第六十九話 魔導ステッキの威力
砦の前。
ミナギさんが魔導ステッキを構え、その先端をゆっくりと円を描くように動かした。
「さて……どう仕掛けるか」
彼女は砦をじっくりと観察しながら、騎士たちの動線や守りの配置を確認している。俺は隣でゴクリと唾を飲み込んだ。
「ミナギさん、どうする?」
「騎士たちが混乱し、一斉に外へ飛び出すように仕向けます。幻惑魔法を使い……そうですね、これでいきましょう」
ミナギさんが静かに頷くと、魔導ステッキを高く掲げた。
その瞬間、砦の中に淡い紫色の魔法陣が広がり、空気が不穏に揺らぎ始める。
「いきますよ」
呪文が紡がれると、砦の内部から突如として凄まじい叫び声が響き渡った。
「な、なんだ!?」
「蛇だ! 巨大な蛇が中に……!」
砦の中から次々と騎士たちが飛び出してくる。その顔は恐怖に歪んでいた。
「くそっ、どこから湧いてきたんだ!?」
「誰か、火を! 火で追い払え!」
何もいない空間に向かって必死に剣を振るう騎士、壁を背にしながら呆然と震える騎士、混乱する彼らの姿を見て、俺は思わず喉を鳴らした。
「これが……幻惑魔法か……」
ミナギさんは冷静な表情を保ちつつも、わずかに微笑んだ。
「恐怖を感じた者は理性を失い、逃げ出すものです。効果は抜群ですね」
「すごい……まるで本当に蛇がいるみたいに見えるな」
俺はミナギさんの魔法に驚きながら、慎重に様子を伺う。
「さて、あとはお任せしますわ」
ミナギさんが微笑んだ途端、いつのまにか追いついてきていたゴーレムが前進を開始。
「ゴゴゴゴ……」という重たいうなり声が鳴り響き、騎士たちのいる砦へ突っ込んでいく。
騎士たちはすでに蛇の幻影でテンパってるから、そのうえゴーレムみたいな巨大石像が動くとか、そりゃパニック爆発だ。
「な、なんだこいつは!?」
「ひ、ひぃぃっ……!」
ゴーレムがズシンズシンと歩くたびに、騎士たちはどんどん怯えて後ずさる。
騎士の一人が「バカな……これが動くなんて……!」と呟き、まるで世界が終わったような顔してる。
ゴーレムのモノアイが一瞬赤く光ると、“デストロイモード”の衝撃力が発動――
「ドガァン!!」
拳が地面に叩きつけられ、爆風が巻き起こる。
その勢いで何人かの騎士が吹き飛んで地面を転がり、「うわああああ!」という悲鳴があちこちから聞こえる。
あっという間に砦の門前は阿鼻叫喚……というか、一方的な蹂躙だけど。
「すげえ……」
俺は呆然としながら、この圧倒的な光景を見つめる。
ウルフが「ガウガウ!」とスキップするかのように跳びはね、ミナギさんは「あらあら、やはり“赤バッテリー”は凄まじい」と腕を組んで頷く。
こうして騎士たちを完全に追い払い、森には再び静寂が戻ってきた。
もう夜も明けて、眩しい朝の光が木々の間から差し込んでいる。
「ふう……これで、森の平和は守られたな」
俺は思い切り伸びをしながら、ウルフの頭をぐりぐり撫でる。
ウルフが「ガウ!」と大喜びで尻尾を振る。
ゴーレムは静かに立っていて、モノアイの光もいつもの青色に戻っている。
どうやら戦闘モードはオフなのね。
「よし! じゃあこれから、あらためて30億円の借金を返すべく、頑張るか!」
スローライフを楽しみながらな! ログハウスは燃えちゃったけど、そのうちまた建てればいいさ……なんて考えていたその瞬間、
「ソータさん! 大変です!」
ミナギさんが息を切らしながら駆け寄ってきた。ウルフが「ガウ?」と不思議そうに首をかしげる。
「どうした?」
「ついに……地下世界の扉が開きました!」
「おお……地下世界!」
俺は胸が高鳴る。
地下世界って、あの研究所の資料にも載ってたやつだ。
古代文明の遺産やらレアなアイテムがわんさか眠ってるかも。
もし見つかればショップ機能で換金して、借金返済が一気に進むかもしれない……!
「ぜひ、一緒に行きましょう!」
「おう、もちろん! ワクワクすんな……!」
ウルフも「ガウガウ!」と尻尾を全力で振り、ゴーレムが静かにズシンと足を動かして一歩前へ。
やる気満々……なのか? モノアイが青に戻ってるけど、まあ大丈夫か。
こうして新たな冒険の幕が開く。
騎士を退けて一息ついたばかりなのに、またドタバタかよ……でもスローライフなんて、そんなもんだよな。
やること無限大。
俺は借金返済というゴールを胸に、ミナギさんやウルフ、そしてゴーレムと共に、地下世界へ向けて動き出したのだった――!
第一部完。




