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アウトローに学ぶ異界生存戦略  作者:
1章 異世界で奴隷から神官、そして魔の者への扉を開く
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アウトローに学ぶ異界生存戦略.36

 仄暗い洞窟の地面に横たわっていた俺が意識を取り戻したのは、粘液状の液体が俺の身体に落ち、そこからしとしと顔に向かって流れてきていたからだった。

 眼前には大蜘蛛の顔面が宙で止まっており、その蠢いていた口には杖が深々と刺さっている。


 組み合わせることで背負子や担架に出来、そのために一定の丈夫さを持った杖。

 この長さが少しでも短かったら俺は巨体に潰されていたところだ。


 口から入った杖が頭胸部を貫いている。


 いくら外骨格が硬くても口からならと思ったが、まさか貫くとは思いもしなかった。

 蜘蛛が脱皮するのかは知らないが、それで大きくなる生物だって強靭な外骨格を自力で破るのだ。威力さえあれば……と思っただけなのだが。


 俺がやったことと言えばダーヴィルが地面に突き刺すほどの勢いで投射した杖を蜘蛛の口に入る様に調整しただけだ。

 十分に刺さっていなければ大蜘蛛を串刺しにできず、深すぎれば口に誘導できずに外骨格に弾かれていたかもしれない。


 こう考えるとこんな手段に命を張った馬鹿を張り倒したくなる。


 俺は生きている。動いている心臓を確かめると曖昧だった現実感がじわじわと頭に染み込んでいった。


 どっと疲れが出る。

 俺の肉体的にも精神的にも限界だった。


 空想上の化け物との死闘は、もし冷静でいたのなら逃げる選択しかなかっただろう。


――重症だ。


 俺の精神状態は非常に重体であると言っていいだろう。

 今では、なぜダレスが追うのを止めなかったのか、そして自分も引き返さなかったのかが不思議である。


 これで一件落着という訳ではないが、俺はこれで廃寺院まで引き返そうと思う。

 後は野となれ山となれ。


 第一階層の支配者と思われる守護者は倒したのだ。

 もしかしたらコイツがこのダンジョンで一番強かったのかもしれない。

 もう経験豊富な者たちに任せよう。


 そう考えながらぼんやりとしていたが、何か得体の知れない恐怖が思考の隅をチラついた。


――卵。


 そうだ。ここにある卵。


 そしてダーヴィルの姿が見当たらないことに、俺の恐怖心がとある結論を急かす。


 なぜ今その仮説を思い至ってしまったのか?

 俺は身動き一つとる事すら躊躇してしまう。


 どこかにいる。いるかもしれんのだ。


 この化け蜘蛛の『対』となるもう一匹が。 

 そう考え始めると嫌な事しか浮かばなくなる。


 入り口でダレスたちは捕えられた。そして獲物が多く捕縛されていたのは"入り口の方"だ!

 なぜ新しい獲物である俺たちが入ったのにも関わらず、大切な卵があるこの巣穴の深くまで大蜘蛛は戻ったのか?


 戻ったのではない!初めからこの卵たちを守っていたのではないのか!?


 初めから"赤子用の餌の捕獲"と"卵を守る"事を分担していたのではないのだろうか?


 身震いが止まらない。

 もう一匹いたら俺はどう足掻けばいいのだろう……。

 失神している間にダーヴィルの生死さえ不明となった。


 実際に目に見える脅威であれば、ショックにより麻痺した精神が恐れを軽減させてくれる。

 しかし、何一つ状況が分からない事が、結局すべてが無駄だったかもしれぬことがこれほど心に負担をかけるとは思いもしなかった。

 冷静になった頭は嫌な事しか想像してくれない。


 始めは到底予測もつかなかった新たな絶望の仮説に俺の思考は支配されてしまった。

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