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ちっちゃい妖精さんになりました! 暇なので近くにいた少年についていきます  作者: SHIRA
第2章 グルメな妖精と絶景のブルーメ
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43.池の中の謎の空間

水色の妖精がディルの荷物と一緒に、まるで逆再生のように池の中に戻って行った。わたしとディルはお互いの顔を見合う。


「今のなんだったんだ?」


ディルが不可解な物を見る目で池を見つめる。


「お弁当とお金、取られちゃったね」

「そうだな・・・」


ディルが「ハァ」と溜息をついて、だいぶ容量が空いたリュックを見て、池に視線を戻す。わたしもディルに釣られて池に視線を戻す。すると、再び池の中心が渦巻き始めた。


 ・・・もしかして、また出てくるの?


ディルと一緒に黙って見ていると、渦の中心から水色の妖精がちょっと引き攣った笑みを浮かべてディルの荷物と一緒に再登場した。


「これを返しましょう・・・」


そう言って、水球をディルの頭上に移動させて、お弁当とお金だけをディルの手元に落とした。受け取ったディルは「一応な」と言って袋とお弁当箱の中身を確認する。


 もしかして、返すのを忘れてたとか・・・?まさかね。


「あれ?濡れてない・・・」


ディルがお弁当の中身をつまみ食いしながら言う。


「え?本当!?」


わたしも触って確かめてみる。


 本当だ、濡れてない。あの妖精のお陰かな?


池の上を見ると、さっきまで水色の妖精が居たはずなのに、見当たらない。


「・・・雷の妖精ですよね?」

「ひゃあ!」


真後ろから突然水色の妖精の声が聞こえてきた。わたしは驚いて咄嗟にディルの後ろに逃げ込む。


「そ、そうだけど!?」


 急に耳元で話さないでよ!


「緑の妖精から聞いてますよ、もしかしたら会いに来るかもしれない、と」

「ということは・・・やっぱり水の妖精!?」


 まぁ・・・じゃなかったら何なんだってなるけど。


「はい、水の妖精ですよ、あなたが来るのを楽しみにしていました。会ったら色々とお話をしてみたいと思ってたんです」


水の妖精は淡々とした口調に似合わず、細い目を更に細くして、ニッコリと嬉しそうに笑う。


「そうなの? わたしも水の妖精とお話したい!」

「ふふふっ、それじゃあ、私達の住処に案内しましょう。あの池の中にあるんですよ」


水の妖精が「こっちですよ」とわたしの手を引いて連れて行ってくれようとする。


「ちょ、ちょっと待って!俺も一緒に連れてってくれよ!」


黙ってわたしと水の妖精のやり取りを見ていたディルが、慌てて荷物をリュックに仕舞い始める。


「あっ・・・大丈夫ですよ。忘れてませんから。忘れてませんからね」


 何で二回も同じ事言ったの?思いっきり「あっ」って言ってたし・・・忘れっぽいのかなぁ。


「えーっと、そこの黒い少年」

「ディルだ」

「そう、あなたは水の中でも呼吸できますか?」

「出来るわけないだろ、俺は妖精でも魚でもない」

「そうですよね、どうしましょうか?連れて行ってもいいんですが、私達の住処で溺死されても気分が悪いですしぃ・・・」


 溺死!?こわいこわい!おっとりした顔で恐ろしいこと言ってるよ!


「水の妖精なら、こう・・・なんか上手いこと出来ないのか?」


ディルが手をわちゃわちゃしながら水の妖精を見上げる。


「空の妖精なら出来るでしょうけど、私には無理ですね。・・・あっ、良いことを思いつきました。黒い少年はどれくらい息を止めていられますか?」

「え、うーんっと・・・ソニアがご飯を食べ始めてから終わるまでの間は止められると思うぞ。それと俺の名前はディルだ」


 何その例え・・・わたしが食べ終わるまでの間ってどれくらい?長いの?短いの?自分のことだけど分かんないや。水の妖精もそんな例えじゃあ伝わらないでしょ。


「ディル、そんな例えじゃ・・・」

「そうですか、なら大丈夫そうですね」


水の妖精が「結構長いですね」と言ってディルを見る。


 え、分かるの!?適当に言ってない!?


水の妖精が「息を止めて下さい」と言って、ディルを水球の中に閉じ込めた。ディルは手で口を押さえて目をまん丸にして驚いている。


「え!? ちょっと!ねえ!ディルをどうするつもりなの!?」


わたしは水の妖精の肩をゆさゆさと揺らしながら叫ぶ。


「わわわっ、大丈夫ですよ、空気がある空間まで運ぶだけですから、そんな怖い顔をしないでください」


水の妖精は「笑っている方があなたらしいですよ」とわたしに微笑みながら、右手をサッと動かしてディルを池の中に入れた。


「本当に大丈夫なんだよね?」

「はい、それじゃあ私達もあの少年の元へ行きましょう」


わたしは水の妖精に手を引かれるまま池の中に入る。溺れるんじゃないかと少し心配だったけど、妖精の体は呼吸の出来ない水の中でも地上と同じように動けるみたいだ。水の妖精が住処と言うだけあって、壁面の所々に穴が開いていて、そこに青い髪の妖精達が居たり居なかったりする。わたしが手を振ると笑顔で振り返してくれた。


 ミドリちゃんが緑の森が一番妖精が多いって言ってたけど、確かに比べると少ないね。あの青い髪の妖精は何の妖精なんだろう?後で聞いてみよっと。


水の妖精はどんどんと下の方へと潜って行く。底が暗くて見えないのが怖い。わたしが何処まで行くのか聞こうと思ったところで、水の妖精が止まって壁の方を指差した。


「ここにさっきの黒い少年がいますよ。さぁ、入りましょう」


そこには今まで見えた穴の数十倍は大きい穴があった。わたしは水の妖精を引っ張られて、その穴に飛び込む。


「あれ?水が無くなった!」


穴の中は水がなく空気があってかなり広い空間になっていた。体感で六畳はありそうなくらいだ。もちろんわたしを基準にしてではなく、人間を基準にして。


「あ、ソニア!」


置いてあった椅子に座っているディルがわたしに向かって手を振る。


「ディル!良かった~・・・無事だった!」

「このまま池の底まで連れていかれるんじゃないかと思って怖かったぜ・・・」

「それにしても、ここだけどうして空気があるの?そして、その椅子とドアは何?」


 ディルが座っている人間サイズの椅子と、その隣にある同じく人間サイズの木製のドア・・・妖精しかいないのに大きすぎない?


「ここだけどうして空気があるのか・・・それは・・・」


水の妖精が口を開けたまま固まる。わたしとディルは黙って見守る。


「・・・忘れました」

「えー・・・」


 やっぱりこの妖精は頭が・・・


「あ、今失礼なことを思いましたね?」


水の妖精が頬を膨らませてわたしを睨む。


「空気がある理由は忘れちゃいましたが、椅子とドアについては覚えてますよ。ずっと昔に緑の妖精が作ってくれたんです。軽くて劣化しない木材を使ってるんだそうですよ」


 なんか思ってたのと違う回答がきた。わたしが気になってるのはソコじゃ無いんだけど・・・まぁいいや。


「あ、本当だ!凄い軽いぞこれ!何も持ってないみたいだ!」


ディルが自分が座っていた椅子を指で掴んで持ち上げる。


「うっそだー・・・ただディルの力が強いだけでしょ!」

「本当だって!ソニアでも持てるんじゃないか?」

「いやいや、そんな大きい椅子持てるわけないでしょう」


わたしはディルが床に置いた椅子の端を両手で持って上に飛ぶ。


「も、持てたー!」

「すげーー!」


 何この新素材!超軽いんだけど!わたし力持ちになったみたい!


わたしは椅子をもって飛び回る。ぐるぐると、ぐるぐると・・・


「ちょ、ソニア・・・危なっ・・・」

「か、雷の妖精?一旦落ち着いて・・・」


ディルと水の妖精がわたしを目で追いながらオロオロとしている。


「見て見て!わたし、超パワー!」


わたしは椅子をグルグルと振り回す。


「落ち着いてください!」


ドッバァァァァ!


「がぼぼぼ!」


突然上からすごい勢いで水が降ってきた。妖精の体は呼吸が必要ないとはいえ、人間だった頃の名残で普段は普通に呼吸をしているので、水が鼻や口から入ってきて咽る。


「けほっけほっ・・・」

「大丈夫かよ?」


ディルが仕方なさそうな顔でわたしの背中を羽の上から擦って、水の妖精がわたしの頭をそろりと撫でる。


「落ち着きましたか?」

「はい・・・ごめんなさい」


ディルが再び椅子の上に座り、わたしはディルの頭の上で正座する。


「変な座り方ですね?」

「わたしの座り方はいいから。それよりも、そのドアの向こうには何があるの?」

「えっ・・・!?あ、あー・・・」


水の妖精が目を彷徨わせる。


「なに?」

「えーっと・・・わ、忘れました!」


 水の妖精の様子が明らかにおかしい・・・。細い目が細くなりすぎて目を閉じてるようにしか見えないし、背中の羽が少し震えてる。これは噓を吐いている時のわたし・・・じゃなくてミドリちゃんにとても似ている。水の妖精はあのドアの奥に何かを隠してる?隠されると余計気になるよ!


「本当に忘れたの?」

「ほ、本当ですよ?」

「本当の本当に?」

「・・・はい」


水の妖精の目をじーっと見つめると、スーッと逸らされた。


「・・・ってそんなわけないでしょう!本当に忘れてるならドアを開ければいいじゃん!」


ディルの頭の上で立ち上がる。そして・・・木製のドア目掛けて飛ぶ!


「あっ・・・ちょっと!」

「お邪魔しまーす!」


椅子と同じ木材で出来たドアを軽々と開け放った。


「・・・ん? なんだー普通の部屋じゃん。ベッドに本棚に椅子に机に・・・ってあれ?」

「おいソニア、あんまり他人の部屋を勝手に・・・」


ディルが後ろからトコトコと歩いてくる。


「いやそれが・・・ぶわぁ!」

「うわぁ!」


わたしとディルはどこからともなく現れた水によって部屋の外に押し流された。


 うっ・・・なにこの水!何か変な臭いする!


そこで、わたしの意識は沈んだ。


「うぅ・・・」

「あ、起きたか?勝手に他人の部屋に入るからだぞ」


 他人の部屋に・・・? わたし何してたんだっけ?


「ごめんなさい、少し水の勢いが強くて目を回しちゃったみたいですね」

「え?」

「ソニアが勝手にあの部屋に入るから、水の妖精が水で部屋から押し流したんだ」

「そう・・・だっけ?」


 なんか頭がボーっとするなぁ・・・

読んでくださりありがとうございます。水温は少し冷たいくらいです。

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