50.波の妖精と
「なぁ、武の大会って俺でも参加出来るか?今からでも間に合うか?」
ディルがお財布の中身を心配そうに確認しながらゲダイに聞く。
「間に合いますよ、この料理大会と同じで当日までに私の・・・昨日来て頂いた屋敷で受付を済ませてもらえれば。ただ、初参加の方や推薦状の無い方は一日目の予選で勝ち抜いてから二日目の本戦に出場することになりますが、大丈夫ですか?」
「うん、大丈夫だ。・・・そしたら、今日の内に受付を済ませるかぁ。ついでにその木札配るの手伝うぞ」
そう言って、ディルはテーブルに置いてあったゲダイの木札を半分持った。
「ソニアはどうするんだ? 一緒にくるのか?」
「ううん。わたしは今日、水の妖精のところに行くつもりだから」
昨日マリちゃんが大きなお魚に苦戦してたからね。マリちゃん用の小さなお魚を捕まえる為にも、水の妖精か波の妖精のどっちかの協力が欲しいんだよね。
「1人で大丈夫か?」
「大丈夫だよ、上空を飛んで行くから」
「そうか・・・」
ディルが少し残念そうに返事して、「帰りに遺物のところに寄って一応ヨームがいないか確認してくる」と言って、ゲダイと一緒に宿から出て行った。
「あら、ソニアちゃん1人?ディル君はまだお部屋?」
ジェシーがまだ眠そうなマリちゃんの手を引いて階段を降りてきた。
「おはよう、ソニアちゃん・・・ふぁ~」
「おはよう、マリちゃん。ディルは出掛けたよ。武の大会に出るんだって。お金の為に」
マリちゃんのゆらゆらと揺れる頭の上に乗って、ジェシーを見上げて「世知辛いね」と笑う。
「ふふっ、先立つものが無いと困るものね。デンガとディル君どっちを応援しようかしら?」
「そこはデンガじゃないのー? ジェシーが応援しなかったらデンガ泣いちゃうよ」
わたしはからかう様に「クスクス」と笑いながらジェシーを見上げるけど、ジェシーは気にした素振りもなく返事する。
「そうね、仕方ないからデンガを応援しようかしら。マリちゃんはどっちを応援したい?」
「お父さんとディルお兄ちゃん? うーん・・・どっちも!」
・・・うん、マリちゃんらしい。当然、わたしはディルを応援するけどね・・・あれ?
椅子に座ったジェシーの首元に、見慣れないアクセサリーがあることに気が付いた。
「あれ?ジェシー、そんなネックレス付けてたっけ?」
真ん中に赤い石が嵌められた、かなり使い込まれた風なネックレスだ。
「ああ、これ? これは私の故郷の御守り・・・みたいな物かしら。ここの部分が火の魔石になってて、裏に私の名前が掘ってあるのよ。過去にこれに救われたこともあるの」
ジェシーが「大事なものよ」と微笑む。
「へぇ~!ジェシーの髪の色に合ってていい感じだね!」
「ありがとう」
ジェシーとマリちゃんが朝食を食べ始めたところで、わたしはそろそろ水の山に向かおうと思い、飛び上がって宿の扉を開け・・・れない。
・・・あれ、開かないよ?んっ!よいしょ!・・・・もう少しで開きそうな感じなのに中々開かない。
「うにゃああああああああ!!」
わたしは大声で叫んで、一所懸命に扉の取っ手を引っ張る。
「え!?なになに!?何ごと!?」
「けほっけほっ・・・ソニアちゃん?」
朝食を食べていたジェシーとマリちゃんが驚いた顔でこちらを見た。
「扉が開かなくて・・・」
わたしは情けない声を出してジェシーとマリちゃんに助けを求める。
「あ~・・・。はいはい、今開けるから待っててね」
「わたしが開ける!」
マリちゃんが椅子からピョンっと飛び降りて、扉を開けてくれた。
・・・わたし、まるで扉が開けられない犬猫みたい。いい加減これ何とかしないと、今後1人で扉を開けられないのは不便すぎるよ。
「ソニアちゃん、どこに行くの?」
「マリちゃんが捌きやすいサイズのお魚を捕まえてくるんだよ!楽しみにして待っててね!」
「うん!」
マリちゃんが満面の笑みで大きく頷いた。
癒される~・・・マリちゃんの為にも、頑張るぞ!
「どこに行くか知らないけど、気を付けてね」
「行ってきまーす!」
わたしは宿から出て直ぐに上空に飛んだ、ずーっと上まで飛んだ。水の山の天辺と同じ高さで止まり、あとは水の山まで直線で飛ぶだけだ。
「あっというま~♪ふふふ~ん♪」
1人になると何故か歌いたくなるんだよね。
そして、わたしが一曲歌い終わったくらいで、水の山の頂上に着いた。わたしは真ん中の池の中にポチャンと飛び込み、水の妖精を呼ぶ。
「水の妖精~!波の妖精~!おいで~!」
わたしが池の中で叫んでいると、周りにいた妖精が「今呼んできますから!待っててください!」と言って池の底の方へ去って行った。
「雷の妖精、また会いに来てくれて嬉しいです」
「私も!今日はあの人間は一緒じゃないんですね!」
水の妖精と波の妖精が最初に会った時よりも一層いい笑顔で近付いて来た。
「ディルは今日別行動なんだ。・・・ところで、2人は普段何して過ごしてるの?」
周りには何にもないけど、暇じゃないんだろうか・・・。
「私は日記を読み返したり、変わったことがあれば新しく日記を書いたりしてますね」
「日記?水の妖精ってずっと昔から生きてるんでしょ?いつから日記書いてたの?」
「2000年くらい前ですかね。その頃はほぼ毎日書いてたんですけど、今は国が滅びるくらいの事が無いと滅多に書きませんね」
・・・もう、日記は続けてないってことね。
「私は色んな魚を追い回したり、たまに人間の町に行って遊んだりしてますよ!」
「えー!町に行ってるんだ!何をして遊んでるの!?面白いこと?わたしも一緒にやりたい!」
わたしはそう言いながら、波の妖精にずずいっと近付く。
「でしたら一緒に行きましょう!いいですよね? 水の妖精!」
波の妖精とわたしはお互いの両手を掴んでクルクルと回る。
「ええ、約束が守れるならいいですよ。覚えてますよね?」
「はい!人間を傷つけない、殺さない、ですよね!」
「そうです、まだあと一つあった気がしますが・・・私も忘れたのでいいでしょう」
本当に!? いや、 良くないよ!? 3つある内の1つを忘れるのはまずいと思うよ!?
「あ、そうそう。雷の妖精に緑の妖精から伝言があります」
え、ミドリちゃんから?
水の妖精が姿勢を正して真面目な顔でわたしを見る。わたしも波の妖精から一旦手を離して、背筋を伸ばして真面目な顔を作る。
・・・そういえば、偉い妖精同士で会話ができる道具があるんだっけ?
「何でもいいから美味しいお魚をお土産に小麦色の子供に持たせて頂戴! ・・・だそうですよ」
・・・小麦色って、マリちゃんのことだよね。何でもいいと言いながらしっかりと注文つけてるし、水の妖精もそんな真面目な顔で言う事じゃないよ。
「お土産かぁ・・・。生のお魚は足が速いんだよね~・・・」
「でしたら、人間がよく使ってるメバチの魔石を使ったらどうですか?あれを使えば10日くらいなら持つと思いますよ」
「そうなんだ!じゃあお魚にしよっと!」
メバチの魔石ってアレだよね。水球を出すやつ。デンガが水の適正あったはずだから、デンガに使わせよう!
「緑の妖精に伝えておきますね」
「うん!」
水の妖精が「そろそろ入れ替えの時間ですね」と言って池の底の方に消えていった。
・・・ん? またアレをやるのかな?
「じゃあ、雷の妖精!行きますよ!」
「ばっちこーい!」
わたしが掛け声を上げた瞬間、池の中の水がすごい勢いでしたからせり上がり、わたしと波の妖精を連れて水の山から噴き出した。
「何度やっても気持ちいいですね~!」
「わたしも2回目だけど何度もでもやりたい!」
空高くまで打ち上げられたわたしと波の妖精は下に落ちずにその場で静止した。
「いい眺め~。波の妖精はいつもどこで遊んでるの?」
わたし達は空高くからブルーメを見渡しながら話す。
「色んな所に行ってますが・・・あ!今日はあそこにしましょう!」
波の妖精がわたしが最初に来た砂浜を見て言った。
「砂浜?いいね!水遊びとか?それとも砂遊び?」
「それは・・・行ってからのお楽しみです!」
わたしと波の妖精は砂浜の方へ飛んで移動する。
「ちょっと雷の妖精!速いですよ!置いて行かないでください!」
かなり遠くの方から波の妖精の声がした。振り返ると、波の妖精がずーっと後ろの方で手をバタバタさせながら「待ってくださーい」と叫んでいた。
「もう!いくらなんでも速すぎますよ!こんな速い妖精初めて見ましたよ!」
確かに・・・、緑の森にいた時に何度かミドリちゃんと競争したこともあったけど一度も負けた事はなかった。ただミドリちゃんが遅いだけかと思ってたけど。もしかしてわたしが速かっただけなのかな。散々煽っちゃってごめんなさいミドリちゃん。
波の妖精と手を繋いで飛ぶこと数分、砂浜に着いた。砂浜には子供を遊ばせに来たっぽい親子が何組かいて、宿の手伝いの時に見かけたお客さんも何人か見えた。
「あー!波の妖精さんと宿にいた金髪の妖精さんだー!」
子供の1人がそう叫んでわたし達を指差す。すると、周りにいた人達が一斉にこちらに注目して、子供達がわらわらと集まって来た。
「みんな~!元気してましたか~!」
波の妖精が愛想のいい笑顔で子供達に問いかける。子供達は思い思いに元気に喋りだす。
「してたー!」「宿にいた妖精さんと友達だったのー?」「今日はその妖精さんも一緒に遊ぶの?」「私バァーってやつやりたい!」「妖精さんかわいい!」
わたし達は子供達に囲まれて青い空すら見えなくなった。子供達の隙間から昨日話しかけられた赤ん坊を抱いた女の人がこちらの様子を伺ってるのがチラッと見えた。
読んでくださりありがとうございます。日記をつけてた時期がありました。いつのまにか日記のことは頭から忘れ去られてました。




