アウトローに学ぶ異界生存戦略.69
背徳的な生き方だとはドゥーランは思ってはいない。
真実に信仰を持つのであれば、その寵愛をすべての者にだと?
それは傲慢だ!とドゥーランは考える。
――見せびらかすために信仰してきたのではない。
老人は己の体中のマナ(彼らは神性と呼ぶ。)を循環させる。
世界に広がる。世界のありとあらゆる所に存在する。世界の構成因子。
彼らが寵愛を受けるべきであれば神が与えるだろう。
そう考えている。
その御意思を窺わずに広めるなど信徒として行う事ではない。
そして御意思を窺うなど信徒のするべき事ではない。不敬である。
と思っている。
しかし、彼は彼の手駒を増やすことに際し、その考え方を改めた。
老人の指導により聖格を得、そして奇跡の術を受け取った者もいる。
――その資格がある者を導いてきただけだ。などとは言わん。
彼が教鞭を振るうのは、その素質がある者に対してのみである。
"素質"とはとても抽象的な物だ。
彼を卑しめる者たちは、彼の考えに賛同する者のみに教えを与えていると考えている。
それは間違ってもいない。彼は自分の信仰を誇っている。
だからこそ、その信仰に似た考え方の者には手厚く指導した。
彼と考えを異にする者には彼の経験は伝わっていない。
彼は他の者にとってはどうしようもなく利己的で背徳的ではあるが、己の信ずる神に対してのみは馬鹿正直である。
彼は自分と異なる考え方を持つものが自分と異なる奇跡を会得するに至り、その信仰する神が違うのだと結論付けた。
自分に力を与えた上位者に対してのみ彼の信仰は捧げられるのだ。
だからこそ、彼は己を利する事こそ信仰の表現の方法だと考えている。
――私の行いは間違っていたのか……。いや、そんなはずが!
彼の成功者としての人生は、上位者の支えがあってこそだと思っている。
だからこそ祈りを欠かしたことなどない。
――やはり……。異端がいる。我が神の力を邪魔する者がいるのだ!
彼の凝り固まった思考ではそれが限界であった。
老人はヤーラカーン国の窮地に際し、己の信ずる上位者以外を信仰する者を排除しようと考えている。
それが大国の破滅への一方通行になるのかもしれないなどとは頭の隅にも思ってはいないようだ。
――そうだ。マダイラも異端だ……。何が冒さざる血だ。何が冒さざる地だ!
老人の中では。老人でなくとも勢力が弱い敵から滅ぼそうというのは間違った考え方ではないだろう。
だが、彼らがどれほどの物が見定める必要はあるとも考えていた。
特にショーイという者の力は侮れない。
報告にあったような多数の奇跡を用いるのであれば、それが邪教の術であっても利用が出来るのであれば骨までしゃぶり尽くすべきだ。
――ヤーラカーン内での神官位を与えてやれば、奴等はなびいてくるか?尻尾を振ってくるか?
――そんな簡単に行くわけもないか……。
老人はマダイラの隠者たちに嫌悪感を抱いていた。
ドゥーランもまた神託を受けし者である。
だが、マダイラの神官等は自分たちが真の信仰を行っていると驕り高ぶっている。と彼は感じる。
その思い上がりが渡来人のマダイラへの侵攻に繋がったのだ。
彼は嘲り笑った。
――奴らは信ずる神を間違えた。その事を知らせてやろう。
老人は孤高であった。孤独でもあった。
彼の信ずるは彼の上位者のみである。彼と信仰を同じくする信徒も彼にとっては敵である。
己で独り占めしたい。
それは愚かな事であろうか?
彼は己の信ずる神に対してのみは馬鹿正直である。
老いてもまだその欲望は収まりが着かない。
彼は今も昔も馬鹿正直に求めている。
ただ愛を求めている。




