アウトローに学ぶ異界生存戦略.30
次第に大きくなる足音に一同への緊張が走る。
「ダーヴィルさんは俺たちの後ろで神官様を守っていてください!」
ダレスに反応するようにダーヴィルが前に出てくる。
手に持っているのはただの太い棒きれ、杖である。
この場に戦士と言えるのは冒険者の三人だけだ。
足音が急に鳴りやんだ。
「警戒!今までこちらに気づいてなかったのか!?だが!」
足音が再び部屋内に広がる。
――タッタッタッタッ
「シッ!」
通路正面に陣取っていた女が穂先を滑らせるように突き出す。
瞬間。血があたりに飛び散る。獲物に命中したのだ。
「ピグゥゥウウウ……」
通路から飛び出してきたのはイノシシほどの大きさの鼠であった。
その右前足に槍が食い込み、急停止した体が少しの間宙に浮いた。
女は巨体との衝撃に歯を食いしばる。槍を持った手が多少滑る。しかし脇に挟んだ槍は食い込みを強くする。
ヤヌ族の脚力により裏付けされた瞬発の刺突。
さらに衝撃を耐えるだけの踏ん張り。女の太ももに逞しさの証である筋肉の線が入る。
「でかい……」
そんな当たり前の感想を漏らす。
両サイドから振り下ろされる剣とハンマーが大鼠の巨体を襲う。
「おらぁ!」
片脇を抉られ、もう一方への重量武器の衝撃に地面に突っ伏すような形で伸びる体。
一瞬のうちに大きなアドバンテージを得る待ち伏せ攻撃。
そしてそれを可能にする連携の精度。
大鼠は激しく抵抗するも滅多打ちにされるばかりである。
槍には返しがあるようでいくら抵抗しようとも槍は抜けず、さらに力でも負けているようでいくら押そうとも引こうとも女はびくりともしなかった。
「よし!そのまま抑えててくれ!」
ダレスに頷くようにさらに腰に力を入れる。
「ようし!止めを!刺すぞ!」
ダレスの喝に応と返事をする二人。
そして再び剣とハンマーが巨獣を打ち据えようとした時である。
大鼠に糸が無数に絡みつく。
「えっ?」
間抜けな声と共に女が通路の奥へと引きずり込まれる。
大鼠の仕業ではない。
大鼠と共に女が通路の奥へと消えた。
「なッ!」
ダレスがそれを追うように通路に駆け込む。
――あああああああああ!?
通路の奥から苦痛の叫びと共に肉をねじ切るような音が聞こえる。
「……」
言葉にならない。さっきまで優勢だったのに何が起こったのだろう。
「カーマ様……」
腰に手を当てる。ショーイから奪ったリボルバーで対応できるか。
いや、しなければならないということか……。
「まだ二人は生きてるかもしれねぇんだ。神官様方すまねぇ」
僧兵はそれだけ言い残すと通路の奥へと歩を進めていく。
その背には恐怖と焦り、そして諦めに希望。
多くの感情がない交ぜとなっているのだろう。
「カーマ様!」
ダーヴィルに肩を掴まれ意識を目の前の出来事に集中させていく。
「カーマ様、我々だけでこの先を進むことは不可能かと……。撤退をお考えになるべきかと」
「……ダレスたちは?」
「彼らは冷静な判断を失い見誤った行動をしてしまったのです。これでは全滅もありえます」
腰のリボルバー拳銃に手が触れる。
ここは逃げ出すべきだ。そう思う。だが、逃げ出したところで他の者たちが聖地を奪還することなどできるのだろうか?
この第一階層には手慣れた冒険者パーティでもやられる魔物が住みついている。
自分で何も出来ず、ただ他人便りに己の運命を任せることなど……。
俺には出来ない。自分で出来ることはしないと後悔すら出来ない。
そうだ。俺は自分の行動の範疇であれば自分で動かなければ、いざという時に何もできない事を知っている。
ただレールを暴走列車の様に走り抜け、脱線した先にまず自分にあったのは何だ?
命令を遂行できなかった自己否定と次の命令を渇望する受動的選択。
それでは駄目だ。
誰が自分の運命に責任を持ってくれるというのだ?
そうだ自分のみなのだ。




