ネオンテトラとミレニアム 21
3-21
-2000年7月-
家の引き渡しが完了した。
書類周りの面倒なことは、長谷川さんに丸投げした。
すごく嫌そうな顔をしていた。
念の為、お祓いもしたし、簡単な地質調査もした。
特に問題なかった。
「おお!」
「でかっ!」
「すごっ!」
今日は土曜なので、有志による見学会を開いた。
青木さん夫妻、【ブラックエンゼル】のメンバー、悠華さんとかメグとかマキとか、色々な人が来た。
もちろん妙子も居る。
「腕が鳴るわね」
ステファニーさんだ。
引き続き、家の管理はステファニーさんにお任せするつもりだが、広大な庭とかもあるので、さすがに一人では難しく、親戚の子にも手伝わせるって話だ。
中に入ると、当然だが、がらんとしていて、前の家主から引き継いだソファやテーブル、カーテンなんかがあるだけだ。
「うおお!庭!」
皿橋が庭へ駆け出す。
転ぶなよ。
「ま、適当に見てくれ。
あとこれ、心ばかりのもてなしだ」
一応、テーブルにケータリングの軽食を用意した。
本当に何もないのでね。
「おお!キャビアじゃの!
アメリカ以来じゃ!」
クラッカーに載せたオードブル的なやつだな。
◯ッツパーティ的な。
「あ、【シリコンズ ゴールド】のコーヒー!」
「オシャレ〜!アガる〜!」
真鍋と宮下だ。
【シリコンズ ゴールド】のコーヒーと共に、テイクアウトメニューも特別に宅配してもらった。
妙子のコネだ。
黒地に金文字があしらわれた容器は、とても高級感がある。
ここまでセレブに振り切ったコーヒーショップは、日本にはほぼ無いので、富裕層にウケて意外と続いてるらしい。
大元のシリコンバレーは、バブルが下り坂でかなりヤバい状況だけど。
メグと悠華さんとか、普段顔を合わせないメンツも集まっているので、結構楽しそうにしている。
青木さんは少しお腹がでてきたかな?
10月に出産予定らしい。
約1時間の見学会は、盛況の内に終わった。
マキ、メグ、悠華さんが盛り上がって、出陣じゃ〜、とか言って何人か引き連れて三茶に飲みに駆り出して行った。
あいつら、気が合うらしいね。
「ジュンヤ、良いお家だね。
きっと楽しい生活が送れるよ」
後片付けで、ステファニーさんには、残ってもらった。
「ありがとう。
また引越しで手を借りることになるけど、すまないね」
「なに、長い付き合いだよ。
気にしないで」
「ステファニーさん、ありがとうございます」
妙子とステファニーさんは、そこそこうまく付き合ってるようだ。何となく、少しだけステファニーさんは、有希の方が気が合うっぽい雰囲気なんだけどね。
有希のコミニュケーションにおけるバランス感覚は、今思い出しても素晴らしい。この辺が、生粋の帝王学を学んでいる有希の強みなんだろうなぁ。
まぁ、敏腕社長になるわけだし、当然か。
「お世話になってまーす!大海崎工務店でーっす!」
「猪鹿蝶不動産でございます!」
次の客人が来たようだ。
「どうも、改めまして、社長をしております、大海崎 亮太です!」
「先日はどうも。岸谷です」
「妻の妙子です」
妻のって、おいおい、気持ち良い響きだな!
「どうもどうも、奥様でしたか!」
「家のことを任されております、ステファニーです」
「ども!」
これもあって、ステファニーさんには残ってもらったのだ。
俺が変なリフォームかまさないよう、念の為。
大海崎社長とは、先日、中塚さんに繋いでもらって、挨拶だけしてある。
一介の建設作業員から始まって、ゴリゴリの現場監督まで叩き上げ、独立した生粋の職人さんだ。
質の悪い染色で傷んだ茶髪と、南米系を思わせる甘いマスクが特徴。今の歳は35歳くらいかな?
【大海崎工務店】は創業5、6年くらいで、今はまだリフォームをメインにやっているようだ。
「せっかくご指名頂いたんで、張り切ってやらせて頂きますよ!で、ご要望は?」
「早速だが、こっちだ」
見積もりをしてもらわなければならない。
リフォームにしろ建築にしろ、見積もりで吹っかけてくる業者の何と多い事。前世で嫌というほど味わったものだ。
後から法外な追加費用を要求してくる場合もある。
俺がわざわざ、大海崎さんをご指名しなければならない理由でもある。
まあ、ある程度の余裕を持っておかないと、何があるかわからない、というのは理解できるんだけどね。
30年後の未来を知っている俺としては、水回りは絶対に妥協できない。
「トイレは最新の温水便座洗浄機能を付けてくれ。
二階のも一緒に。本体ごと交換してもらっても構わない」
「風呂は自動乾燥機能をつけてくれ」
「インターホンと玄関、庭に、防犯カメラを付けてくれ。
管理の面倒じゃない形で」
「あ、暖炉は一応チェックを頼む」
一通り要件を伝えて、あとはステファニーさんと妙子に任せた。何でも要望していい、と言ってある。
サッシや窓の結露とかを気にしてるみたいだ。
あと、洗濯物の干し易さとか靴箱の使い易さとか色々。
「諸々承知しました!
見積もりは中塚さんにお送りしますね!
ざっと、400万くらいっすかね」
「わかった。宜しく頼む」
ドアの建て付けとか、キッチン周りも入念にチェックしてたようだし、お任せで良いだろう。
「3ヶ月後には終わってるかな?」
「楽しみね!ウフフ!」




