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アウトローに学ぶ異界生存戦略.71 ヤヌ人としての地位を得た異邦人

 宮殿内に招かれた。

 玉座の間。そこには幼い王がいた。


 私は神官服と頭巾で顔を隠す。

 私が国を侵略せんとするブリュータス帝国軍人と知ってか知らずか……。


 薄幕が取り払われ、幼い子供が玉座から私の方を見ていた。


――知らぬはずもないか。


「ショーイ神官およびカーマ神官に我が国での神官としての位をここに授けんとする。」

 腰巻に隠したリボルバーを抜き取り、その小さな瞳に文明の魔道具を突きつけることなど容易い。

 容易すぎる……。


 幼年の言葉はどれもこれも拙い発音で、その心根の脆さは時折私に向ける怯えた視線から窺える。


――幼い。幼すぎる。


 近衛兵の装具。それには目を見張るものがあった。

 鷹の描かれた兜を被る者たちからの視線はどれもこれも警戒と敵意、それでいて慎み深さが窺い知れる。


――この一兵につきどれ程の価値があろうか。


 どうやら私はこの蛮族を侮っていたらしい。彼らの持つ精巧な槍の造り、磨き上げられた鎧はどれをとってもその価値は計り知れないと感じた。

 中には魔法が施されていても不思議ではない。

 それほどの出来栄えだと見た。


 ヒルダニアの冒険者や王都の衛兵たちでは手が届かぬのだろうが、これは危険だ。

 私は視線をそのままに目の端でこの建物の値踏みをする。

 その磨き上げられた石の床や天井。そして高級感漂う織物。

 少なくともこの地には優れた職人がいることは確かである。

 

 私の後ろにはこの場に似つかわしくない武人の姿がある。

 図体ばかりデカくとも私には何とも思わないのであるが……。

 

 二の腕に走る筋繊維が今にも暴れ出しそうなほど緊張している。

 

――やはり私の出自はこの幼い大王にも知らされているのだろう。 


「我が名はヤンマ――」

 幼子の手はその手には大きすぎる書状をもっており震えている。


「――ヤーラカーンの大王にして」

 その言葉に彼の意思は見えない。


――由緒ある血筋を傀儡として据える……か。反吐が出る。


 その王家の正統性などといった込み入った話は知らぬが、このような幼子を王にするとはこの国の王族とはハリボテであるのかもしれない。

 分家や後妻の子だからなどと言って他の後継者を立てる事すらないのかもしれない。

 もしくは王家自体が後継者争いを防ぐために一夫多妻がなかったり、王家の血筋を持つ主流でない者は僻地で政治と無関係に過ごさせるのか……。


 自分が知らぬことが多すぎる。

 私は、このヤーラカーンとその属国や周辺国などの知識などは持っていない。

 マダイラにいたのだからそれも仕方がないだろうか?


 いや、帝国は私たちがマダイラを調査している間にもヤーラカーンやその周辺国にちょっかいをだしていることは確かだろう。


――私も信頼されていなかったという事か……。


 己の全てを尽くした御方が私には信用さえ与えてはくださらなかったという事か。


 私は幼い大国の君主よりありがたく法衣を頂戴すると頭を下げる。

 幼子はたどたどしくカーマにも法衣を与える。


 儀礼であれ私は敵国の王に頭を垂れた。

 帝国軍人として、タイタニア人として、文明を司る人間として、これほど屈辱はないはずである。だが、私の中にそのような感情はちっとも浮かび上がってこなかった。


 この国も我が祖国と変わらぬ。同じ人間同士で争う愚かさを持った暴虐の徒である。

 私はこの瞬間、今このときだけは腰巻きに手を入れず、そして己の生きた道を忘れてもいいのかもしれない。


 幼き大王に私が手を下した所で意味はない。

 直ぐに新たな傀儡が擁立されるだけ、傀儡がなければ欲に溺れた首魁が居座るだけである。


 詮無き事だ。

 この国との戦争は頭のすげ替えだけで終わるほどの簡単な物ではない事を実に残念に思う。



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