったんだよ!」


わたし達がそれぞれの感想を述べたあと、王子様は「明日の料理大会はよろしくお願いします」と頭を下げて退室していった。わたしは少し浮いて王子様が出ていったのを確認して、にんまりとした顔を作ってアザレアを見る。


「アザレアは王子様のことが好きなんだ?」

「はい・・・え!? いえ、殿方としてではなく! 王子として! そうですわ! グリューン王国の未来を担う王子として好ましいという意味ですわ!」


 耳まで真っ赤にして言われても説得力ないよ~。


「な、なんですの!? その目は!」

「べっつに~」


 アザレアが可愛い。このツンデレっぽい雰囲気なのに全然ツンツンしてないのがいいよね。


「そ、そういうソニアちゃんはどうなんですの? ディルのことはどう思ってるんですか?」

「ディル? ディルは大切な友達だよ」

「友達ですか・・・恋情とかは・・・?」

「無いよ」


 ・・・だって、いい歳まで生きた記憶があるわたしからしたらディルなんてまだまだ子供だし、それに・・・


「わたしは妖精だし、ディルは人間だもん」

「それはあまり関係ないように思うのですが・・・、現にソニアちゃんとディルは友達じゃないですか。もう一歩踏み込めばいいのです」


 ・・・って言われてもねぇ? 想像してみてよ、自分の何十倍も大きい人と恋できる?


アザレアと恋愛観についてあれやこれやと話していると、試合が終わって本戦出場が決まったディルが「応援ありがとな」と言いながらわたしの隣に座った。


「お疲れ様。楽勝だったね!」

「そうか? ヨームとの試合は割と危なかったぞ」


 ディルが「ありがとな」と小さな声で言ってわたしの頬を突っついた。


「ヨームはどうしたの? ヘロヘロだったけど」

「少し控室で休んでから宿に戻るってよ」

「そうなんだ。・・・それにしても、ヨームはいつの間に大会の受付を済ませてたんだろうね」


 ちょっと前までこの島にすら居なかったのにね。


「昨日、俺が雷の魔石を返したあとに急いで行ったらしいぞ。朝起きたらいきなり僕も大会に出るので・・・って言われて、俺も驚いたんだ」

「へ~・・・」


 聞いといてアレだけど、割とどうでもいい情報かもしれない。



それから、ディルの解説を聞きながらアザレアと一緒に何試合か見て、わたしとディルは宿に戻った。


「おう、ディル。無事に勝ったらしいな! ヨームから聞いたぞ!」


玄関扉を開けた瞬間、デンガがブンブンと箒を振り回して掃除しながらそう言ってきた。


「なんとかな・・・、ちょっと危なかった」

「ディル君おめでとう。ヨームがディルさんが来たら起こしてくださいって言ってたわよ」


ジェシーが階段の先を指差しながら言った。食堂にはデンガとジェシーと掃除をしているカカしかいない。プラティとマリちゃんは厨房で、ヨームは部屋で寝てるみたいだ。


「今日は食堂の手伝いはいいから、明日に備えてしっかりと休息をとっておいで。あ、アンタは手伝いなよ」


カカがデンガの頭をペシッと叩いた。わたしはディルと一緒に2階に上がって、男性側の部屋に入る。


「あ、ディルさんにソニアさん、おかえりなさい」


寝てると思ってたヨームがベッドに座って自分のリュックの中を漁っている。


「なんだ、起きてるじゃん」

「さっき起きたんですよ」


そう言いながら、ヨームがディルに手招きする。


「なんだ?」

「忘れたんですか? 勝負に賭けた物を」

「あぁ、雷の魔石か。今くれるのか?」

「はい、これです」


ヨームがリュックの中からわたしが頑張って両手で抱えられるくらいの大きさの黄色い魔石を取り出して、ディルに渡した。


「よく見るとソニアの髪の方がずっと綺麗な色してるな。これはただの黄色で、ソニアの髪はもっと、こう・・・ふわふわしてる」

「それ、色と関係ないじゃん!」


 確かにふわふわだけど!


後ろで結んでいる自分の髪の毛を触りながらディルを睨んでいると、ヨームが「コホン」と咳払いした。


「魔石の説明をしたいんですけどいいですか?」


ヨームが咳ばらいをして、ディルが持っている雷の魔石を指差す。


「これは昨日ディルさんが発動させた雷の魔石と同じ属性の魔石ですが、同じ魔石かは分かりません」

「「・・・?」」


わたしとディルが揃って首を傾げた。


「同じ属性ですが、発動すれば同じ魔法が発動するかは分からないんです」

「そうなのか・・・」

「気になるね~、今発動させちゃえ!」


わたしがそう言うと、ディルがジーっと魔石を見つめた。


「ちょっと! 今何しようとしましたか!?」


ヨームが慌ててディルの手をバシッと払った。


「え? 試しに発動してみようかと・・・。だって気になるだろ?」

「気になりますが、ここではやめてください。もし危険な魔法が発動したらどうするんですか。やるなら砂浜でやってください。僕も行きます」


ヨームがそう言うので、わたし達は夕食までの間に砂浜で雷の魔石を発動させてみることにした。


 ・・・ねぇディル。わたし達、なんだかんだとヨームの研究を手伝ってない?

読んでくださりありがとうございます。試合中アザレアは誰を見ていたんでしょう?

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