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アウトローに学ぶ異界生存戦略  作者: 沖
1章 異世界で奴隷から神官、そして魔の者への扉を開く
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アウトローに学ぶ異界生存戦略.34

――言葉が出ない。

 先ほどのような気後れしそうなほどの感情の波がなくなってしまった。


 勝利を確信したその瞬間、俺は失語症となったように口からはヒューヒューと吐息が漏れるだけだ。


 意識ではなく無意識下で唱えた呪文の発動は、俺から緊張の糸を切ってしまったのだ。

 視界を覆っていた闇の気配も脳裏を焦がすような呪の紋章も頭に浮かんでこなくなった。


 脚を数本失ったとて蜘蛛は勢いを落とさない。俺を標的へと据えてその巨体で突撃してくる。


「キシャアァアアアア!!」

 頭から齧り付こうというのか……。

 ただその貪欲さを示す複数の牙は蠢き、貪るために動く。


 死は隣人である。

 ほんの一瞬の気の迷いが全てを奪い尽くす。


「どらぁ!」

 瞬間世界に虹がかかる。灰色と透明な液体の虹。

 それは大きく半円を描き、対象物へと着弾する。


 冒険者のハンマーの一線だ。


――ぐりゃり

 ひしゃげた脚を構いもせずに残りの脚で邪魔者を弾き飛ばす。

 数回バウンドしてから卵にぶつかり、卵が衝撃を吸収し潰れる形で地面に倒れ込む。


 対して、蜘蛛の意表を突いたのはダーヴィルである。

 

 飛びかかるように背に乗り、杖と腕を使い化け蜘蛛の頭部を締め上げる。

 このまま捻じ切るつもりなのだろう。


「ハッハッハッハッハッ!」

 脚を踏ん張りの効く位置につけ、その締め上げる力に脚力が乗る


 狂乱の叫びは暴れ狂う大蜘蛛と共に周囲の卵もろとも薙ぎ払いながら踊る。

 暗闇の中、大きく見開いた瞳をギラリと光らせ、対象の瞳から生気を奪い尽くさんとする。


 手に握るリボルバーの撃鉄を再び起こすが、これでは撃てない。


 肝心の本命近くにダーヴィルが喰らい付いている所なのだから。


 奇声混じりに突っ込むのは冒険者だ。

 その必死の叫びがダンジョンに木霊する。


 振り回されそうになりながらもダーヴィルはその力を緩めようとはしなかった。


 狂乱の戦闘の中、膝から折れる様に崩れてしまったのは俺の身体だ。

 言葉が出ない。これは俺が魔力の使い方を間違えたということなのだろうか?

 ショーイの言葉を思い出そうとしても肝心のシーンが思い出せない。


 蜘蛛が壁に激突しダンジョンを揺らす。

 その地響きはどこまで届いてくれるだろう。ショーイたちは気付いてくれるだろうか?


 撃鉄を起こしてあるリボルバーを片手に、いつでも発砲できるように標的を狙う。

 蜘蛛の脚が空気を裂き、僧兵の男の顔面を横なぎに殴りつける。


 未だ戦況は良くて五分五分だ。これでも甘くつけている。


 魔法の詠唱。それに伴う負担。

 今の俺は役に立たないただのゴミだ。


 距離を測りながらもなんとか立ち上がろうとする。

 やっと足に力が入ってきた。

 しかし、慌てたところで俺に出来ることは少ない。


 暴れ狂う大蜘蛛はその底なしの体力により勢いが衰える様子はない。


 咆哮と共に再びハンマーを振りかぶる。

 しかしそのどてっぱらに柱のように太い大蜘蛛の脚が突き刺さった。


「……」

 崩れるようにハンマーを手放し、力なく項垂れる冒険者。即死だ。


 俺はただ震えて何もできなかった。

 また……何も出来なかった。


 邪魔な虫を払うように串刺しの人間を振りまくり、大蜘蛛は少しの間移動を停止した。


 首元にはダーヴィルが未だ締め上げているも効果は薄い。やはり一思いにくびり殺さなければならなかった。しかし、疲労の色が見えるダーヴィルにもはやその力は残されていないだろう。


 一歩一歩だ。

 一歩一歩地面に放り出されたハンマーへと歩み寄る。


 蜘蛛は死体を脚から引きはがすことに夢中でまだ意中に入ってはいない。


 俺は俺自身に語りかける。


――さっきと同じだ。やれ!やれ!動け!動け!


 細心の注意を払いながらも最短で。

 いつもの通り、俺は俺に刻まれた通りの考え方で。


 大蜘蛛が死体を振り払い、こちらを見据えたのはその時である。

 大型肉食獣に睨まれたように。それは俺をあざ笑うかのように……。


 その姿が無性に苛立たしかった。

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