60.魔石の等級
「じゃあ発動させるぞ?」
ディルが波打ち際に立って魔石を海側に突き出して言った。
「おっけ~!」
「いいですよ」
わたしとディルが返事すると、ディルが「おりゃ!」と魔石に魔気を流す。すると、魔石からパチパチと静電気のような音が鳴った。・・・ただそれだけだ。
「ん~? 何も起こらないな」
ディルが魔石を見て首を傾げる。
「試しに何かに当ててみてくれませんか?」
「何かって・・・ここには砂しかないぞ」
そう言ってディルは屈んで魔石を砂浜に付けた。
「うわっ! 何か付いた!?」
ディルが急に驚いた声を出したので、わたしは魔石に近付いて何が付いているのか確認してみる。魔石には黒い小さなトゲトゲがたくさん付いていた。
・・・これは・・・砂鉄?
「砂鉄ですね」
わたしと一緒に魔石を食い入るように見ていたヨームがそう断定した。
「サテツ・・・?」
ディルが「何だそれ」とヨームを見上げる。
ディルは知らないのかな? まぁ、あの村には学校とか無かったし、知らないのも当然か。
「確か・・・凄く細かくなった鉱物だったかな? 簡単に言うと砂みたいな鉄だよ」
「ソニアさん、よく知っていますね」
「え、ああ、うん! ミ、ミドリちゃんに教えてもらったの!」
本当は人間だった頃に小学校で学んだんだけど、そうとは説明できないもん・・・。
「ミドリさんがどなたかは存じませんが、ソニアさんの言った通りですね。・・・でも、どうしてその砂鉄がくっ付くのでしょうか? ますます雷という現象が分からなくなってきました」
・・・雷じゃなくて電気だけどね。ま、どっちでもいっか。
「この魔石が磁石になってるんじゃない?」
わたしは魔石を指差してヨームを見る。ヨームは不思議そうに首を傾げる。
「ジシャクとはなんですか? ディルさんは知っていますか?」
「俺も知らない、初めて聞いた」
ディルが魔石を持ったままフルフルと頭を振った。
この世界には磁石がないの? 磁石が何で出来てるのか詳しくは知らないけど、もしかしたら電気と関係があるのかもしれない。
「えっと、こうやって鉄で出来た物がくっ付く鉄で・・・」
わたしは小学校の教科書を必死に思い出しながら、身振り手振りを使って何とかヨームとディルに説明した。
「・・・ていう感じの物が磁石なんだけど、わたしの説明で分かった? 分かったよね!?」
「S極とN極・・・反発しあう・・・恋人・・・面白いですね。磁石とは」
・・・恋人? わたしそんなこと言った?
「よく分かんないけど、鉄がくっ付くってことだよな!」
ヨームはわたしの下手くそな説明でも恐らく理解したみたいだけど、ディルは結果だけ分かってればいい、みたいなスタンスだ。
「でも、これは戦闘には使えそうにないな。武の大会の本戦で使えないかと思ったんだけど・・・」
ディルが残念そうに魔石の発動を止めて、軽く砂鉄を払ってからポケットにしまった。
「どんな魔法が発動しても、武の大会では使用出来ませんよ?」
そう言ったヨームが、何も聞いてないのにそのまま魔石の説明を始める。
「魔石はその強力度から下級、中級、上級、特級で区分されてるのはご存知ですよね?」
「知ってるぞ」
「わたしは知らないよ」
ヨームはわたしを面倒くさそうに見たあと、ディルに「あとでディルさんから説明してあげてください」と言った。
あとからディルに聞いた話だと、魔石はその殺傷能力や魔法の種類で4つの段階で区分されるみたいで、危険な魔物から採取される魔石は上級や特級などに区分される物が多いとか。デンガが持っている剣に嵌められている魔石がそれで、上級魔石らしい。ドラゴンの魔石だと言っていた。
「武の大会では下級から一部の中級魔石までしか使用出来ません。僕の見解ではその雷の魔石は下級ですが、一般の方には区別できないでしょう。よって区別できない魔石は使用出来ないと思います」
あれ? そういえばディルが今持ってる闇の魔石って・・・
「ねぇ、ディルが王子様に貰った魔石は大丈夫なの? 確か結構良い魔石みたいなことを王子様が言ってなかった?」
「あ・・・この魔石は使えるのか?」
ディルは王子様から貰った闇の魔石をヨームに見せた。綺麗に丸い形に加工されていて、夕日が反射している。
「闇の魔石ですね。身体強化の魔法ですよね?」
「うん、そうだな」
「なら大丈夫だと思いますよ。闇の魔石は特殊な物を除けば中級以上はありませんから」
「そうなのか?」
「はい、特殊な物なんて滅多にお目にかかることは無いでしょうし、それ以外は全て身体強化の魔石です。身体強化は持ち主によって効果がピンキリですから、区分しづらいのでしょう」
「まぁ、使えるなら何でもいいよ」
そうだね。ディルのそういう適当なところわたしと似てるね。
魔石の発動という目的を果たしたわたし達は、夕食に間に合うように少し急ぎ目で宿に帰った。食堂ではちょうどカカとプラティが夕食をテーブルに並べている最中だった。
「明日はいよいよ武の大会の本戦と料理大会だね!」
わたしがマリちゃんに取り分けて貰った鳥肉を食べて大胆に口の周りを汚しながら言うと、マリちゃんがすかさずハンカチでわたしの口を拭いてくれる。
「んぐんぐ・・・デンガとディルは何を賭けることにしたの? 前に勝った方がどうのこうのって話してたよね?」
「負けた方が勝った方の言うことを何でも聞く、ってことになったぞ」
・・・小学生か!
「マリちゃんはヨームに何をお願いするの? ヨームは勝ったらマリちゃんに研究を手伝わせるとかほざいてるんでしょ?」
「ほざいてるってなんですか・・・」
ヨームが不満そうな顔でわたしを見て来るけど、実際にほざいてたんだから間違ってない。
「ヨームには妖精さんのお話をたくさん話してもらうの、それから私が使えそうな魔石を貰って、帰りにお父さん達の荷物を持って貰って、えっと、それからそれから・・・・」
「ちょ、ちょっと待ってください! 多くないですか!?」
ヨームが慌てて口の中の物を飲み込んで言う。マリちゃんは首を傾げながらヨームを見て口を開く。
「多くないよ、ヨームが少ないんだよ」
「じゃあ、僕も勝った時の条件を増やしていいんですか?」
「ダメ」
口に鳥肉を含んでぷっくりしたほっぺたをしたマリちゃんがヨームを睨んだ。
・・・マリちゃん強し!!
わたしは今のやり取りを黙って見ていたデンガに視線を移す。
「そういえば、デンガのお父さんに会ったよ! お嫁さんを見たいって言ってたから明日はジェシーを紹介したらいいよ!」
「親父か・・・、そうだな。大会の合間か、終わったあとにでも時間があれば紹介するか。いいよな、ジェシー?」
「もちろん、私も挨拶しておきたいもの」
ジェシーが柔らかい微笑みを浮かべて言う。
「私も会いたい!」
わたし達の会話を聞いていたマリちゃんが勢いよく挙手した。
「そうね、マリちゃんも家族だもの。一緒に行こうね」
「うん!」
うんうん・・・いい笑顔だね。こういう家族の在り方を見ていると、人間だった頃のわたしの家族を思い出して少し切ない気持ちになっちゃうよ。妹、元気かなぁ・・・。
「ソニアちゃんも一緒に行こう? 私の大切な妹だもん!」
「え・・・あっ、うん!」
マリちゃんが愛情のこもった瞳でわたしに微笑みかける。
わたしがマリちゃんの姉だけどね!
夕食を終えたわたし達はそれぞれの部屋に戻って寝る準備を進めて、ベッドに潜る。マリちゃんは緊張して眠れないのか夜中に何度も寝返りを打っていた。わたしは何度もマリちゃんに潰されそうになった。
「おはようソニアちゃん・・・」
「おはようマリちゃん。眠そうだね?」
「ぅん~・・・」
マリちゃんが眠そうに目を擦りながら起き上がる。
「まだ出発まで時間あるし、ギリギリまで寝ててもいいわよ? 昨日はあんまり寝られなかったんでしょう? ソニアちゃんが何度もマリちゃんの寝返りで潰れそうになってたわよ」
ジェシーも起きてたんだ・・・気付いたなら助けてよ。
「ごめんなさいソニアちゃん・・・」
マリちゃんがペコリと頭を下げる。
「ううん、大丈夫だよ。緊張して眠れなかったんだよね。仕方ないよ。時間になったら起こしてあげるからマリちゃんは気にせずに二度寝してて!」
「ありがとう・・・」
マリちゃんが布団を被ったのを確認して、わたしは椅子に座って髪をとかしているジェシーを見る。
「ジェシーも夜中に起きたの?」
「ええ、だってソニアちゃん。マリちゃんの寝返りを躱すたびに私の上に乗ってくるんだもの、そりゃあ、起きるわよ」
「そ、そっか・・・ごめんなさい」
「フフッ、いいわよ。まったく重くなかったしね」
ジェシーが微笑みながらわたしを手招きする。わたしは招かれるままにジェシーの元に飛んでいく。
「なあに?」
「ソニアちゃん、料理大会の始めに挨拶をするんでしょ? せっかくだから少し髪型を変えてみない?」
「うーん、わたしはこのままでもいいと思うけど、まぁ・・・暇だし、好きにしていいよ」
わたしが了承すると、ジェシーは自分が使っていたくしで、慎重に優しくわたしの髪をとかし始めた。
「ソニアちゃんの髪って綺麗よね。色もそうだけど、手触りがふわふわなのにサラサラで・・・赤ちゃんみたいね」
ジェシーが良く分からないことを言いながらわたしの髪を結ぶ。
確かに、妖精になってからは全く髪のお手入れをしてなかったけど、不思議と髪質は変わらないんだよね。それどころか長さも変わらないし。
「ほら! どうかな? 可愛くできたでしょ?」
わたしの髪を結び終わったジェシーがそう言ってわたしの前に鏡を置いた。わたしは軽く頭を左右に振って確認する。髪の上部分の左右を少しまとめられていて、後ろ髪はそのまま残っている。いつもは半分隠れていてあまり見えない尖った耳が目立つ。
・・・ツーサイドアップだ。ちょっと子供っぽい気がするけど可愛いからいっか!それに、わたし8歳だし!
「良い感じだね! ありがとうジェシー!」
わたしが鏡の前でクルクルと回っていると、コンコンと窓が叩かれる音が聞こえた。わたしとわたしのことを微笑ましそうに見ていたジェシーが窓の方に視線をやると、窓の外で水の妖精がこちらに手を振って微笑んでいた。
読んでくださりありがとうございます。小さいヘアゴムをどこからともなく取り出したジェシーでした。




