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双子星  作者: 泣村健汰
12/28

☆9月2日★ その2


 朝食を終えて、着替えと用意を済ませ、僕達は母さんからお弁当を受け取った。

「おにぎりと、おかずを少し多めに入れておいたから、みんなで食べてね」

 そのお弁当は雅人が受け取って、僕は母さんから二人分のおこずかいを預かった。

「気を付けてね。楽しんでらっしゃい、でも、あんまり遅くなっちゃ駄目よ」

 母さんはそう言って僕達を抱きしめてから、笑顔で見送ってくれた。

「いってきま~す!」

「いってきます」

 僕と雅人はほぼ同時にそう告げて、ドアを潜ってバス停を目指した。

 腕時計の針は8時20分をさしている。ここからバス停までの距離を考えれば、丁度いい時間だろう。

 僕は前を歩く雅人の背中を見ながら、さっきの母さんの様子を思い出していた。

 にこにこと笑って、とっても明るくしていたけれど、その目元は腫れぼったくて、瞳は随分赤かった。

 どうしてそんな目をしていたのかは、何となく想像がつく。だけど、それでも母さんは僕達の前ではいつもにこにこと笑っている。

 だからもしかしたら、そんな僕の考えは、間違いなのかもしれない。

「お、叶人、里美達もういるぞ」

 雅人が振り返り、僕にそう告げた。

 次の瞬間にはバス停に向かって走って行くその背中を、懸命に追いかける。

「う~っす」

「おはよう、二人共」

 返事がすぐに返ってくる。

「おはよ、晴れてよかったわね」

「おはよう」

「二人共、何だか今日は雰囲気が違うなぁ。特に里美は、誰かと思ったよ」

「へっへ~、そうでしょう? 可愛くなってて驚いた?」

 雅人の軽口にふくれっ面が返ってくる事は無く、里美は嬉しそうにそう呟いた後に、くるりとその場で回って見せた。

 ズボン姿を見慣れている里美が、今日はオレンジ色のワンピースを着ていた。スカートの裾は、膝よりも少し上、形のいい膝小僧にキャラ物のばんそうこうが貼られているのが、里美らしいと感じた。

 くるりと回った事によって、内側に咲いたレースが太陽の光にキラリと映える。ポニーテールはいつもと変わらないが、それを束ねるのは普段の味気無いヘアゴムでは無く、山吹色の大きめのリボンが、尻尾の付け根に花を咲かせていた。

 ショルダーバッグには赤いポーチ、成程、よく似合っている。

「叶人君はどう? 変じゃないかな?」

「うん、よく似合ってる、可愛いと思うよ」

 思ったままを素直に口に出すと、里美は照れたようにへへへと笑った。

「由香里と色違いのお揃いなの。こないだ、買いに行ったんだよね~」

 里美が由香里の後ろに回り込んで、肩を抱きながら言った。

 由香里も里美と同じワンピース。

 ただ、里美がオレンジ色なのに対し、由香里は女の子らしいピンク色だった。裾の丈は里美と同じ、胸元には蝶のブローチが手弱かに羽を休めている。

 普段は二つに縛られている髪は、今日はそのまま顔の横に揺れていた。緩くウェーブのかかった髪は、時折風に梳かれながら軽く揺れ、肩からは白いトートバッグを下げていた。

「まぁ、同じもの着てるなら、由香里の方が断然似合ってるけどな」

 照れ隠しなのか、雅人が里美にそう笑いかけると、途端に由香里の頬が赤く染まった。

「あ、ありがとう」

 照れくさそうに俯きながら、そう呟く由香里は、とても可愛らしかった。

 そうだよ、今日は折角みんなでお出かけなんだから、暗い事を考えてたら損じゃないか。

 それに、僕がそんな事を考えていたら、みんなだって変に気を遣って楽しめないかもしれないじゃないか。

 そう自分に問いかけ、今日と言う時間をみんなで目一杯楽しもうと、心の中でそっと誓いを立てた。

 そんなやりとりをしている最中に、のんびりした様子でバスが到着した。

 いそいそと乗り込み、一番後ろの長椅子を四人で占領する。

 時計を見ると8時35分。

 車内に人影は無く、僕達は貸し切りとなっていたバスの中で、あれに乗ろうこれに乗ろうと、目的地への思いを膨らませていった。

 

 バスに揺られて20分。そこから電車に乗り換えて15分。電車を降りて駅から徒歩で10分。

 ようやく僕達は目的地に辿り着いた。

「うっわ、今日は人が多いなぁ」

 雅人が興奮したような呆れたような声を出す。

 遊園地の入り口は、ごった返していると言う程ではないが、充分賑わいを見せていた。以前来た時には、それこそ閑古鳥の鳴き声が聞こえて来そうな程だったので、それと比べれば大賑わいだろう。

 辺りの家族連れは、僕達位の子共達もいれば、もっと小さい子共達も沢山いた。

 入り口で一日フリーパスの券を買い、列に並び順に園内へと入って行く。

 先程よりも太陽の位置は高く、見上げた空の色は自然と気分を高揚させてくれる。

「何から乗る?」

「ジェットコースター!」

「メリーゴーラウンド!」

 僕の問いかけに、雅人と里美から同時に言葉が返ってくる。

 お互いに一瞬睨みあった後、二人は息の合ったように、同時に後ろに手を回した。

「せぇ~の! じゃ~んけ~ん」

 ポン、と言う掛け声と共に、雅人は拳を、里美は掌を差しだした。

「はい決まり! まずはメリーゴーラウンドね~」

 嬉しそうにはしゃぐ里美を尻目に、雅人は不貞腐れたように自身の握り拳を見つめていた。


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