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22 鎧の想いとアップルパイ

 アリシアが目を覚ましてソファの魔術式に気づいた頃。

 

「バルトーー! 貴方って鎧はーーっ!!」

 隣の部屋から、そんなアリシアの声が聞こえた時は、やはり怒らせてしまったかと思った。

 

 フェリックスとシュテル二人からの、お前は他に何をやったんだというような視線が痛い。

 バルトは終わったら許してもらえるまで、全力で縋ろうと格好のつかない決意をしていた。

 

 

  

「一旦鎧と魂分けるから違和感あんだろうけど我慢しろよ」

 ガシャと鎧を鳴らしバルトは頷く。

 教えてくれる辺り彼はいい人物なのだろう、言葉と態度が少々乱暴なだけで。

 

 それがわかっていても、バルトがシュテルを気に入らないのは変わらないのだが。

 

 シュテルが魔術式に魔力を込め始めると、光の帯がバルトを包み、鎧になってからは感じたことのないだるさが全身をめぐる。

 どこかすっきりしたような軽い感覚になった時、バルトの魂は鎧と離れていた。

 

 何かに納得したように、フェリックスは視線の先にいる黒髪の青年に向けて呟く。

「何となくそうじゃないかなと思っていたけど、やっぱりバルトは今の僕と同じくらいの年なんだね」

 

 青年の姿になったバルトは背が高く落ち着いた雰囲気だったが、大人になりきれていない顔立ちをしていた。

 フェリックスやシュテルとそう変わらない年齢だろう。

 

 さらりと艶やかな黒髪が耳にかかり、意志の強そうな光を宿した目が先程まで自分だった鎧に向く。

 手をのばすと、すかりと鎧をすり抜けた。流石に触れることは出来ないようである。

 バルトは興味深そうな表情で、今の自分と鎧を見比べていた。

 

「消耗した魂を回復させてから鎧に戻すから、終わるまでそのまま待機だ」

 動いてもいいが鎧からはそんなに離れられないぞ、とシュテルが続ける。

 

 時間はどのくらいかかるのだろうか、そうバルトは考えるが、アリシアを座らせたソファの魔石はそれなりの容量があったので、魔術が解ける前には終わるだろうと結論を出した。

 

「……変だな」

 ぽつりと訝しげな声が口元から零れる。

 

「シュテル? どうしたの何か問題?」

 眉を顰めて魔術を見るシュテルにフェリックスは声をかけた。

 

「いや、問題って程でもねぇけど……こいつの魂、何か混じってる」

 消耗した魂を完全に回復させるために用意した魔術式に、バルトの魂以外の反応があった。

 しかも、その反応が強くなる度に魂の回復が早まっていく。予定より早く終わりそうだ。

 

 どうやら今まで持っていたのは精神力の強さもあるが、大きな理由はこの『混じってるもの』らしい。

 

「聞いたことのない状態だね」

「そうだな……フェリックス、この事はベラベラ周りに喋んなよ」

「流石に僕も言っていい事と悪い事の区別くらいつくよ。シュテルは僕をなんだと思って……」

「余計なことを喋るヤツ」

 

 シュテルは真顔だ。

 フェリックスは自身の振る舞いと言動に何か思い至ったのか、黙って頷いた。

 

  

 突然、アリシアの居る部屋からバキッと何かが折れる音や、ガリガリと固いものが削られていく音が響きわたる。

 その中にアリシアの小さい悲鳴が混ざっていた。

 

 バルトはその悲鳴が聞こえると、反射的に隣の部屋へ向かおうとしたが、魔術式に阻まれそれ以上進めない。

 アリシアに何かあったのかとバルトの表情に心配と焦りが浮かぶ。

 

「何の音だ?」

 シュテルは怪訝そうな顔をして、まだ音が聞こえる隣へ視線を向けた。

「だんだん音は小さくなっているみたいだけど……あ、聞こえなくなった」

 

 三人はしばらく耳をすませ、部屋に静寂がおとずれる。

 キィ、と微かに隣の部屋の扉が開く音がした。

 

 直ぐにこの部屋の扉が勢いよく開けられると、そこにいたのは隣の部屋から動けない筈のアリシアだった。

 

 

 

 

 

 

 そこからの自分の行動は今思うと、穴があったら入りたい、むしろ地中深く埋めてくれと真剣に考えるほど恥ずかしい。

 

 自分はいったい何をやっているのだろうか、とバルトは壁に頭を打ちつける。

 

 想いを伝えた事に後悔は無いが、もう少し何とかならなかったのか自分。

 謝罪をしながら告白とは些か性急すぎではないか、とバルトはアップルパイと紅茶の準備をしなから、少し前の自分を省みていた。

 

 一方アリシアは、突然壁に頭を打ちつけた――衝撃に負けて壁が壊れている――バルトに驚きながらも、口を挟める雰囲気ではなかったのでそっと視線を逸らす。

 

「アリシア、オバケどうしたんだ? なんか……」

「トール……そういう時もあるのよ。触れないであげて」

 ふーん、とわかっているのかいないのか曖昧なトールはアリシアの隣に座り、ちらちらとシュテルとフェリックスに視線を送る。

 こちらの方が気になるようだ。

 

「かわいいなぁ。アリシアにこんな友達が居たなんて」

「かわいいってなんだよ! オレはかっこいいんだ!」

 

 眉を吊り上げて怒るトールに頷きながら、そうだねかっこいいよと返すフェリックスは楽しそうな笑顔だ。

 シュテルはまた怯えさせないようになのか、ただ疲れているのか、目を瞑って沈黙している。

 

 少し落ち着いた様子のバルトは、トールを見てため息をつくような仕草をした。

 アリシアがいた部屋から聞こえた音は、この子狼が魔石を食べる音だということに気づいたのは、隣の部屋の惨状を見た時だ。

 

 足跡の付いた床に散らばった金属の欠片、噛み砕かれたように装飾が壊れているソファ、そのソファの上であくびをしているトール。

 

 どう見ても食事後に一眠りして今起きた、というような光景だった。

 アリシアがどうやって魔術から抜け出したのか不思議だったバルトが、ようやく真実を知った瞬間である。

 

 今はすっかり眠気が抜けたようでトールはフェリックスと賑やかな会話をしていた。

 バルトはアップルパイを切り分け、アリシアの前だけに置く。

 

「バルトって本当に徹底してるよね」

「ごめんなさい、フェリックス……食べる?」

「いや、それはアリシアのアップルパイだから、アリシアが食べたほうがいいよ」

 

 アリシアが恐る恐る差し出したアップルパイを、フェリックスは丁重に断る。

 甘いものは大好きだが、此処で受け取ってしまうと後が怖い。

 

 フェリックスはアリシアの『家族』である為、バルトの対応は多少柔らかいものの、アリシアの為に作ったものに手を出すと面倒くさいことになるだろう。

 

 そう、と頷いてアリシアは皿を自分の方へと戻した。

 バルトの雰囲気が和らいだので、フェリックスの判断は間違っていなかったと言える。

 

「あ、そういえば。シュテルに教えて欲しいことがあるの」

「……なんだ」

 面倒事じゃないだろうなという思いを声に滲ませたシュテルに、アリシアは日記に記憶を残せる魔術式を教えて欲しい、と頼んだ。

 

「あぁ、課題のヤツか。後で基本と応用まとめて手紙に書くから、それまで待ってろ」

 アリシアの頼み事が魔術式の事だったことに、シュテルは気を抜く。

 この場で教えてもよかったのだが、嫉妬深い鎧のせいで中途半端な教え方になりそうだったので、手紙に書くことにした。

 

 笑顔で感謝を伝えるアリシアは別にいい、学ぶ意欲を持っているのは好感がもてる。

 しかし、その後ろの鎧が面倒くさいのでどうにかしてくれとシュテルは思う。

 何せアリシアと話すたびに、突き刺さる殺気のような嫉妬を受けなければいけないのだ。

 

「ほら、いいからあんたは、大人しく食ってろ」

 最終的に気疲れで耐えきれなくなったらしいシュテルは、疲労を滲ませた顔でアリシアにアップルパイを勧めて会話を断ち切った。

 

 

 嬉しそうにアップルパイを食べるアリシア、それを穏やかな空気をまとって見つめるバルト、出された紅茶を静かに飲みながら早く帰りたいという雰囲気を隠さないシュテル、バルトに出されたリンゴを食べながらシュテルを気にしているトール。

 

 そして、それなりに空気を読んでいるフェリックスは周りの様子を見て、紅茶を一杯飲んだら帰った方がいいかな、と思いティーカップの中身を飲み干した。

 

 そろそろお暇しようか、とフェリックスが言った時のシュテルの待ってましたという顔に吹き出してしまったことで、フェリックスは後日課題が四倍になった。

 

 

 

 

 

 

「バルト、もう何処も調子の悪いところは無い?」

 

 二人と一匹を見送った後、アリシアは少し不安そうにバルトを見上げる。

 バルトは前から感じていた動き難さは無くなっていると思い、カシャと頷いた。

 

 アリシアはよかったと安堵したような柔らかい笑顔を浮かべる。

 それを見たバルトは何故か気持ちが落ち着かない。そわそわしているような何か残念のような。

 

 いつも通りのアリシアに、何処かもやもやとした感情を感じていたバルトは、自分が感じていた違和感の正体に思い至る。

 

 浮かれていて気づくのが遅れたが、そういえば自分の愛の告白については返事を貰っていないのではないか、バルトはそう思った。

 

 アリシアが言っていたのは『あれが初恋だった』という話だ。けして今のバルトが好きで恋しているとは言っていない。

 すっかり両想いのような気分でいたが、もしかして違うのでは……そんな事が頭を過ぎる。

 


 二人っきりのお屋敷で、バルトは答えの出ない問題を考えていた。

 

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