41.
時を同じくして、ルルドールは女王とダンスを踊って……はおらず、相変わらずアビゲイルを抱きしめていた。もちろん祝福を言いに来る大臣やゲストには、にこやかに対応していたが、彼らが立ち去るとすぐにアビゲイルを抱きしめて片時も離さなかった。
「……ルル。ま、まだこうしているつもり?」
「え?だって、まだまだアビーが足らないんだもん。……ねえ、この場でキスしてもいい?早くアビーの唇を食べたいよ。ああ、唇だけじゃなくて全部食べてしまいたい!今すぐ二人きりになりたい!!」
サファイアの瞳がギラギラと妖しく光る。6年前はあんなに可愛かったルルドールは今、女王を狙う立派な?肉食獣に成長していた。すかさず彼はアビゲイルの頬にチュッとキスをする。
「こ、こら、駄目だ。ルルはそんな駄々っ子だったっけ?ほら、皆が私たちを見ている。女王とその婚約者が祝いの舞踏会で踊らないなんて、前代未聞だぞ。それともルルは私と踊りたくない?」
美しい女王に尋ねられ、ルルドールは慌てて首を横に振った。
「アビーと踊りたい!!僕、貴女と踊るためにダンスの練習も沢山したんだ。」
「ふふふ。やっぱりルルは素直で可愛いな。さあ、踊ろう。」
アビゲイルが手を差し出すと、ルルドールが嬉しそうに彼女の手を取り、エスコートする。二人がダンスホールの中央まで歩いて行くと、周りにいた人々はホールの脇に移動し、中央を女王とこの若い婚約者に譲った。それに合わせて音楽が流れる。ルルドールが軽いステップでアビゲイルをリードしながら華麗に踊り出すと、あまりに美しい光景に周囲からはため息が漏れた。
「さすが、私のルルだ。皆、呆気にとられているよ。」
「アビーに誉められると凄く嬉しいよ!じゃあ、もっと難しいステップを披露しなくちゃ。行くよ、僕の女王さま!」
「きゃっ!わっ、ル、ルル!!速すぎる!」
アビゲイルをしっかりとホールドしながら、ルルドールのスピードが上がる。なんとか女王も付いてきてはいるが、さすがに若い彼には勝てそうにない。
「アビー、頑張って!あと少し。」
「こ、こら、ルル!やりすぎだっ!…ぷっ、ふふふ。」
「あははは。」
二人は楽しそうに笑い合った。曲目が変わった時、周りで見守っていた人々が一組、二組とダンスへと加わってきた。先程と打ってかわってスローな曲に変わり、二人はゆっくりとステップを踏みながら抱きしめ合った。
「あまり見せつけないで下さいよ。ねえ、ソル。」
ルルドールが声のする方向に顔をやると、そこにはアニスとソルシアンがいた。しかも二人はぴったりと寄り添いながら踊っているではないか。ルルドールは驚きのあまり声を上げた。
「え?アニス?と、ソルシアン?な、なんで?」
「はあ?なんでって、そういうことだからだ。なあ、アニスー。」
最後の方は愛しい少女に向けたものなのだろう。やたらと甘くて胸焼けしそうな声だった。これにはさすがのアビゲイルも驚き、横目でソルシアンの相手を確認した。そしてその少女の姿に女王はさらに驚くことになった。
相手はなんと先ほどルルドールと一緒にいた、あのクラーロ家の一人娘ではないか。彼女は自分の花婿候補の情報は熟知しており、だから知っていた。アムダルグの第二皇子の女癖の悪さを。イール国で、いや、ネガール大陸で一二を争う資産家の令嬢を、アムダルグの皇子が弄んだとなると、国際問題にもなりかねない。しかも、アムダルグの皇女は6年前、ルルドールを拐った前科まであり、これでは大国全てを巻き込む戦争になる可能性すらあった。
「ソルシアン……貴方に話がある。この曲が終わったら一度、奥の間まで引き上げるので共に来てくれないか?」
「ちょうどよかった。私も貴女にお願いしたいことがある。出来たら、アニス嬢も一緒に連れていきたいのだが」
「了解した。では後ほど奥の間で。」
二人はそのまま踊りながら女王から離れていった。彼女はフィアンセの若い男に尋ねてみた。
「ルルはアニス嬢を知っているの?」
「うん。この国に入国してからずっとクラーロ家でお世話になっていたんだ。ちょっと事情があってさ。でも、彼女がソルシアンと知り合いだったとは初耳だよ。」
「……知り合いどころか、もっと親密な関係になっているようだった。このままではまずいことになりそうだな。さて、どうしたものか」
女王はふぅとため息をついた。ルルドールはアビゲイルの表情を見ている内に、アニスのことが心配になってきた。あんな心優しい少女が悪い男に騙されるのを見逃すわけにはいかない。
「もし、ソルシアンが遊びでアニスと付き合っているのなら、あいつを許さない!」
「もちろん、そうなったら、ザック・クラーロだって黙ってはいないだろう。あれだけ大切に育てた娘だ。」
しかし、この後すぐに二人の心配が取り越し苦労だったことを思い知ることになる。ソルシアンの頼みを聞いた二人はあんぐりと口を開いて驚いたのだった。




