表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双子星  作者: 泣村健汰
24/28

☆9月4日★ その2

 太陽の加護は無かったけれど、短針と長針は12の上で重なった。

「大塚君、橘さん、良かったら一つどう?」

 4人で囲み昼食をとろうとしていた時、古鷺の双子が話しかけてきた。その手には、大福がぎっしりと詰まった箱がいくつも乗せられている。

「僕達が作ってきたんだ」

「みんなに食べて貰おうと思って」

 良平と公平は、それぞれのんびりと笑った。

「お、いいのか? いっただき~」

 雅人が即座に手を伸ばし、一口齧る。

「お、流石だな~、美味ぇ。粒あんがいい感じだ」

 雅人に倣い、僕達もめいめい手を伸ばす。

「本当、美味しい」

「相変わらずいい仕事するね」

 由香里と里美も口々に感嘆の声を漏らす。

 僕も手元の大福に齧りついた。

 もっちりとした食感の中で、少し固めに似てある小豆が大胆に自己主張をする。砂糖の量も調節してあるのか、甘すぎず、塩味も適度にきいていて、本当に美味しい。

「喜んで貰えてよかった」

「それじゃ、まだまだ配らなきゃいけないから」

 行こうとする二人に、里美が声を掛ける。

「古鷺君達、まさか全員分作って来たの?」

「うん。2日にこの話を聞いてから、すぐに作り始めたんだ」

「この量は大変だったけど、頑張ったんだよ」

「僕達の事をみんなに、しっかり覚えておいて貰いたかったからさ」

「一番自信のある大福を、みんなに食べて貰いたかったんだよ」

 そう言うと、二人は手を振って大福配布の行脚に戻って行った。

「みんなに覚えておいてもらいたい、か……」

 由香里が自分の歯型のついた大福を見つめながら、愛おしげに呟いた。

「まぁ、あの恵比須顔は、こんな事しなくても忘れられないけどな」

 雅人が手にしていた大福を口に放り込んで言った。

「うん、あの顔と喋り方は、どうやったって忘れられないよね~」

 里美がそう続き、みんなで笑い合った。

 洞窟の外の雨は、水平線の向こうまで続いている。世界の全てが雨の底に沈んでしまったように感じるけれど、雅人の話しによれば、この雨は夕方過ぎには止むらしい。

「楽しいね」

 由香里が呟いた。

「こんな風に、みんなで楽しくおしゃべりしながら、ゆっくりと時間を過ごせるって、とっても素敵」

 そう言って手元の大福に、もう一つ小さな歯型をつける由香里は、本当にとても楽しそうだった。

「こんな時間が、ずっと続けばいいのに……」

「雅人ー!! 里美ー!!」

 不意に、後方から二人を呼ぶ声がした。

「おーぅ! どうしたー?」

 雅人が遠くの集団に大声で返事をする。

 声のする方を見ると、2組の生徒数人が集まっていた。

「この後の準備について、ちょっと聞きたいんだけどー?」

 準備?

「ああ、分かったー!!」

 そう言ってから、雅人は僕の顔を見た。

「準備って何?」

「それはお楽しみ~。あぁ、でも、飯どうしようかな……」

「二人が来るまで待ってるから、行ってきなよ」

「悪いな」

 雅人は顔の前に片手を上げて謝罪を示すと、里美と一緒に遠くの集団に混ざって行った。

「準備って、何だろうね?」

「ふふ、何かまた考えてるんじゃない?」

 由香里は昼食に蓋をしながら、楽しそうに答えた。

「そうだね、雅人の事だから、何かまた素敵な事を考えてるかもね」

「そうね」

 二人で軽く笑い合った後、僕達の間を沈黙が包んだ。

 気まずくなった訳でも、二人では会話が続かない訳でもない。

 僕と由香里は、魅かれる物が似ていると、僕は感じていた。

 だから、もしも由香里が今、僕と同じような事を考えているのなら、言葉を少し休めて、雨の音に耳を傾けたかった。流れるように降る雨音に耳を濡らし、心に沁み込ませたかったのだろう。

 昼食に埃が掛らないように片づけ、僕と由香里はどちらから言うでもなく、二人で洞窟の外の雨を眺めていた。

 耳に聞こえてくるのは、遠くで誰かが話している微かな声と、耳に沁み入る雨の音だけ。穏やかな時間の中で、自分の心臓の音すらよく聞こえてくる。

 生きている証の音が、内側から鼓膜を揺らしてくる。

 その時左手に、ふと冷たい物が触れた。

 それは由香里の手だった。

「不思議、叶人君の手なら、普通に握れる」

 由香里は僕の顔を見つめていた。

「殆ど、変わらないのに……」

 彼女の唇の端が微かに上がり、反対に眉尻は少し下げ、哀しげに微笑んだ。

「ねぇ叶人君。叶人君には、ちゃんと言っておきたかったんだ」

 一呼吸置いた後、由香里は僕の目を見つめた。

「私ね、舟に乗ろうと思うの……」

 僕の手を握る手に、力がこもる。

「雅人君と、一緒に居たいから……」

 雨が強くなったのだろうか……?

 雨足が先程よりも強く、僕の耳に聞こえた気がした。

 由香里は、まるで自分に言い聞かせるように続ける。

「だから、叶人君とは……、お別れしなくちゃいけないの……」

 ああ、そうか……。

「本当に、本当に寂しいけど、決めたんだ……」

 僕達は……。

「里美の事、お願いね……。本当に、本当に、お願いね……」

 魅かれる物が、似ているから……。

「だけど、本当は……」

 由香里の声が涙と混ざり、僕を握る手が、さらに強くなる。

「ずっとずっと、みんなと一緒にいたいの……」

「大丈夫」

 止め処なく零れ出しそうな由香里の涙を押し留めるように、僕は彼女の手を強く握り返した。

「大丈夫だよ」

 僕は、由香里にそう言った。

「僕達は、いつも、一人じゃないんだから」

 僕は、由香里にそう、言えた。

 ふと水平線の向こうに、太陽が光を射すのが見えた。

 雨を纏った光は、虹を生み出し、キラキラと輝いていた。

「……うん、ありがとう」

 由香里の微かな声が、降りしきる雨音に混ざり、そっと僕の耳にも届いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ