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双子星  作者: 泣村健汰
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☆9月4日★ その1

 ☆9月4日★


 肌寒さを感じて目を覚ますと、洞窟の外はすっかり雨に包まれていた。しとしととふり注ぐ雨は、洞窟の中に冷たい風を送り込んでくる。

 昨日と比べ、海は多少時化ていた。

 傍らの雅人は、まだ静かに寝息を立てている。

 昨夜は二人、ある程度落ち着いた所で洞窟内に戻り、そのまま倒れ込むように寝入ってしまった。

 時計の針は、7時半を少し過ぎた辺りをさしている。

 身体を丸めて眠っている雅人に、ずれたコートを掛け直してやる。僕もかけていたコートを羽織り直し、立ち上がった。

 昨日思い切り泣いた所為だろうか?

 頭は重く、目元は少し熱っぽかった。若干腫れているかもしれない。

 周りを見渡しても、起きている人はまだ疎らだった。

 壁際に目をやると、寝入っている由香里の姿を見つけた。その周囲には、里美の姿は見当たらなかった。

 どこに行ったのだろうと探すと、洞窟の奥の方でその姿を見つけた。海に流れ込む川の畔にしゃがみこんでいる。朝の身支度をしているのかもしれない。

「おはよう、里美」

 近づいて声をかけると、里美はこちらを振り向いた。

「ああ、叶人君か。おはよう」

 そう言ってから、里美は僕の顔を見て、プッと吹き出した。

「何?」

「目元、腫れぼったいよ? 昨日、一杯泣いたんでしょう?」

 里美の鋭い指摘に、二の句が継げなくなる。

「はい、これで冷やしなよ。ちょっとはマシになるからさ」

 里美は持っていたタオルを川で濡らし、僕に手渡してくれた。

「ありがとう」

 目に押し当てると、ひんやりとした感触が目の熱を吸い取ってくれる。

「由香里、まだ寝てるんだね」

 タオルを目元に押しやったまま、里美に話しかけた。

「うん、由香里の奴、昨日はちょっと興奮しちゃったみたいでさ、寝付きが悪かったみたいだから、起こしちゃ駄目だよ?」

「興奮?」

「こういう、みんなでお泊まり会みたいなイベント、由香里はほとんど初めてだったからね。楽しかったんじゃないかな? まぁ、二人の事心配もしてたから、後で話しかけてやってよ」

「心配かけちゃってたのか」

「まぁね、叶人君があんなに大きい声出すの、私も初めて見たよ。びっくりした」

 そうあっけらかんと笑う里美に、ごめんと謝る。

「ううん、いいんじゃない? たまには」

 里美が一度僕から目線を離し、雅人の方を見た。

「雅人もずっと頑張ってたし、ゆっくり寝かせてやっても、罰は当たらないよね」

「うん」

 頷きを返すと、里美は隣を指差して、座ったら? と言ってくれた。お言葉に甘え、隣に腰掛ける。タオルを返そうとしたら、後でいいから、持ってなよと言われたので、素直に従う事にした。

「里美は、知ってたんだよね?」

「何を?」

「いや、舟には、片方しか乗れないって事」

 里美は眉を寄せ、困ったような表情を作った。

「……うん、知ってた。何にもしてないけど、私も一応、2組だからさ。でも由香里に話したのは、昨日の夜なんだ。だから、まだ私達は決めてない」

「そうなんだ」

「叶人君達は、もう決まったの?」

「うん、乗るのは、雅人だよ……」

 そう返すと里美は、やっぱりそうか~、と呟いて、その場にごろんと寝転がった。

「何となく、そうじゃないかなって思ってたんだ~」

 上を向いたまま、うんうんと唸る里美は、うちらも後悔しないようにしないとね、と結んで、再び身体を起こし、川を覗き込んだ。

「どんだけ考えたって、正解なんて出やしないけどさ。私達がきちんと話し合って、納得して出した結論なら、その答えが間違いの訳、無いよね?」

 里美はそう言って、僕の方を振り返った。

「これから離れ離れになったとしてもさ、私の中に由香里は生きているし、由香里の中にだって、きっと私は生き続ける。そう思えば、そう考える事が出来れば、きっと私は、これからも生きていける。そう思うんだ……」

 里美は僕の目を真っ直ぐに見つめながら呟いた。だけどもそれは、僕だけではなく、自分自身に強く言い聞かせるような、そんなニュアンスが感じられた。

 その言葉に感化されたのか、僕はふと、左頬に熱を感じた。

 痛みはもうかなり薄れたけど、雅人の拳の感触はしっかりと覚えている。

 思い返しても、あんな風に殴りあって喧嘩をした事なんて、今まで一度も無かった。初めての喧嘩は、痛かったし、怖かったけど、僕は少しだけ、嬉しくもあった。

 拳を通じて、心と心で会話をしたような感覚。深い所で、分かりあう事が出来たような、不思議な感覚。

 きっと、女の子には分からないのだろう。

 そう思った時に、自然と笑みが零れて来てしまい、里美に、どうしたの? と怪しまれてしまった。

 何でも無いよと返しながら、雅人の方を振り向いた。

 僕が舟に乗らずに、両親の元へ帰ると言う事。

 それは雅人が、父さんや母さんと離れ離れになってしまうと言う事。

 きっと、寂しくて寂しくて堪らないはずなのに、相変わらず雅人は、昨夜も、僕の心配ばかりしてしまっている……。

 ふと頭に、柔らかな感触を感じた。

 振り返ると、里美が僕の頭に手を乗せてくれていた。

「叶人君、気持ちは分かるけど、元気出しなよ。とりあえず笑っておくってのも、大事な事なんだよ?」

 そう言って、里美は僕の頭をくしゃくしゃと撫でた後に、元気よくニコッと笑った。

「うん、ありがとう、里美」

 里美に素直に礼を返しながら、彼女に倣うように、僕も笑って見せた。

 とりあえず、笑っておく。

 彼女の言葉を深い所で繰り返すと、心の奥底に沁み渡って行くのを感じた。

 何だか、とてもいい事を聞いた。そんな気がした。

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