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改造戦士サンダルガー  作者: 実時 彰良
登場人物
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08.言ったことが全部、真実になるチート少年

 嘘も百回言えば、真実になる――。


 どこの国の(ことわざ)かは不明。日本、もしくは韓国や中国ともいわれ、また一方で、第二次大戦下に、ナチスドイツの宣伝部長ヨーゼフ・ゲッペルスが「もしあなたが十分に大きな嘘を頻繁に繰り返せば、人々は最後にはその嘘を信じるだろう」と発言をしたものが、起源であるという説もある。


 プロパガンダの恐ろしさを巧みに言い表しているため、ネット上のネガティブな国際的議論において、この言葉がたびたび出てくることがある。



 だが、言葉の意味そのままに「嘘を百回いうことで、その嘘を真実にする能力」を持った少年がここ、中野区に存在する。


 能力名称は「嘘八百」


 八×百――、つまり八回まで「嘘を百回いうことで、その嘘を真実にする能力」を使えるというもので、能力者の名は、二階堂(にかいどう)舞二(まいじ)という。


 少年漫画やライトノベル、映画で登場しようものなら、ラスボス級、もしくは物語の進行を妨げるとして邪魔者扱いされ、なかなか物語に登場させてもらえないであろうレベルのチート能力を、小学校三年生の夏に「絶対神ガーゴリン」より授かった舞二は、これまでにこの能力を六回、使用した。


 一度目は能力を授かった翌日。夢に出てきた「絶対神ガーゴリン」の存在に半信半疑だった舞二は、寝ぼけながら「その嘘」を百回いった。内容は「ぼくは今朝、アイドルの多治比(たじひ)愛実(まなみ)とキスをすることになってる」というものだった。結果、小学校に登校する途中、自分ひとりしかいない路地裏で、マネージャーが運転するベンツから降りてきた多治比愛実にいきなりキスをされ、それは叶った。


 二度目は、自分の「能力」を信じない同級生のために「明日から一週間、学校を休校にさせる」というものだった。実際、学校内で教師、生徒ら数名から伝染病が発覚し、一週間休校になった。マグレだろ、と言い放つ彼らに対し、ひとつ能力をムダに使ってしまったと、舞二は悔しがった。


 三度目は、お昼のバラエティ番組「笑って、いいかな?」の超能力者コーナーに出演するというもの。通りすがりの番組プロデューサーに突然「番組に出ませんか」とオファーされた。舞二のことも、能力についても何も知らないはずのプロデューサーは名刺を渡す際、なにかに操られたかのように目の焦点が合っていなかった。


 四度目は、その番組内で「A国とB国の戦争を止めます」と宣言し、生放送中に百回それを唱えた。十分後、番組は中断され「A国とB国の戦争が終結を迎えた」と緊急速報が流れた。


 その夕方から連日、舞二の家の周囲には報道陣、事情を知りたがった日本政府の代理人が詰め掛けるなど大忙しとなった。学校では人気者になるどころか白い目で見られ、誰も舞二に近づこうとしなかった。


 五度目に、家の前に詰め掛けた報道陣を前に「ぼくにストレスを与えるやつは、死んじゃうよ」を百回言った。それを聞かされ報道陣は、舞二に関するニュースを自粛し、ご近所さんやクラスメイトたちは、二階堂家に近づかなくなった。


 六度目で「みんなぼくの能力について忘れてほしい」と言おうと思ったが、それはやめた。


 なぜかというと、舞二は「規格外の特殊能力」を持ってしまったがため、静岡県の両親の元を離れ「政府特別措置枠ヒューマン」として、中野区にある「政府指定」都立・埜煤(やばい)高校に通学するようになったのだが(東京に憧れていた舞二は、この事についてはストレスを感じていない)そこにいる生徒たちは皆、宇宙人、悪の組織に改造された被害者、特殊能力保持者、今年の春に迷い込んだ未成年の異世界人など、クセモノ揃いで、自分などちっぽけな存在に思えるほどバラエティに富んでいて、世界が広がる思いがしたからだ。


 舞二は学校が好きだったし、彼らも「嘘八百」の能力を保持する舞二に対して、分け隔てなく接してきた。


 だが、ある日、生徒の一人である吸血鬼の山本くんと、好きなアイドルグループのCD売り上げ枚数について口論になり、舞二がストレスを感じたせいで山本くんが死んでしまった。


 六度目の能力で、山本くんを生き返らせたものの、それ以来だれも話しかけてこなくなったし、舞二の方から話すこともなくなった。


 七度目の能力で、この「嘘八百」を無効化しようと考えた。だが「嘘を百回いうことで、その嘘を真実にする能力」が何か「自分が背負った大きな使命」のために使えるかもしれないと考え、思いとどまった。



 そして、現在――。


 舞二は、がらんどうな倉庫で、椅子に縛り付けられていた。


「バベルタワー中野の親睦会行きたかったなぁ…。超能力少女の安東ナツちゃん…、魔法少女の五人組…宇宙少女の月見里ゆりねちゃん…、学校で喋れなかった彼女たちと喋れる機会だったんだけどなぁ…まぁでも、ぼくが友達なんてつくることできないし…今の状態じゃ、どの道どうあがいても行けなかったわけだし。しょうがないか」


 今年の春から「バベルタワー中野」の二階C号室に独りで住む舞二は、まだアパートの住人たちに挨拶をろくにしていなかった。


 ずんぐりとした体型に、オカッパ頭の舞二は「絶対神ガーゴリン」より与えられた能力「嘘八百」の副産物である、二枚の舌をペロっと出して欠伸をした。


 室内を煌々と照らす電球に羽虫が集まっている。窓の外は豪雨。稲光が倉庫内で射し込み、時間差で雷鳴が轟いた。


「ここが新宿だから、落ちた方向は中野あたりかなぁ…屋上でバーベキューやってたんだろうけど、中止だなこりゃ。あ~あ、参加しなくってよかったぁ」


 ふいにポロシャツの下で右肩が痒くなり、縛られたままの身体をダメ元で動かすが、括りつけられた椅子ごとガタガタするだけでロープを抜けられる様子はない。


 ここに拉致され、実に二時間が経過しようとしている。


 中野区にある「政府指定」都立・埜煤(やばい)高校の授業が終わり、下校途中だった舞二を攫ったのは「悪の組織アンジャスダイ」の戦闘員だった。


 全身黒タイツで「キィィ」しか言わないイカレた連中に、バンへと押し込められ、安全運転で二十分。車内では両脇を戦闘員に挟まれていたものの、詰めが甘いのか目隠しの類はされなかった。


 到着時、カーナビには「新宿区」と表示されていた。


「キィィ」


 戦闘員の一人が叫びながら「アンジャス総統がここに来るまで大人しくしてろ」と書いたホワイトボードを見せてきた。


「あの…言葉つうじるんですか」


「あたりまえだ。お前らの言葉は学習済みだ。ネアンデルタール人を舐めるなよ」とホワイトボードに書きなぐり、戦闘員たちは消えた。


 だが、アンジャス総統とやらは、まだ姿を見せない。


「これくらいじゃ全然ストレス感じないし、ぼくを連れ去った彼らが死ぬようなことはないな。いつの間にかぼくは、誰かを死なせないように我慢強くなっていたのかもしれない…」


 舞二はキンタマが痒くなった。だが掻く事もできず、やはり椅子をガタガタさせるだけに止まった。


「それにしても、ネアンデルタール人を舐めるなよ…か」


 戦闘員の言葉を思い出す。


 たしかネアンデルタール人は、二万数千万年前に存在した旧人類で、現在の人類――ホモサピエンスの直接の祖先にあたるヘルト人との生存競争に負け、地球上から絶滅した種族だったはずだ。


「そんなもん、いるわけないじゃん」


 吐き捨てるように言ったその時。


「それはどうかな?絶対神ガーゴリンに祝福されし存在…、嘘を真実にできる能力者の二階堂舞二くん」


 倉庫の扉が開いた。


 複数の戦闘員たちに囲まれ現れたのは、金色の外套(マント)を羽織い、面長な輪郭で、鋭い牙を持つ髑髏の仮面を被った白髪の男だった。髑髏をあしらった杖をついているものの、足が悪いというわけではないらしい。


 戦闘員の一人が「お待たせ~、アンジャス総統のお出ましだ!」と書いたホワイトボードを見せてきた。


(これが…アンジャス総統か)


 舞二はごくりと唾を飲み込む。


 なるほど、アンジャス総統や戦闘員らをネアンデルタール人として見れば、確かに彼らは面長でサルっぽい輪郭をしている。まるで図鑑で見る原始人のようだった。


「私たちネアンデルタール人は、君らの祖先に地上を追われ…地底で屈辱の二万三千年を生きてきた…。そして去年、十六あった地底王国をついに支配、統一。地底王となったこの私…アンジャス総統は、君たち地上人から光の世界を取り戻すべく、こうして侵攻を始めたのだよ…ふふふ」


 アンジャス総統は三メートル近くある大男で、椅子に縛られたままの舞二に近づくなり、右手を左耳に、左手を股間に押し当てたおかしなポーズで地底人なりの挨拶をした。


「なんていうか、設定説明みたいなセリフありがとうございます。とても楽しそうですね」


「ふふふ…君もずいぶん言うね~。まぁ、今年の春になってようやく、我々も悪の組織として政府に認定され、目をつけられるようになった。そこで我々は、心機一転、地底王国という名称から、悪の組織アンジャスダイと名乗ることにしたんだよ」


「アンジャス総統率いる、アンジャスダイ…か。でもダイって死を意味する単語ですよね。大丈夫なんですか?」


 舞二は、目の前のネアンデルタール人に、少し同情したような口調で言った。


「そっ、そうなのか…ダイって大きいって意味じゃないのか?」


「日本語だとそうですけど、地上の半数以上は英語圏です。世界征服を実現した場合、アンジャス死す、って思われちゃいますよ。ダイなんて高校二年生のぼくですら分かる単語ですからね」


「ええ…そうなのか…恥ずかしい~」


 アンジャス総統は、スパッツを穿いた両足を蟹股ぎみにしながら、顔を両手で多い赤面した。


「あの~…他に何かあれば、手伝いましょうか。ぼくを拉致ったのも、なにか協力してほしいからなんじゃないですか?こんな風に縛らずとも、きちんと話し合いできるなら、ぼくだって応援するのに」


「舞二くん…君を拉致った私に対して、そんな風に言ってくれるのか」


 アンジャス総統は、髑髏の仮面の下で感動のあまり目を潤ませた。


「実は…地上へ侵攻して数日が経つんだが、厄介な奴らが出てきてね」


「正義のヒーローとかですか」


「そう…!レスキュー戦闘隊イレブンナインズとかいう五人組のヒーローさ。昨日も怪人ペラレル、怪人クダチール、怪人ナギャンテがやられた…」


「そんなに強いんですか、彼ら」


「強いなんてもんじゃない。強すぎる上に、我々を弄んでいる…全世界に実況中継される戦闘では、毎回きっちり二十分しか使わず、CM中は水分補給から軽食を済ませる始末。そしてCM明けは、わざとピンチになったふりをしながら巨大ロボで、我々を倒して帰っていく…私はまだ直接対決していないが、悔しさのあまり、近所のスーパーマーケットにあるレスキュー戦闘隊イレブンナインズの魚肉ソーセージを、十箱ほど万引きしてやった…彼らは強い、強すぎる。幹部の将軍ニュゲーン、将軍ミアガペ、将軍ポポシヌン、将軍チャベゲイ、将軍ボロリシアナは今朝、辞表を出して地底に帰っていった。強制出兵ではないため、彼らを引き止めることもできず…悪の組織アンジャスダイは、もうこの私と数名の戦闘員しか残っていない」


「そうなんですか…ぼくを、その組織に入れてもらえませんか。なんかアンジャス総統に同情するし、世界征服にも興味があるし」


「いいのか」


「でも、先に言っておきますが、高校にはこれからも通います。そしてぼくにストレスを与えないで下さい。ぼくにストレスを与えた人は、誰であれ、死んじゃいます。これは、ぼくの嘘八百の能力で決まってることなんです。あとこれも言っておきますが…ぼくが使える能力はあと二つだけです。ぼくは…自分が背負うべき大きな使命が見つかった際、最後の二つを使おうと思ってました」


「そそそそ、そうなのか…」


 戦闘員たちが慌てながら、舞二にストレスを与えまいとロープを解き始め、舞二は「どうも」と会釈する。


「一緒に世界征服しましょう」


「勝算はあるのか」


「いざとなれば嘘八百があります。でも、ぎりぎりまで努力だけで世界征服をしましょう」


 舞二は満面の笑顔で答えた。


「レスキュー戦闘隊イレブンナインズを倒したとしても…、改造戦士サンダルガーをはじめとする、最強のヒーローがいるらしいじゃないか」


「改造戦士サンダルガーは、ぼくのクラスメイトです。本当なら今ごろ、彼らとバーベキューしてたところですがね。運命とは不思議なものですね。彼らと親睦会をしていたら、ぼくは正義のヒーローの味方になっていたかもしれません。しかし運命とは、枝分かれした可能性のうち、たった一つだけ与えられた、貴重な選択結果だと思います。因果という言い方もできます。ぼくは、今日あの通学ルートで帰るつもりはありませんでした。でも、ラーメン屋に行きたくてあの通学ルートにした。今思えば、ぼくは世界征服をするために、アンジャス総統に拉致されたんだと確信をもてます。ストックホルム症候群とかそういうんじゃなくて、これは確信です。じゃあ、今日からぼくも悪の組織の一員…なにか名前をくれませんか」


「舞二くん…君ほどの能力を持つ人間なら、将軍クラスといっていいだろう。君の名は今日から、将軍マイジーだ!!!!!!」


「そのままじゃないですか。でも、まぁそれもいいですね」


 舞二は椅子から立ち上がる。そしてアンジャス総統に銀色の外套(マント)をかけられた。


 こうして、アンジャス総統と、将軍マイジー、数名の戦闘員によって、少数精鋭「悪の組織アンジャスダイ」は世界征服に向け、本格的に始動した。

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