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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第2章 グルメな妖精と絶景のブルーメ
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51.わたし暴走、波の妖精便乗、ディル嫉妬

「皆さん息を止めてくださいね~・・・それ!」


波の妖精が子供達を海の一ヶ所に集めて大きな声で言うと。子供達を巻き込んで水の竜巻が上に巻き上がった。


 危ない危ない!危ないよ!?親御さんも笑って見てないで止めてよ!


「・・・というか、これってもう・・・もはや波の域を超えてない?」

「ふふふん、年の功ですよ。長く存在してる妖精ほどこういう技に長けてますからね。なんせ暇ですから!」

「それは凄く同感。私はまだ8年しか生きてないけど緑の森にいた時はもう・・・凄く退屈だったからね」


わたしがうんうんと頷くと、波の妖精に「8年なんてまだまだですよ」と鼻で笑われた。

 

「・・・おっと、そろそろ危ないですね」


波の妖精が手をパンっと叩くと、水の竜巻が崩れて巻き上げられていた子供達が楽しそうにわーきゃーと叫びながら海に落ちた。


「そういえば、波の妖精はどれくらい前から生きてるの?」

「私は水の妖精が最初に願って生まれた妖精の1人だから・・・2000年くらい前ですかね」

「そしたら、それより前は海に波は無かったの?」


 だって、雷の妖精であるわたしがいなくなれば、この世界から雷が無くなるんでしょ? じゃあ、波の妖精がいなかった時の世界っには波が無かったことになるよね?


「どうなんでしょう? そんな疑問今まで持ったこと無かったですね。あ、皆さんあまり沖の方に行かないでくださーい!危ないお魚がいますからー!」


子供達が海からぞろぞろと上がって来て、わたし達の周りに集まり始めた。


 ・・・あっ、そうだ! わたしマリちゃん用の小さいお魚を捕まえに来たんだった!


「ねぇねぇ、波の妖精。わたしこれくらいの小さいお魚を捕まえたいんだけど・・・」


わたしは胸の前で両手を使って「これっくらい」と長さを表す。


「そんな小さい魚見たことないですよ」


波の妖精がわたしの手の形を真似しながら首を横に振る。


 あ、間違えた!わたしサイズで伝えたらそうなるよね・・・


「えっと、そうじゃなくって。わたしが2.3人分くらいの大きさのお魚・・・いる?」


わたしがそう言うと、波の妖精がわたしの頭からつま先まで視線を流して、一つ頷いてからいい笑顔で口を開く。


「それくらいならたくさんいますよ! 何匹くらい欲しいんですか?」

「うーんっとね。いっぱい欲しいかな。マリちゃんが沢山練習できるように!」


 幸い食べてくれる人なら居るしね。ディルとかデンガとか・・・宿のお客さんに出してもいいかもね。


「ちょっと待っててくださいね。今連れて来ますから!」


 ・・・ん? 連れて来るって?


波の妖精が「子供達のことお願いしますね」とわたしの肩を叩いて、綺麗なフォームで勢いよく海に飛び込んでいった。


「あれ?波の妖精はどこに行ったの?」


海から上がって駆け寄って来た子供達の1人が、わたしの隣を見ながら言う。


「お魚を捕まえて・・・? 連れて来るんだって!」


 わたしも波の妖精が何をするのかよく分かんないんだけどね。


「お魚ってカカおばさんのとこで食べたやつ?」

「そうだよー、美味しかった?」

「うん!美味しかった!また食べたい!」


「僕も!」「私も!」と元気に可愛く挙手する子供達。


 癒される~。


わたしと子供達の様子を微笑ましそうに見ていた親達が「お魚」と聞いて、近くに寄って来て聞き耳を立てているのが視界の端に見える。


「私、お母さんから聞いたよ!料理大会やるんでしょー?」

「僕も!お母さんが参加したいけどお魚が無くて練習出来ないって・・・」


聞き耳を立てていた親達の1人が「旦那に捕りに行かせたいんだけど・・・」と眉を下げてわたしを見下ろす。


親達の話によると、料理大会に参加しようと思い、夫や成人している息子とかに魚を捕りに行かせようとしたのだが、魚の捕まえ方が分からないらしい。どうやら、メバチを軽々と倒して持ってくるデンガとディルはまともじゃないっぽい。


 そうだよね。この世界で釣りとかしてる人って見たこと無いもん。


「雷の妖精~!お待たせしました~!」


沖の方から波の妖精が満面の笑みで手を振って戻って来た。


「あれ、お魚は?」

「ほら、海を見てください!」


波の妖精がビシッと海を指差す。すると、沖の方から色々な種類の小魚の大群がパシャパシャと跳ねながら近づいて来るのが見えた。


「おお!すごーい!どうやって連れて来たの?波で追い込んだとか?」

「それでも出来ますけど、もっと確実で、色んな種類のお魚を連れてこれる方法があるんですよ!」


波の妖精が「聞きたいですか?」と得意気な顔でふんぞり返って言う。


「聞きたい聞きたい!」

「大きな海の魔物を使って追い立てるんですよ!ちょちょいっとちょっかいをかけて怒らせて来ました!」


波の妖精の顔に「褒めてください」と書いてあるのが見える。


「そうなんだ~・・・え?」


 今、なんて!?・・・怒らせて?


グォオオオオオン!!


小魚の大群の後ろから恐竜の頭みたいなものがザッパーンと出て来た。それも巨大な、一軒家くらいの大きさの頭が。それを見た子供達が自分の親の後ろに怯えるように隠れる。親達は口をポカーンと開けながらも自分の後ろにいる子供を庇っている。


「なにあれ!?なに!?」


わたしは波の妖精の肩を掴んでユッサユッサする。


「あれは、モッサモサウルスですよ」

「はい!?」


 もっさもさ・・・なんて?


「腹部にもさもさと毛が生えてることから、人間達がそう名付けたそうですよ」


波の妖精が「変な名前ですよね」と笑う。


 なにそれ、泳ぎずらそう・・・じゃなくて! どんどん近付いてくるけど大丈夫なんだよね?


モッサモサウルスに追われた小魚達が砂浜に打ち上げられてピチピチと跳ねている。そのすぐ後ろでモッサモサウルスが小魚とあっけに取られて動けないでいる親子達を交互に見ている。


「大丈夫なの?危険はないの? どっちを食べようかなグヘヘ!・・・ みたいな顔してるけど!」

「大丈夫ですよ。モッサモサウルスはああ見えて温厚な性格ですから。怒らせたりしない限り人間を襲ったりはしませんよ」

「なら、安心だ~・・・」


 ・・・あれ? さっき波の妖精はちょっかいをかけて怒らせて来ましたって言ってなかった?


モッサモサウルスが砂浜に上がり、短い手足を素早く動かして、般若の如き形相で親子達の方へ走り出した。


「めっちゃ怒ってるよ!! こわい!」


 ええい!!


ドカー―ン!


わたしはモッサモサウルス目掛けて全力で雷を落とした。モッサモサウルスは力なく「グオオン」と鳴いた後、ドスンと体を落として動かなくなった。目の前で一連の流れを見ていた親子達が口を開けっぱなしにしたまま固まってしまった。


「・・・雷の妖精!凄いですね!」


波の妖精が両手をブンブンと振ってキラキラの目でわたしを見る。それを聞いた子供達が興奮ぎみにわたしの元に駆け寄って来た。


「今のなにー!?」「ドカーンって凄かった!」「あんなの初めて見た!」「妖精さんかっこいい!」


波の妖精と子供達が次々とわたしを褒めてくれる。


 なになに! わたしそんなに凄かった? えへへ~・・・もっと褒めてもいいんだよ?


「ねぇ、妖精さん! 今のもっかいやってよ!」


子供達が期待の籠った瞳でわたしを見上げる。


 しょうがないなぁ~、ここはお姉さんが一肌脱いじゃおっかな!


「いいよいいよ!ばんばんやっちゃうよ!」


わたしは腕を上げて、無い力こぶを叩いて笑う。


「あ! それなら的が必要ですよね! いっぱい連れて来ますね!」

「うん!じゃんじゃん連れて来てよ! ばんばんやっつけちゃうから!」


波の妖精が「任せてください!」とまた海に潜っていく。


 危険な魔物でも、全部やっつけちゃえば大丈夫だよね? 子供達の期待には応えなきゃ!


暫くすると、わたし達がいる砂浜に向かってくる大きな魔物の列が見えて来た。先程のモッサモサウルスに加えて、見たことの無い大きな魔物が沢山いる。巨大なタコ、巨大なイカ、巨大なカメ・・・それら全てにわたしは次々と雷を当てていく。


「えーい!」ドカー―ン!

「いえーい!」ドカー―ン!

「いっえーい!」ドカー―ン!


 爽快だー!!


体感で30分くらい経っただろうか・・・最後の一体に雷を落としたわたしは、とってもスッキリした気分で倒れた巨大な魔物達を見る。


 ・・・ふぅ。気持ち良かった!


子供達が魔物の死体を近くで物珍しそうに観察している。わたしはそれを見て少しやりすぎたかな? ・・・と思ったけど、頭を振ってすぐにその考えをポイした。


「・・・おいソニア」

「なあに? ディル・・・ってディル!?」


後ろを振り返ったらディルがいた。凄く不機嫌そうな顔のディルが腕を組んで立っていた。波の妖精「黒い少年だ」とディルを見る。


「どうしてディルがここに!?」

「どうしてって・・・ヨームがいないか見に行くっていっただろ?」

 

 あ~、そういえば遺物のところに行くって言ってたね。


「それよりも、だ! ソニアは何をやってるんだよ! 雷の音が聞こえたから、ソニアに何かあったのかと思って急いで来てみれば、見たことのないでっかい魔物がたくさんいるし、それに向かって雷を落としてるソニアは見たことないくらい楽しそうな顔してるし・・・」

「いや、ちがうの。これは・・・」

「俺といる時よりも楽しそうな顔してたし・・・」


 ・・・え、そこ?


ディルが口を尖らせてわたしを睨む。


ディルといる時は「楽しい」よりも「幸せ」って感じなんだけど・・・どう伝えたらいいんだろ?


わたしが何て言おうか迷っていると、ディルの後ろからアザレアが息を切らしながらも優雅に走ってくるのが見えた。


「ハァハァ、これは・・・どういう状況ですか?」


後ろにはゲダイもいる。2人は周囲を見渡して首を傾げた。砂浜には巨大な魔物が何体も横たわっていて、その周りには小さなお魚が散乱している。子供達がそのお魚を拾って親の元に運んでいる。赤ん坊を抱いた女の人がいそいそと片手で拾っている姿も見えた。


「アザレアとゲダイまで・・・何でここに?」

「俺と一緒に居たんだ」


ディルが「な?」とアザレアを振り返る。


「ええ、わたくしはソニア様に運営側で用意するお魚について相談しようと思ってディルに同行していたのですが・・・、相談は必要なさそうですわね」


アザレアが砂浜に散乱しているお魚を呆れたような顔で見て言った。子供達が拾い終わってもまだまだ余っている。


「それで、ここで何があったのですか?」


わたしはディルとアザレアとゲダイに、水の山から今までのことを愉快に楽しく説明した。


「お父様から聞いていましたけど、確かに人間とは違った感性をお持ちのようですわね・・・」


アザレアが頬に手を当てて首を傾げる。


 いいえ、同じ感性をお持ちのつもりです・・・。


「この魔物達はどうしたらいいんでしょうか?」


ゲダイが遠い目で言う。


「このまま放っておくのはまずいですわよね? 悪いのだけれど、ゲダイはこのことをクラウス様に報告して、水の適正がある者数名にメバチの魔石を持たせてこちらに向かわせてもらいましょう。お屋敷の前庭に運ばせて一体ずつ解体します」

「分かりました」


ゲダイが息が整わないままに町の方へとUターンしていった。


「それにしても、グリューン王国以外では普通に妖精さんがいるんですわね」


アザレアが波の妖精とじゃれ合っている子供達を羨ましそうに見て言った。


「アザレアも混ざってきたら?」

「さすがに貴族がそのようなことは出来ません。ですが、その・・・」

「ん?」


わたしがコテっと首を傾げると、アザレアがわたしを見ながら少し恥ずかしそうに口を開いた。


「ソニア様の・・・頭を撫でてもよろしいですか?」

「いいよ、はい!」


わたしがアザレアの近くに寄って自分の頭を差し出すと、アザレアがそーっとわたしの頭の上に指を置いてクリクリと優しく撫でた。


 ・・・うん、悪くない。うんうん。


満足がいくまでわたしの頭を撫でたアザレアは、これからくる魔物の回収に来る人達の邪魔にならないように、周りにいる親子達や雷の音を聞いて来た野次馬達に解散するように言い、子供を連れた親達がわたしにお礼を言って帰っていく。赤ん坊を抱いた女の人もわたしに向かって一応軽く頭を下げて、やや青ざめた顔で去って行った。


 あの女の人、わたしが交換したお金で少しは栄養を取れてるといいんだけど・・・。近付いたら逃げちゃいそうなんだよね。


波の妖精がわたしに滞在先を聞いたあと、「会いに行きますね!」と言って水の山に飛んで行った。そして、ディルには残った小さなお魚を何匹か回収して貰って、魔物の回収に来る人達を待つ。


「違う、そうじゃない。もっと脇を占めるんだ」

「こう? シュッシュッ!」

「それと、口でシュッシュッて言う必要はない」

「もう・・・つまんない!」

「あ、来ましたね」


わたしがディルに格闘技を教えて貰っていると、いつの間にか砂浜に戻って来ていたアザレアが、わたし達を生暖かい目で見ていることに気が付いた。わたしが手を振ると笑顔で振り返してくれる。


「アザレア、どうしたの?」

「魔物の回収をする作業員達を連れて来たんですよ。監督が必要ですから・・・」


そう言ったアザレアは作業服の人達に次々と指示を出していく。作業員達はメバチの魔石を使って巨大な魔物を運んで行く。一体につき5個の魔石を使って浮かせている。


 ・・・あんなに大きな魔物がいっぱい。いくら大きなお屋敷の庭だからって流石に全部は入らないんじゃないかな?


わたしの心配は余所に、巨大な魔物達がどんどんと運ばれていく。最後に小さなお魚を入れた水球を見送ったあと、アザレアが「大会の前に一度会いに行きますわね」と言って帰っていった。


「それじゃあ、一応遺物のとこに行ってみるか」

「ああ、ヨームね。これだけ騒いでて出てこないんだからいないと思うけど」

「一応だよ」


ディルと一緒に岩陰にある遺物のところに行ったけど、案の定ヨームはいなかった。そのかわり遺物・・・ボートの至る所に貼り紙が付けられていた。


『この遺物はカイス妖精信仰国の所有物です。許可なく触れた者には厳罰が下されます』


「なんだこれ? 多分ヨームが付けたんだよな?この紙」

「そうじゃない? こんなことするってことは、そのうち戻っては来るってことだよね?」

「分かんないけど。まぁ、ここで考えてても仕方ないか」


 なんか、妖精信仰とか言う凄く嫌な感じの単語があるけど、ヨームの出身国なのかな? この国には近付かないようにしよう。


そして、わたしとディルは小さいお魚をお土産に持って宿に戻る。途中でディルがわたしの頭を撫でてくれた。

読んでくださりありがとうございます。もっさもさ

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