ネオンテトラと漆黒の女王 41
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-1998年6月-
「海原 籐子です」
儚げな雰囲気、平安顔のスレンダーな女子が、みんなの前でペコリと頭を下げる。
高校の二つ後輩の海原である。22歳。
根が優しくて、大人しい子だ。
美術系の短大を卒業後、広告系のデザイン事務所にいたが、経営が傾いて職を失ったようだ。
前世で海原の人生が狂うのは、この後だと思う。
ろくでもない男に捕まって、10年以上の人生を棒に振ることになる。
今回は、俺が高校時代に声をかけておいたのを思い出したようで、連絡して来た。
良かった。
「小島悠華じゃ。社長をしておる。よろしく頼む」
海原はデザインのイロハを学んでいるし、職歴もあるので、【バタフライアクセス】のウィークポイントである、デザイン部分を担当してもらう。
ウェブデザインは、この先の時代の花形だ。
河内とは、この先のビジネスについて、根回しをしている。
約半年後、1999年1月に、画期的な携帯電話向けインターネットサービスが【NDDT】から提供される。
YYモードだ。
通信パケット制、という稀代のシステムを搭載した、メイドインジャパンの大発明だ。
これに、公式サイトをねじ込み、ゲームコンテンツを提供する。
【GOUCHI】の力で、既に公式コンテンツとしての枠は確保している。あとはコンテンツを作り込み、YYモードに最適化するだけだ。
とにかく容量を最小サイズにしないといけないのだが、この辺は悠華さんの戦場であり、2カ月前から取り組んで貰っている。そして、ネックであったデザイン担当も補強された。
1バイトの世界でデザインを戦うのは苦しかろうが、まぁ頑張れ。
チラッとこっちを見た海原に、ニッコリと微笑んでやる。
このYYモードビジネスは、見た目上【GOUCHI】の下請け仕事となるのだが、【GOUCHI】は公式アプリのポジション獲得のみを行っており、いわば看板を貸しているだけだ。
そもそも、YYモードの先進的なコンテンツ制作の意味を理解していないし、技術的にも悠華さんの言葉は念仏にくらいしか聞こえていないだろう。
なので、コンテンツ制作と更新、保守は【バタフライアクセス】が自前で行い、【GOUCHI】には、収入の2割をバックする、という建て付けで握れた。
契約としては、こちらが持ち出しをする不利な条件に見えるし、実際河内も、それでいいのか?的な事を言っていたが、認識が全く違う。
今回提供する予定の公式サイト【わいわいゲームらんど!】(仮)は、ブラックジャック、ポーカーといった簡易的なトランプゲームや、ちょっとした選択肢のあるアドベンチャーゲームが複数遊べるコンテンツだが、300円の月額課金で、新規端末契約の折に販売店で勧められるサービスとなる。
河内自らが散々交渉してくれたおかげで、YYモードの最新の仕様を提供してもらっている。
サービス開始は1999年の夏頃予定。
他社に先駆けて先頭を走れるはずだ。
【NDDT】は1割のキャリア手数料を取るので、300円のうち、270円がこちら側に入る分。
キャリア手数料がバカ安いと思うのは、スマホビジネスに慣れ過ぎなのだろうか。
で、その内の2割、54円を引いた216円が、【バタフライアクセス】に入る収入となる。
ユーザー一人当たり216円である。
仮に10万人が契約してくれれば、2160万だ。
毎月である。
これは美味しい。
そして、そのポテンシャルがYYモードにはあるのだ。
ちなみに【ブラックエンゼル】へも30%の配分がある。
【GOUCHI】絡みなので、そっちの営業担当は妙子。
その他は新垣が担当する。
いよいよITバブルの波が、近づいてくる。
第二部、終了です。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!
第三部の公開には、少々お時間を頂きます。




