表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
双子星  作者: 泣村健汰
13/28

☆9月2日★ その3


 メリーゴーラウンドは比較的空いていた。

 幼い子共達を連れた家族に紛れて列に並ぶ。10分程した所で、早々に順番が回ってきた。

「うっし、じゃあ覚悟決めて乗るか!」

「そんな危ないもんじゃないでしょう」

 雅人の意気込みに、里美から当然のツッコミが入る。

 各々好きな馬を選んでいる時に、雅人は、里美に似ているから、と言う理由で黒い馬に決めた。

「どういう事? 酷くない?」

 里美の抗議の声が、ジリリリリと言うけたたましい開始ベルにかき消される。

 僕も慌てて、雅人の後ろの白い馬へと跨った。

 回転木馬はゆっくりと動き始め、徐々にスピードを上げていく。

 周りの景色が動き、徐々にグラデーションとなって溶けていく。

「雅人君達~、こっち向いて~」

 由香里の声に従い、彼女を見るべく後ろを振り向くと、カメラのファインダーが僕達を捉えていた。

「は~い、チーズ」

 いつに無く浮かれた由香里の声が、僕の手に慣れないピースサインを作らせる。

 シャッターが切られた直後、運転中は座っていて下さい、と言うアナウンスが響いた。途端に後ろから、ハーイと言う声が聞こえる。

 目線を前に戻すと、どうやら僕の前に座っていた雅人は、由香里の写真に写る為に馬の上に立ちあがっていたようだ。

 スタッフの人には悪いが、現像された写真が楽しみだ。


「じゃあ、次はジェットコースターだな」

「いいわよ、じゃんじゃん行きましょう!」

 メリーゴーラウンドを満喫して気分がいいのか、里美はそのままグングン一人で行ってしまった。

 追いかけるようにして走ると、ジェットコースターの乗り場にはすぐに到着した。

 入り口で身長を計られる。

 115センチに満たなければ乗ることは出来なかったが、幸い全員が突破した。

 だけど、列に並ぶ由香里の顔は若干曇っている。

「由香里、ジェットコースター苦手なの?」

 小声で尋ねる。

「初めて乗るから、良くわからないんだけど、あんまり得意じゃない気がする」

 そう小声で返してきた由香里は、上空から聞こえて来た悲鳴に対して身震いをした。

 気持ちは分かる。

 僕も前に一度、小さいのに乗った事はあるのだけど、あまり得意とは言えない。

 里美と雅人は嬉々としてレールの上を走るコースターを見つめていた。その目のキラキラを見れば、由香里も乗るのを止めようとは言いだせないだろう。

 幸か不幸か、僕達はコースターの1番前と2番目に座らされた。

 深く腰掛け、安全バーを下ろす。

 僕の隣には、由香里が座っていた。若干青い顔をしている。

「由香里、大丈夫?」

 そう声を掛けると、由香里は僕の手をぎゅっと握ってきた。その手はじっとりと汗ばみ、微かに震えている。

 少ししてから、コースターがゆっくりと動き出し、徐々にレールの上を登って行く。

 空が近くなるにつれて、視界はクリアになっていく。

 ふと横を見ると、小さくなった街並みと、太陽に照らされた海がキラキラと輝いて、とても綺麗だった。

 反対側には、深呼吸をしている由香里の姿。余裕の無いその姿を可愛いと思ってしまうのは、彼女に悪いだろうか?

「来た来た来た来た」

 前方で、雅人が嬉しそうに声を出した。

 目の前にあった白いレールが、姿を消し去る。

 本当に少しだけ、僕の膝も笑い始めた。だけど、怯えている由香里の横でそれを露わにすることはしない。

 僕だって、一応男だ。

 次の瞬間、猛スピードでコースターはレールを落下し出した。

 襲ってくる暴力的な風圧とスピードとが、僕の頭から思考を吹き飛ばしていく。

「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!」

 隣から、由香里の断末魔とも思える叫び声が聞こえて来た。

 ああ、由香里、こんな声出せるんだな……。

 不謹慎にも、そんな事を思ってしまった。


「すっごいよかったね! 後でもう一回乗らない?」

「ええ?」

 乗り終わった後に、恍惚とした表情でそう呟いた由香里に、僕は心底驚いた。

「由香里、怖がってなかった?」

「うん、すっごい怖かった」

 嬉しそうにそう言って来る由香里の瞳が、キラキラと僕を見つめる。

「とりあえず、今日は一通り制覇したいから、後で時間があったらでいい?」

 里美の提案に、由香里は肯く。

 僕はそこで、こっそりと里美に耳打ちをした。

「由香里、乗る前はすっごい怖がってたのに……」

「ああ、そう言うもんだよ。私も最初はすっごいビビっちゃったけど、一回乗ったらはまっちゃってさ」

「どうして?」

「怖いのがいいのよ。女ってそういうもんだよ」

 里美がクスクス笑いながら、意味ありげに呟く。

 いつもはあっけらかんと笑う事の方が多い里美が、そんな風にクスクスと笑う姿を見て、改めて由香里の双子なんだと実感する。

 その後僕達は里美を先頭にして、沢山のアトラクションを回って行った。

 コーヒーカップ、フリーフォール、大迷路、ミラーハウス、バイキング、お化け屋敷、ゴーカート……。

 里美は今日一日で全部のアトラクションを巡る気らしく、雅人でさえ彼女に引っ張られる形になりながら、とにかく目についたアトラクションに片っぱしから乗りまくった。

 テンションの高い里美と、元気一杯な雅人、いつになく大はしゃぎな由香里を眺めながら、ふと思ってしまった。

 こうやって楽しく遊ぶのも、今日で最後だからな……。

 思い返し、自分の頭をコツンと叩く。

 今日はそういう事を考えずに、精一杯楽しむと決めたはずだ。

 だけど、どれだけ振り払ったとしても、ふとした思考の隙間に、闇が忍びこんでくる。

 頬を両手で叩く。

 否定的な思考と言うのは、どうしてこうも連帯感が強いのだろう。一つ浮かび上がってくると、まるでホラー映画のゾンビのように、次から次へと押し寄せてくる。

「おぉい叶人! こっちこっち!」

 いつの間にか距離が開いてしまっていた雅人が、遠くから僕を呼んだ。

 暗い考えを置き去りにして、皆の元へ駆け寄る。

 行きついた先は、奇妙な造形の建物の前。

 例えて言うなら、そう、まるで失敗したお菓子ばかりを集めて作った家のようだ。

「これ何だ?」

 雅人が家を見渡しながら、不思議そうな声を出す。

 僕は建物の横に立っていた看板を読み上げた。

「マジックハウス、だってさ」

「マジックハウス、ってどんなのだったっけ?」

 僕の声に里美が反応する。

「あの、部屋が回る家の事じゃないかな?」

 由香里の発言に、里美と雅人が同時に、あぁ、と声を出した。

「これも入るの?」

「勿論、じゃ、どんどん行きましょう」

 里美がずんずんと中に進んで行くのを、皆で追いかける。

 そう、マジックハウスだからって、悪い魔法使いがいるわけじゃないんだから……。

 不意にそんな事を思った自分自身に、ふと笑いが込み上げて来た。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ