9.
自国を出発して2日目の夕刻、馬を休ませる為に近くに宿を取り、二人は最終日となる明日の計画を相談していた。既にイール国への入国は済んでいる。国境にある関所でも何の問題もなく、あっさりと二人を通してくれた。
『こんなに簡単に入国を許可するなんて、この国のセキュリティは一体どうなってるんだ!!こんなんじゃ、僕のアビー様が安心して眠れないじゃないかっ!!』などと、見当違いな事でルルドールが目をつり上げるのを見て、クリストファーはため息をついた。
本来ならば、馬車に乗り、多くの従士を従えて優雅に登城するのが一般的な王族なのだが、どういうわけか、我が国は王子と従士の二人きりという、なんともお粗末な珍道中を繰り広げている。しかも馬で3日の強行日程だ。
『一体、我が国王は何をお考えになってるんだ!』クリストファーはこの任務を引き受けてしまったことを心から後悔した。しかも、宿の部屋はずっと同室だ。確かに王子の身の安全を考えたら良策だろうが、誰もこんな形の野郎二人が王子と従士だとは思わないだろう。正直なところ、ルルドールとの同室は拷問にあっているようだった。彼はシャワーを浴びると上半身裸のまま下履きだけを身につけてベッドに入る。16になったばかりなのに、彼の体はやけにセクシーで早くも男の色気を振り撒いていた。その半裸王子にクリストファーは顔を真っ赤にしながら抗議した。
「お、おい、ルル!何て格好してるんだ!ちゃんとシャツを着ろっ!」
「ええー?いつもは全裸で寝てるのにー!下だけは履いてるんだからいいじゃん!」
と言って全然言うことを聞かない。『絶対わざとだ!!ルルのやつ、俺を試して楽しんでやがる!』クリストファーは確信した。ルルドールは容姿こそ美しい妖精だが、真の姿はドSのいたずら妖精なのであった。しかし、全裸って……
「ぜ、全裸……」
思わず呟いてしまったクリストファーにルルドールがすかさずツッコミを入れた。
「あー!クリストファー、今すごく厭らしいこと考えてたでしょー?もう、クリストファーの変態ホモ!!」
「ちがーう!変態でもホモでもない!!俺は普通に女が好きだ!」
「嘘だ~。だって11歳だった僕を見て『ごくん』って唾飲み込んでたじゃん。あ、それに加えてロリ?ショタ?」
「かー!一国の王子が、それも妖精王子がホモだのロリだの、そんなゲス言葉使うんじゃない!!明日も早くから移動すんだから早く寝ろー!!」
……疲れた。この2日間、本当に疲れた!これなら鬼団長にしごかれている方が遥かにましだ。ああ、神様。後1日で俺が無事に解放されますように……。クリストファーはベッドの中で手を合わせ神に祈るのだった。