アウトローに学ぶ異界生存戦略.26
朽ち果てた街路樹が左右に立ちふさがる奥、ネクロパレスへの入り口である廃寺院が現れた。
街の中でこの付近だけが霧に閉ざされ、寺院からは薄らと明かりが漏れ出している。
「ここからは魔の領域です。お二人ともよろしくお願いします」
お付きの僧によろしくと言われても何も出来ないのであるが、応とだけ返事はしておく。
寺院の隣の墓地ではカラスのような鳴き声が響いてくる。
「みなさん!早く内部に入りましょう!」
次第に濃い霧がかかる中で彼女の姿もおぼろげだ。
走り出す中、周囲からは悲鳴が何度も聞こえる。
俺は寺院の明かりを目指し、より周囲が見渡せる霧の薄い所を通る。
一つ、二つ、三つと霧の中を進むと寺院の入り口を瞳が捉えた。
そして入り口に飛び込もうとしたとき。
「危ないッ!」
突き飛ばすように腰から下にタックルを食らい、数回転しながら寺院内に転がり込んだ。
打撲部分をさすりながら入り口を見ると、まさに巨大な影が通り過ぎる瞬間。
影は扉の前まで急降下すると寺院の燭台の明かりを一瞬反射し、直に急上昇し視界から消えた。
「大丈夫ですかカーマ様……」
腰元からカルナが呟く、彼女は倒れざまに地面に着いた手首を抑えている。
「ええ……」
良く分からなかったが危機を脱したらしい。
寺院内を見回すと数名の冒険者と目が合う。
誰も彼も体中を傷だらけにしていた。
他にも寺院内にひしめくように人がすし詰めにされていた。
「一体何があったんです?」
ジョアルが頭皮をポリポリと掻いて冒険者と話し込んでいる。背中にはショーイが背負われたままであるがどうやら寺院に入るときに頭をぶつけたようだ。
頭を押さえながらも俺とカルナが倒れ込んでいるのを見ていた。
ショーイは俺の腰の辺りの拳銃を気にしていたのだろうが、カルナが慌てて立ち上がる。
「カーマ、彼女がいなければ貴様の首はもげていただろうな」
「あの影が……?」
「どうやらダンジョンというのは本当らしい。しかし、入り口周囲まで瘴気が充満しているとはな」
「瘴気……?」
「あの霧だ。原因は分からんがダンジョン内に充満している気体だよ」
霧の中から叫び声とともに新たな来訪者が飛び込んでくる。
二人の僧を引きずるようにダーウィルが俺の上を飛び越え着地、引きずられていた者は息切れしていたがダーウィルは呼吸一つ乱していないようだ。
「神官様。どうやら外部への脱出手段が絶たれたようです」
淡々とした中に焦りの感情は見えない。
「霧の中は凶烏ドゥームクロウが群れでいるようです。この廃寺院地下のような狭い通路ならまだしもこのように霧の中では厄介です。聖火の灯の中よりでない事をお勧めします」
「聖火の灯……ね……」
ぽつりとショーイが呟く。見知った事柄のような物言いだ。
ブリュータスのダンジョンにも『聖火の灯』のようないわゆる休息の安全地帯があるのだろうか。
文字は異なるが言語、そして一部の知識が合致する。この意味の違いが判らない。
俺の常識では測れない事が古代にあったのだろう。
ジョアルと話し込んでいた一人の剣闘士風の男(ただ兜が装飾から面構えまでしっかりしている癖に体を守る装備が少ないだけなのでもしかしたら高価な兜を拾ったのかもしれない。)がジョアルを無視して俺の方へと歩いてきた。
「神官様。これはいったいどういうことなのでしょう?」
フルフェイスの兜から表情は見えないが、むき出しの肩などが震えている。足取りには疲労の色が見える。
「どれ詳しく話してみなさい」
これに答えたのは俺ではなくショーイ神官であった。




