第八十四話:共に戦うために
すいません、わずかに間に合いませんでした!
*致命的な誤字があったので一度訂正が入ってます
八社体制⇒発射態勢
次の花札に表示されたのは黒の武者鎧。あの銃使いだ。
となると俺が出撃するかと思ったらルーレットが現れた。おい、そんなもの元ネタに登場してないぞ。
ルーレットが止まり、針の先には『戦闘経験無しのみ』と書かれている。まさかこの意味って……
「ねえ、兄さん。これ本当?」
「え、見えてるのか?」
「うん。ルーレットはみんな見えるみたい」
後ろを振り返ると全員、正確には当事者以外の面々はその当事者二人を見ていた。
「「……」」
当事者二人、つまりスワンとリボンはうつむいていた。正直俺は盾があるからまだ戦闘ができたが、この二人では明らかにいろんな要素が不足している。レベルもそうだが、主に戦闘能力の面で。
「二人とも……」
エルジュも何を言えばいいのかわからず俺に視線を送ってくる。それに俺は頭を横に振ることしかできない。
しかも無常なことに二人しか該当者がいなかったせいか強制的にステージに転移された。こうなればもう二人を見守るしかない。
……そして俺たちは驚愕することになったのだ。
*スワン視点*
ルーレットが止まった時、私は思わず下を向きました。客観的に見れば戦闘能力の低い二人が強敵相手に挑まなければならないため諦めているようにも見えるでしょう。
同じようにリボンも下を向いていたからまさに絶望的展開です。
そのまま私たちは強制転移されました。目の前にはアルケさんが必死になって引きつけたあの黒武者がいます。
「ねえ、スワンちゃん」
そろそろ戦闘開始というタイミングでリボンさんが話しかけてきました。
その声は絶望ゆえの弱弱しい声……ではなく笑い声に近い感じです。
「なに?」
そして私の声も同じような音を響かせます。
「これってピンチだね」
「そうね」
黒武者の右腕の砲身からカシャと音が鳴ります。砲弾が装填されたのでしょう。距離が近いことと音の軽さからショットガンタイプみたいですね。
「なら、これってチャンスでもあるよね」
「そう、ですね!」
戦闘開始の音と同時に一気に後退する。同時に迫りくるショットガンの弾、たしか散弾でしたね。範囲が広いという利点がありますが離れてさえしまえば最小限のダメージで抑えられます。
黒武者が砲身を上に掲げます。あれは使用する弾を変更するときの仕草です。となればこれらか飛来するのは長距離砲弾です。
それにしても同じ砲身でショットガンとライフルの両方を成立させる性能、現実であったらすごそうですね。
長距離砲弾は一発だけですが威力が高く、散弾と比べると危険度が高いとエルジュから聞いています。一方魔法を砲弾に当てれば途中で爆破させることも可能みたいです。
なら、それを利用しましょうか!
「リボンは必殺技の準備を。できますよね?」
「……」
返事がないので振り返ればすでに魔力を高めています。なら、私は私のやるべきことをしましょう。
矢を構え、真っ直ぐ黒武者を見つめます。その視線の先は黒武者全体ではなく目です。機械なので目ではないのかも知れませんが。
以前からエルジュは「VRMMOの敵、とくに人型は目を見ればたいていの攻撃はわかる」と言っていましたが、ここ最近ようやくその意味を理解してきています。
それに気づいたのはアルケさんから紹介された妖精族の警備隊、フェアリーガードの方々との模擬線でした。
私とリボンの短剣技能の向上が主目的でリボンはそれに特化した訓練を受けていましたが、私は同時に弓の訓練も受けていました。
その時教えてくれた方曰く「遠距離の攻撃では常に視線は己の獲物が当たる位置を見ている。つまり、君がどこを狙おうとしているのかはっきりわかるのさ」なのだそうです。実際射ち合いになったとき、私の矢は一度もその方に命中することはなく、逆に私はハチの巣にされました。あの時は恐怖を覚えましたが、今となってはいい経験です。
その教えを守り、黒武者の目の動きに集中します。するとわずかですが右にずれました。そして私の右には魔力を蓄えているリボンさんがいます。
(させません!)
一瞬で軌道を読み、矢の軌跡が直線になるよう翼を使って瞬時に位置を調整します。
放たれる轟音の砲弾と風を切る私の矢がぶつかり、爆発を起こします。これも訓練の成果、その後の自主練の賜物です。
思った以上に煙が発生しているので翼をはばたかせて風を流し、視界を確保します。するとすでに次の装填を済ませ発射態勢となっていたので慌てて位置を修正して矢を放ちます。
油断できない攻防が続きますがどうあがいても私のほうが先に集中力が切れます。
(なので、なるべく早くお願いしますよリボンさん!)
*スワン視点終*
*リボン視点*
閉じた視界に聞こえてくる爆音。私を守るためにスワンちゃんががんばっている。できればすぐにでも加勢したいけど、私も自分にできる最大限のことをしなくてはいけない。
正直なところ、私はみんなと比べて圧倒的に弱い。私自身あまりゲームを得意ではないし、使用している弓や短剣を現実で扱った経験もない。一度試しに弓道部に体験入部したことがあるけど想像以上に弦が固いし重いしで全く引けず、一週間で辞めてしまった。
だからゲームが得意なエルジュちゃん、実際に弓の経験があるスワンちゃん、自分が興味を持ったことには情熱を注いで強くなろうとするシオリンの三人と一緒にいると自分の存在価値に戸惑うことが多かった。
そんな中、アルケさんから「一緒にクエストをやらないか?」と誘われた。スワンがすぐ答えたのもあるけど、私もすぐにOKを返した。
アルケさんも私同様、いや私以上にゲームの経験が無いと聞いていた。にもかかわらず前回の魔族襲来ではその存在を見せつけた。しかも役に立たないスキルと言われた【錬金術】を活用しての戦果は私に憧れを植え付けたのだ。
そんなアルケさんが教えてくれたフェアリーガードのみなさん。種族が違う私たちに短剣の使い方、戦い方を教えてくれた。
そして私は【短剣】のスキル上げに専念することにした。弓ではスワンに勝てない。総合力ではシオリンに勝てない。エルジュにはどうあがいても勝てるわけがない。
だからこそ、だれも鍛えてない【短剣】を鍛えることにした。
初めは自分だけしかできないことを見つけるために始めたが、いつしか楽しみを覚え、気づけば夢中になっていた。
その最中私は教えてくれた妖精族の方から一つの試練を与えられた。それは単純に教官相手に勝利すること。
当然最初は全く手が出なかった。でも次第に相手の癖を見つけ、相手の技を覚えるようになった。
そしてボロボロになりながらもようやく勝つことができたとき、私の視界にウィンドウが出現した。
『特殊条件を達成しました。スキル【短剣】が【妖精短剣術】に強化されました!』
当然の事態に驚いていると教官に抱き付かれました。女性でしたのでハラスメントにはなりませんが、あまりに強すぎて思わず失神するところでした。
その後も【妖精短剣術】を教えてもらい、必殺技ともいえるアクトも覚えました。
そして、今こそそれを披露する時!
「〔フライングスパイラルスラッシュ〕!」
叫んだと同時に私は飛翔を始めます。私からは見えていませんが、今私には鳥の翼の他に妖精の翅が生えています。さらに飛翔する私に追従するように紫色の光の帯が伸びています。
二つの翼で飛び上がり、その高度から回転ながら黒武者に向かって突撃します。
黒武者も対応するように私に砲身を向けます。しかしその砲身にスワンちゃんが放った矢が吸い込まれるように命中。さらに横に動くモノクルにも矢を命中させます。
スワンちゃんの援護に感謝し、勢いそのままに突撃します。
攻撃が当たった瞬間、高度からの急降下と回転の追加によって発生した力により、黒武者の足がステージから離れます。それによって私は回転しながら黒武者を光の壁に叩きつけます。
なおも続く回転。それによってドンドン黒武者のHPバーが消耗していきます。
残り二割になった瞬間、私は一旦短剣を黒武者から離します。そして回転の勢いを加えて一気に切り裂きます。そう、これはあくまでスラッシュ系統の攻撃なのです。
それにより、完全にHPを無くした黒武者はポリゴン片となって消えます。
回転が収まり、振り返るとピースサインをしているスワンちゃん。それに私もピースサインで返します。
こうして、私たちは強敵を倒す大金星を達成したのです。
*リボン視点終*
今回の話は「御旗のもとに」を聞きながら書きました。というより、要塞華撃団を登場させた理由の一つがこの二人の戦闘なのです。翼と弓でわかるひとはわかるとおもいます。
次回は22時に更新できるよう、がんばります。