アウトローに学ぶ異界生存戦略.33 呪詛 VSクロウルスパイダー
――魔法の基礎はイメージだ。理論立てられた物の方が強力であることも再現性が高いこともあるだが、基本が出来なければ現界するものではない。
ショーイのレクチャーだ。
――自身の魔力だけでどうにかしようとするな!この世界に満ちるマナ、神々が戯れに与えてくださった世界と自分自身を重ねるのだ。そうすれば自ずと行うべき詠唱が悟れるものだ。
ただの根性論である。そんな天啓があるなんてのは狂人の妄想だけにしてもらいたい。
――すべての人類の英知はその妄想から発展したのではないのかね?理論なんてのも実際に検証するまでは想像にすぎん。その想像を補強する類似する現象の情報が散漫的に存在するだけだ。
こんな時に彼の安否が心配になる。ほんの数時間だが彼とはいい関係が築けそうな気がしていた。
ほとんどの時間は奴隷と主人でしかなかったが、あの時間だけは嘘でも俺にとっては心を少しでも許せた時間なのだ。
――求めろ!真実を!探せ!己の信念を!全ての魔方陣の始まりは求道者の心からの叫びである!と私は研究しているのだ。まあ少々偏った見方であるかもしれんがね……。
自嘲気味に笑った顔が思い浮かぶ。あれは自信に満ちた大人の男の見せる一瞬の隙であったのだろう。
俺はまだ餓鬼だ。だが、その事で彼が侮ってきたことはない……と思っている。
ショーイは俺という個人と向き合ってくれたのだろう。もし勘違いだとしてもこれは俺の信じた真実だ。
迷うことはない。
「認めろ……認めろ……認めろ……」
呪詛のように呟く。俺の放った弾丸は当たる。当たるのだ。絶対に。
「我が真実を認めよ」
体中の毛穴という穴から何かが抜ける気がした。
そして……。
一瞬脳裏に魔方陣のような円形の模様が描かれた。
あまりに早すぎて詳細を覚えることなど出来なかったが、俺は紛れもなく『魔法』を体験している。
脳裏に祝音が閃くと頭を巡っていた無駄な考えが薄れ、意識が目の前の滅ぼすべき敵に集中する。
視界のほぼ全てが闇に染まる。次第に狭まっていく光の世界。
その中央に捉えた大蜘蛛の目と目があった気がした。
その瞳、たかがムシケラの瞳から感情を読み取る。
それは恐れ。それは忌避。それは畏敬。
魔物という邪悪な存在に今俺は恐れられ、それでありながら敬われている。
言いようのない優越感が俺を包んだ。
脳は興奮と優越感から口元の筋肉を緩めるように命令を下す。
――そうだ!俺を恐れろ!俺を敬え!
ただ生き残るためなんて言い訳をしていたのが馬鹿馬鹿しくなるほどの快楽に溺れそうになっていた。
――俺を認めろぉおおおおおおおおおッ!
「我を恐れ縮み上がれ」
口からもう一つの呪詛が紡がれる。
またもや頭の靄が消し飛び、心にさわやかな風が吹く。
俺はあまりの快感に意識が飛びかけていた。
「グギョオォオオオ!!」
化け蜘蛛は激しくのた打ち回りながら、半狂乱する。
そして委縮し体に密着するようにした脚が――。
消し飛んだ。
弾丸はどこに向かったのかさえ分からない。そんなことなどどうでもいい。
――勝てる!
大蜘蛛は口から体液を飛ばしながら俺を見てくる。
恐怖と殺意の入り混じった目だ。
内臓までズタズタにされ、体液を吐き出しながらも蜘蛛はまだ動いていた。
魔物の叫びに僧兵が振り向き、ハンマーを握る手が、そして腕がこれでもかと膨張する。
隙を窺っていたダーヴィルが蜘蛛へと疾駆する。
そして俺は求める。
己の願いを……。




