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双子星  作者: 泣村健汰
15/28

☆9月2日★ その5


『はーい! よいこのみんなぁ! こ~んに~ちは~!!』

 ステージの上にいる元気のいいお姉さんが、マイク越しに会場に向かって挨拶を投げかけた。その声に呼応するように、あちらこちらからある程度揃った子供達の挨拶が響いてくる。

 僕達よりも幼い幼稚園生位の子供達と、僕達と同年代の子供達。それに幼稚園生のお父さんお母さん達と、時たまいるお兄さん達で会場はしめられていた。

 僕達は最前列の、ステージ正面の少し右側の位置と言う絶好の場所を陣取っていた。

 ジェットコースターの列が少なかった為、ショー開始の30分前から並べた事が大きい。

 後ろを見ると、席は8割方が埋まっており、充分大盛況と言えるだろう。

『はぁっはぁっはぁ~』

 後ろのスピーカーから、低音のBGMと共に、怪人の笑い声が聞こえた。それと同時に、ステージの上にトカゲの怪人が、数人の戦闘員を引き連れて登場した。

『きゃー!! 怪人よー!!』

 お姉さんの悲鳴が会場中に轟く。

『はぁっはぁっはぁ~。今日は随分と、沢山のお客さんがいるなぁ~。この子供達を攫って怪人を作れば、我々の世界征服は随分楽になると言うものだぁ。やれぇ! 戦闘員共ぉ!!』

 怪人の掛け声に合わせて、黒づくめの戦闘員達が客席に降りて来た。

 辺りでは、小さい子達の恐怖に怯えた声も、ちらほらと聞こえてくる。

 何人かの子供達が、戦闘員に手を引かれてステージ上へ連れて行かれる。

『ムヒ~!』

 気がつけば、戦闘員が二人、僕達のすぐ傍まで来ていた。

 ……え?

 その内の一人が、僕の手を痛く無い程度に、しっかりと掴んだ。僕は成されるがまま、戦闘員に連れられてステージ上に上げられた。

『怪人達め~! 何て事をするの~!!』

 ステージに上げられただけで、まだ何もされていない僕達を見ながら、お姉さんが叫ぶ。

 客席からは、それに同意するような子供達の声が、トカゲの怪人に向かって飛んでいた。

『こうなったら、あの人達を呼ぶしかないわね。みんなも一緒に呼んでね。せぇーのぉ!!』

 お姉さんの号令を合図に、会場が一つになる。

『助けてー!! ジャグレンジャー!!!』

 雅人達の方を見ると、雅人も里美も力の限り叫んでいた。そして二人共、いいなぁと言う目をこちらに向けている。由香里を見ると、二人程世界に入っていけないのか、若干複雑な顔をしていた。

『待てぇ!!』

 その時、爽やかな掛け声が、会場に響き渡った。

『だ、だ、だ、誰だぁ~!』

 怪人がそう叫ぶが、誰が来るかは分かり切っている。

 そこで軽快なBGMが流れ、色違いの戦闘員のようなスーツに身を包んだ5人が、颯爽とステージ上へ躍り出た。

『卑怯な真似しやかって~! てめぇら、絶対に許さねぇ~!!』

 レッドが大袈裟なジェスチャーと威勢のいい掛け声で、怪人達に喧嘩を売る。

『これでもう大丈夫、みんなの声が届いて、ジャグレンジャーが来てくれたわぁ!』

 お姉さんが歓喜の声を上げる。

 主役達の登場に、会場が一気にヒートアップする。

『怪人、貴様達の悪だくみもここまでだ!』

『早く子供達を離せってんだ!』

『お前らクールじゃないんだよ!』

『子供達が可愛そうだとは思わないの!』

 他の隊員が、次々に怪人に詰め寄って口撃を仕掛ける。

 僕は雅人程ジャグレンジャーを熱心に見ている訳では無いので、全部スピーカーから聞こえてくる声は、誰が誰だかさっぱり分からない。

 その時、ブラックー! と言う聞き慣れた声が聞こえて来た。

 雅人の方を見つめる。そこでふと、雅人の持っているボールは黒で、この間の放送もブラックが出た時に興奮していた事を今更ながら思い出した。

『うぬぬぬ、こしゃくなぁ! 蹴散らしてくれるわぁ! おい!』

 怪人の一声で、戦闘員達はあっさり僕達を舞台袖に解放し、ジャグレンジャー達に襲いかかって行った。

 戦闘員の代わりに、僕達の所にトカゲの怪人がやってくる。

 戦闘員とジャグレンジャーは、お互いに追いかけたり追いかけられたりしながら、舞台上からいなくなった。そしてステージの上には、イエローと、一人の戦闘員だけが残される。

『へっへっへ~、俺っちのデビルスティックを舐めるなよ~』

 そう言ってイエローは、ベルトの横に固定していた3本の棒を取り出した。それを片手に1本ずつ持ち、もう1本を左右の棒で交互に叩き始めた。すると真ん中の棒が、まるで空中で遊ぶように浮き上がった。

 その行為を繰り返しつつ、敵の迫りくる攻撃をかわす。そして隙を見て、その真ん中の棒を敵の頭に向けて飛ばしたのだ。飛ばすと同時に、イエローは敵へ向かって駆け寄り、飛ばした棒が戦闘員の頭に当たるのと同時に、手に持っていた2本の棒を、相手の首の両側に打ち付けた。

 ムヒ~、と断末魔の声を漏らしながら、戦闘員はその場に崩れ落ちる。

 敵の額に当たった後、上空へと飛んで行った棒を、イエローは再びスティックでキャッチをした。

 会場から拍手と歓声が巻き起こった。

 子供だけでなく、大人からも感嘆の声が漏れるのが聞こえてくる。

 だが倒れて幾許もしない内に、戦闘員はムヒっと立ち上がり、そのまま一目散に逃げて行った。

『待ちやがれぇ!』

 イエローはそれを追いかけ、ステージ上から退場する。そしてそれと入れ違いに、今度はブルーとピンク、それと戦闘員が二人現れた。

『覚悟しなさい!』

『クールに行こうぜ!』

 ピンクとブルーがそう凄み、戦闘員達が一歩引く。

 その姿を見かねたのか、僕達のすぐ横にいたトカゲの怪人が声を荒げた。

『むむむ、怯むなぁ! 行けぇ!!』

 その声を合図に、戦闘員は二人へと向かって行った。

 ピンクはそれをひらりとかわし、ブルーは隣を駆け抜けていった怪人を追いかけ、一度ステージを降りた。

 ステージに残ったピンクは腰から、両側にバトンのついた紐のようなものを手に取った。そして袖から投げられた、独楽を二つ繋げたような物を受け取り、それを紐の真ん中に乗せる。

『私のディアボロは無敵よ! どこからでもかかってらっしゃい!!』

 ピンクは手にしていたバトンを、左右交互に上下運動を始めた。すると、紐の真ん中に乗せていた独楽が、くるくると勢いよく、紐の中心で回り始めたのだ。

 ピンクは襲って来る敵をひらりとかわし、振り向き様にその独楽を敵に向けて飛ばした。

 独楽は戦闘員に直撃、敵はムヒっと崩れ落ち、ぶつかった独楽は真っ直ぐピンクの元へと戻って行った。それを再び紐でキャッチしたピンクは、その独楽を一度上空へ放りあげると、くるり一回転してから手でキャッチした。

『これで、懲りたかしら?』

 決め台詞の後、会場から再び歓声が聞こえた。

 若干お兄さんの歓声が多いように聞こえたのは、僕の気の所為だろうか?

 その直後、袖から戦闘員が一人飛び出して来て、倒れている戦闘員の肩を叩いた。

 倒れた戦闘員は起き上がると、ピンクの横を走り去って行った。

 それをピンクが追いかけていき、ステージ上に一人残された戦闘員は、額の汗を拭う動作をする。

『追いついたぜぇ!』

 威勢のいい声と共に、3つの箱を持ったブルーが飛び出してきた。

 ブルーの姿を見て、戦闘員が距離を取る。

 ブルーは戦闘員に見せびらかすように、3つの箱を使って次々と技を繰り出していた。左右の手に一つずつ箱を持ち、真ん中の箱をその二つで挟む。左手を真ん中の箱に移し、それを左に動かして左手で持っていた箱を落とさないように箱で挟む。右でも同じ事をし、それを2回ずつした所で、真ん中の箱と左手に持っていた箱を空中に放り投げた。空中を遊ぶ箱は、右手で持っていた箱の上に重なり、着地する。

 そこでブルーは、空いた左手で、戦闘員を手招きした。

 挑発されて怒った戦闘員は、そこで漸くブルーに襲いかかって行った。

 ブルーは右手に乗せた箱を落とさないように、さらりと攻撃をかわし、更にそのまま戦闘員に向けて一発キックをお見舞いした。

 よろける戦闘員の隙をつき、ブルーは持っていた箱の一つを上空へと放り投げる。そして手元に残った二つの箱を両手に持ち、戦闘員の頭部を挟んだ。そこへ計算されたように、先程上空に投げた箱が落ちて来る。

 とどめの一撃を食らった戦闘員はその場に崩れ落ち、そしてブルーは、敵に止めをさした箱を、左右の箱で抱きしめるようにキャッチした。

『クール!!!』

 ブルーの雄叫びに対し、言葉とは裏腹に会場はより一層熱を帯びて行った。

 間近で見る技は、どれもこれも凄くて、僕は感動していた。

 こんな事なら、僕も毎週しっかり見ておけばよかった。

 そうしてやられた戦闘員は、袖から見ていたトカゲ男の一撃でさっさと復活して、ブルーの横を通り過ぎて舞台から退場した。

 それを追いかけて行ったブルーと入れ違いで、新たな戦闘員と共に、今度はブラックがステージ上に現れた。

 威嚇するように、ボール5つでお手玉をしながら、ゆっくりと戦闘員に向かっていく。

『どうした? かかって来いよ』

 強気に戦闘員を追いつめるブラック。

 雅人がいつも家で練習をしているが、ブラックのボールはそれよりももっと綺麗な放物線を描いていた。

 少ししてから、痺れを切らしたように戦闘員がブラックに襲いかかって行った。それをひらりとかわし、すぐさまボールを投げつける。次々にボールは戦闘員に飛んで行くが、ブラックの手元からはボールが無くならない。

 それもその筈、ブラックの手から放たれて戦闘員にぶつかったボールは、ワンバウンドでブラックの手元に戻ってきているのだ。戦闘員とブラックの間に渡された半月状の橋に、客席から拍手が響く。

 戦闘員はブラックの攻撃を両腕で受け止めながら、ジリジリとブラックの元へと近づいて行った。ある程度距離を詰めた所で、戦闘員は再びブラックに襲いかかる。

 一度ボールを全て手元に集めたブラックは、襲って来た戦闘員に対してその身を翻し、手にしていたボールを全て袖に投げた。すると袖から、今度はバレーボール程の大きさをした黒いボールが飛んでくる。そのボールをブラックは、先程と同じようにお手玉を始め、大きさなど意に介さずに、同じように戦闘員にぶつけ始めた。

 先程よりもダメージの大きい戦闘員は、ボールが5発当たった所で、遂に崩れ落ちた。

「うおおお、ブラックー!!」

 雅人の声が、ここまでしっかりと聞こえて来た。

『そこまでだぁ!!』

 スピーカーから声が聞こえた後、僕達の後ろを陣取っていた怪人が動き出した。

 次の瞬間、先程の戦闘員が復活して、逃げ出して行く。

 ブラックが怪人と戦闘員の間で迷っていると、袖からレッドが飛び出してきた。

『ブラック! ここは俺に任せろ!!』

 レッドの叫びにブラックは頷き、逃げた戦闘員を追いかけていく。

 ブラックが走って行ったのを確認して、レッドは怪人に向き直り、腰に差していた三本の棍棒のような物を手に取った。

『トカゲ野郎! 俺様のクラブの錆びにしてやるぜ!』

 レッドは自身でクラブと呼んだそれを、先程のブラックのボールのように、回転させながらお手玉を始めた。その最中に、一本を怪人へと投げつける。

 こう言っては失礼かもしれないが、今までの中で一番武器らしい武器と言えるのではないか?

 怪人は飛んできたクラブをガシッと受け止めて、レッドに投げ返した。

『こんなものぉ、効かぬわぁ!!』

 返ってきたクラブを受け止め、レッドは再びお手玉をする。

『これならどうだーーー!!!』

 レッドはそう叫ぶと、右手で持った1本のクラブの上に、他の2本を乗せ、そのままバランスを取り始めた。

 ここからどう変化するのかは全く分からないが、それ自体凄い技だと感じた。

 だがトカゲの怪人は容赦なく、レッドが技を繰り出す前に襲いかかり、その攻撃を封じた。怪人は、非情さにおいても戦闘員より上なのかもしれない。

 そのままレッドは怪人に武器を奪われ、攻撃に転じられなくなっている。

『くそぅ! 卑怯な奴だ!!』

『はぁっはぁっはぁっ! 勝てばいいんだよぉ!』

『きゃあ、大変よ! このままだと、レッドがやられちゃうわぁ!!』

 突然お姉さんがステージに再び現れ、会場に悲痛な叫びを投げかけた。

『みんな、レッドを、頑張れーって、応援しよう。せぇーっのぉ!!』

「頑張れ―!!!」

 お姉さんの力で、再び会場が一つになる。

『ありがとう!!』

 みんなの応援によって、レッドは力を取り戻したようだ。

 レッドは怪人の隙をついて、クラブを取り返した。

『よっしゃぁ! 俺は負けねぇ!!』

 レッドの勝利宣言の直後、他の仲間達がステージ上へ集合した。

『みんなぁ! よっしゃぁ、これで怖いもの無しだぜ!! 覚悟しろ、トカゲ怪人!!』

 ジャグレンジャーは、それぞれの武器を手に、怪人に向かって同時に襲いかかって行った。怪人は哀れ、イエローの棒に殴られ、ピンクの独楽を食らい、ブルーに箱でぶたれ、ブラックにボールを投げつけられ、レッドの棍棒に止めをさされてしまった。

『ぐおうおうおうおうおうううおうお……!!!!』

 低い叫び声を喚き散らしながら、怪人は袖へと引っ込んで行く。怪人が退場した直後、会場中にドゴーンと言う爆発音が響き渡った。

 僕達人質組は、ジャグレンジャーがメインテーマと共に勝利ポーズを決めた後、彼らに連れられて舞台中央へと連れて行かれ、お姉さんの呼びかけで観客から何故か拍手を貰った。

 雅人と里美は、依然としてワクワク顔のままだったが、隣に居た由香里も二人と同じように目を輝かせていたのには驚いた。

 僕もみんなと同じように、観客席でこのショーを見ていたら、興奮して同じような顔をしたのだろうか?

 そう考えると、少しだけ勿体無いような気がした……。

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