アウトローに学ぶ異界生存戦略.52
私が異変に気付いた時には我々の行動だけでは手助けにすらなりそうもなかった。
「ショーイ様、助けが来たようで」
「分かっている」
何か重たい金属があの長い階段を転げ落ちる音は聞こえていた。
そして、何やら戦闘音が響いているのも……。
というのも私の隣の一枚の衣服の切れ端には魔法を施し、布きれから周囲の音の全てを拾って垂れ流している。
魔法回路である魔方陣に流す魔力量によって持続時間が変わるのだが、これの燃費は悪い。
それに音源との距離を無視しているため近くで音がした事までしか分からないのだ。
戦闘中の指揮を的確に伝えるものとして生まれたものだが時代遅れが過ぎる。
今では基本は精神感応の魔法がお互いに使えるのであれば必要のないものだ。
軍としての戦いは日々進歩しているのだ。
だが、今の彼らの戦い方は軍ではなくただの群れだ。
目の前に餌に群がるだけの集団では勝利に多大な犠牲を払わなければならない。
そうだ。目の前の餌ではなくその奥の真の目的に到達する部隊が必要だ。
それは私とジョアルの役目だろうな。
床に張り巡らせた魔方陣に魔力を注入する。
大気のマナを効率よく取り入れ用いるために私は目を瞑りさらに深呼吸をして精神を統一する。
術式を頭の中で巡らせ魔方陣を思い描く。
魔法は技術だ。選ばれし者にのみ与えられた贈り物では決してない。
その証明に私は私以外の者が得た力をここに行使するのだ。
口元から言葉が紡がれ始める。
初めてこの術を用いた者がさらなる現象の発生、そして発生の安定のために長年研究した成果。
他の者でも用いられるように単純化された術式。
劣化品などではない。ここにあるは、一人の魔術師が生涯をかけて一般化した詠唱。
それをさらに他の魔法使いたちが法則を導き出した英知の結晶なのだ。
私のこの魔法の発現には、過去の偉大なる故人たちの血と肉が詰まっている。
私の得た物は、過去から連綿と続く人々の記憶と経験。
私もまたこの技術を後世の者に伝える責任があるのだ。
素材すら不明の床が盛り上がる。
私の詠唱の完結により結実するは真理のその一端。
私は今、真理の一端の担い手としてここにいるのである。
私の体内中の魔力という魔力が注がれていく……。
術式を壊さぬように慎重に、それでいて与えるべき代償は躊躇することなく与えて……。
「ショーイ様……」
ジョアルの声が遠くで聞こえる。
私の精神は今、世界の真理と繋がるのだ。
頭の中を鋭利な刃物で突き刺したように、血の気が引く。
何も考えられない。いや、考える必要などないのだ。
捧げるべきはこの力。妖精との混血である印。魔力である。
私は一人ではない。過去の者たちと共にいるのだ。
そして、私の決戦への準備が整ったのだ。




