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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第2章 グルメな妖精と絶景のブルーメ
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49.可愛い猫さんと赤ん坊

「ハァ・・・、ブルーメに滞在中は王子様から貰ったお金でやり繰りしようと思ってたんだけどな」


ディルがそう言いながら、わたしをジロリと睨む。


「ごめんなさい・・・」

「あ~・・・いや、別にソニアを攻めてる訳じゃないんだよ。俺でも同じことをしたと思うし・・・」

「おいおい、どうしたんだ? 2人して項垂れて」


わたしとディルが宿の食堂でどんよりとした雰囲気を出していると、水の山からお魚を背負って帰って来たデンガがずいっと間に入ってきた。ジェシーと手をつないでいるマリちゃんが心配そうにわたしとディルを交互に見ている。


 仕方なかったんだよ。うん。仕方なかった。



・・・それは、ゲダイから請け負った木札をカカの宿以外の全てに配り終えた帰りのことだった。


ディルがホットドックだけでは足りないと言い出したので、串焼きのような物を買って、近くにあったベンチに座って小休止していた。するとそこに、可愛いもふもふ猫さんがトコトコとやって来た。わたしはベンチから降りて猫さんと同じ目線で静止する。


「あ、猫さんだ~!こっちおいで~、にゃーん!」


猫さんの頭に抱きついて頬擦りする。


 うわぁ~獣の臭いに、うっすらと潮の臭い・・・くっさーい!


「ぶっふぉ・・・ごほっごほっ・・・何してるんだソニア?」


ディルが串焼きを喉に詰まらせながらわたしと猫さんを見下ろす。


「猫さんだよ? 可愛いね~、おりゃりゃりゃりゃ!」

「にゃーん」


 うっわ~! 口の中は更にくさい! でも、可愛いいいい!


「いや、そうじゃなくて・・・ま、いいや。俺ちょっとそこの店で用を足してくるから荷物見張っててくれ」

「にゃおーん」


 ディルが何か言ってるけど、今はこのもふもふを堪能しなければ!ふわ~!体が沈む~!


「そこの可愛い妖精さん」


誰かに話しかけられた、もふもふしながら上を見上げると、赤ん坊を大事そうに抱いた継ぎ接ぎだらけの服を着た女の人が、屈んでわたしを見下ろしていた。


「えっと・・・わたしに何か用?」

「猫さん、可愛いわよね」

「うん!超可愛い!」


女の人が少し強張った笑顔をわたしに向けて、恐る恐るといった感じで口を開く。


「猫さんに餌をあげてみたくない?」

「え、あるの?あげたい!」


 まさか、餌を持ってるの!? 早く! わたしにその猫さんの可愛さを最大限に引き出すアイテムをちょうだい!さあ!


わたしが期待に満ちた目で女の人を見つめると、女の人はチラッと周囲を確認して、「ふぅ」と息を吐いたあと、ポケットから小さな干し肉を取り出してわたしに見せる。


「こ、これ猫さんの大好物なんだけど・・・そこの袋と交換しない?」


女の人がディルの荷物の方を指差して言った。わたしが振り返って見てみると、女の人が指差したのは王子様から貰った銀貨がたくさん入った袋だった。


「・・・え?あの袋と?」


わたしがもう一度女の人を見ると、女の人は一瞬申し訳なさそうな顔をしたあと、「このお肉とってもいいお肉なの、猫さんもきっと喜ぶとおもうの」と震える声で言った。


 どう見ても普通のお肉に見えるけど・・・もしかしてわたし、騙されてる?


わたしは、自分が撫でている猫さんと女の人が抱いている赤ん坊を交互に見る。


「にゃーん」

「あうぅあ~」


猫さんが干し肉を見て「早くくれ」とせがんでくる。赤ん坊はわたしに向かって無邪気に手を伸ばしている。その手は、赤ん坊にしては少し細過ぎる気がした。


 猫さんは餌が貰えて嬉しい、赤ん坊も袋に入っているお金を使って栄養のある離乳食を食べられるかもしれない。


わたしは覚悟を決めた。怒られる覚悟を。


「いいよ!この袋と交換ね!」


満面の笑みで答えた。


「あ、ありがとう!それじゃあこれ・・・あげるね。えっと、ごめんなさい私もう行かなくちゃ、本当にごめんなさい・・・」


そう言って、女の人はわたしに干し肉を渡したあと、袋を持って赤ん坊を大切そうに抱き直しながらそそくさと立ち去って行った。そして、時間を置かずにディルが戻ってきた。


「悪い!遅くなった!・・・ってその干し肉どうしたんだ?」

「あ・・・っと、猫さんのお肉だよ、王子様から貰ったお金で買ったの」


わたしは「へへへ」と笑って干し肉をディルに見せる。


「にゃん!」

「あっ!」


猫さんがわたしが持っていた干し肉を奪ってどこかへ去って行ってしまった。




「なるほどなぁ、今のブルーメはそこまで不景気なのか・・・」


デンガが神妙な顔でそう言った。


「でも、王子様から貰ったお金で元々無かったハズのお金なんだから、そんなに落ち込むことないだろ」

「そうなんだけどなぁ、落ち込むもんは落ち込むんだよ。まだ誰かに盗まれた方が気が楽だったかもな」


 あのお金は赤ん坊の命を繋いだ・・・かもしれないんだ。そう考えれば、あれくらい安いもんだよ。


「過ぎたことは何を考えた所で変わらないわ、それよりも、王子様方とは何を話したの?」


ジェシーがパンパンと手を叩いて、落ち込んだ雰囲気を霧散させる。


「ああ、それなんだけど・・・」


ディルが王子様から先日のザーリスの件で謝罪を受けて、お詫びに上等な魔石を貰ったことを説明して、わたしが武の大会の後にお魚の料理大会を開催することを伝えた。


「私、それに出たい!」


話を聞いたマリちゃんが料理大会に出たいと元気に手を挙げて宣言した。


「え、マリちゃんが?確かに最近料理をするようになったけど・・・まだ早いんじゃないかしら?」


ジェシーが心配そうにマリちゃんを見る。


「アタシは大丈夫だと思うよ、誰も魚を料理なんてしてこと無いだろうし、基本が出来てれば技術の差はそんなに出ないんじゃないかい?重要なのは発想だね」

「面白そう!私も出てみようかな!」


いつから話を聞いていたのか、カカとプラティがそう言いながら厨房から出て来た。ディルがリュックから木札を出して「料理大会の告知だ」と言ってカカ達に渡す。


「よし!だったらこれを使って今日は魚料理の研究したらどうだ?」


デンガが背中に背負った2匹のメバチをバンっとテーブルに置いた。


「さすがお兄ちゃん!いい提案!夕方の仕込みを兼ねて今から取り掛かろう!」


プラティが拳を突き上げて気合を入れる。


「ジェシーはどうだ?参加してみるか?」

「私はいいわ、マリちゃんの応援をするから」

「私、がんばるね!」


気合を入れたマリちゃんの手のひらに乗って、カカとプラティと、お魚を持ったデンガと一緒に厨房に入る。これだけの人数とお魚が2匹も厨房に入ると流石に手狭になるので、ディルとジェシーは食堂で待って貰い、デンガもお魚を運び終えると食堂に戻って行った。


 ・・・そういえば、いつの間にかマリちゃんがお魚料理のことを知ってたけど、デンガかジェシーが教えたのかな? サプライズしようと思ってたんだけど結局出来なかったや。残念。


わたしはディルに教えた通りに、皆にお魚の捌き方を教えていく。プラティは苦戦しながらも何とかメバチを切っていたけど、マリちゃんは力が足りなくてカカに手伝って貰いながら切っていた。マリちゃんには悪いけど「むぅ」と悔しそうに頬を膨らませてる姿が可愛らしかった。


 大会までにマリちゃん用に小ぶりな魚を捕ってこないといけないね。頑張れマリちゃん! わたしは応援してるぞ!


切り終わったあとは、お刺身を焼いたり、揚げてみたりと、皆でお魚料理を研究していた。魚料理を知らない皆がどんな料理を作るのか楽しみだったので、あえて捌き方以外は何も教えていない。


 人間だった頃に見たことのない物が出て来たりするかもしれないしね。待ち遠しいね。


「うーん、美味しいけど。もっと改良が必要だね」

「もっとおいしくできると思う」


カカとプラティが試しに焼いた魚を食べて唸る。


「お兄ちゃんまたお魚捕ってきてよ」

「俺はこのままでも充分イケると思うぞ?なぁディル」

「うん、美味しいな。これなら大丈夫じゃないか?」


男達にはこれで満足そうだけど、カカとプラティとマリちゃんはまだ納得いってないみたいだ。ジェシーはマリちゃんが細かく刻んだお魚をご飯に乗っけて、幸せそうに食べている。その様子をマリちゃんがじっと見てるのがなんとも微笑ましい。


わたしはこれはこれで普通に美味しいと思うけど、人間だった頃の記憶があるのでどうしても物足りなさを感じてしまう。


 ・・・うーん、マリちゃんだけにはこっそりとレシピを教えようかな。まだ子供だし、いいハンデになるよね?


わたし達は夕方のピーク時に食堂のお手伝いをしたあと、男女に別れて各部屋に戻って翌朝までゆっくり休んだ。ヨームは帰って来なかった。


「流石になんの挨拶も無しに居なくなるとは思えないんだけどなぁ」


可愛い寝癖をつけたディルが、食堂の椅子に座りながら言った。マリちゃんはまだスヤスヤと寝ているので、ジェシーが部屋に残って様子を見ている。デンガは朝早くにまた水の山にメバチを捕まえに行ったらしい。一家のお父さんは大変だ。


「グリューン王国まで1人で来てたみたいだしヨームのことは心配いらないでしょ!」

「だな」


 ヨームの事は心配いらないよ! 勝手にどこかに行ったヨームを心配なんてしてやらない!


わたし達が食堂で朝食を食べ終わった頃、誰かが外から宿の扉を開けた。デンガが戻って来たのかなと思ったけど、違った。


「あ、ゲダイだ」

「ソニア様、ディルさん。おはようございます」


昨日のように、沢山の木札と紙を両手で持ったゲダイが背中で扉を押して入ってきた。


「料理大会の詳細が決まったのでお知らせに参りました」


そう言いながら一度テーブルに木札を置いて、1枚をディルに渡した。わたしはディルが受け取った木札を覗き込む。


大体の内容はアザレアが書いていた議事録と同じだけど、何個か追加されていて、掲示板に貼る紙の方には、わたしが教えた魚の捌き方が可愛いイラスト付きで書かれている。下の方にはわたしのイラストもあった。


 このイラスト可愛い。アザレアが描いたのかな? きっとそうだ。


わたしはディルが受け取った木札を覗き込む。


・賞金は武の大会と同じ金額+賞品(当日発表)

・魚は各自で持参、厳しい者は運営側が用意した魚を一匹だけ譲る

・受付は武の大会開催日までに東の島主の屋敷にて


それを見たディルが目を見開いて、バッと顔を上げてゲダイを見る。


「武の大会って賞金が出るのか!?」

「はい、出ますよ。金額は毎回変動しますが、上位3名にそれなりの額が」

「決めた!俺も武の大会に出る!」


 ・・・お金の為に、という副音声が聞こえた気がする。

読んでくださりありがとうございます。猫、可愛いですよね。顔が潰れたやつが得に好きです。

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