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ネオンテトラと漆黒の女王 28

2-28


-1996年8月-


「佳奈、そこのお肉、クーラーボックスに入れといて」


「はーい」


「芳江、ドリンク」


「はい!」


三度目の夏合宿、お馴染みの下田の海である。

三年になり、部長となった花明院 楓の指揮の元、バーベキューの準備が進んでいる。

紺のワンピース水着の上に、パーカーを羽織るスタイルで、なかなかクールにキマッている。ほぼ色気はないが、花明院にそれを期待するのは間違っている。


「楓、領収書どこに置いとく?」


「そこの箱」


ちゃっかり副部長となった二戸 沙苗は、やはり秘書っぽい動きをしていた。

水色柄のフレアトップビキニが可愛いが、何というか、花明院とは違った意味で色気はない。


今年の参加者は、30人ほど。

新入生が20人入って、いい加減このサークルも、巨大サークルと言って差し支えない規模になってきた。



二年生で目立つ存在としては、バーベキューの手伝いをしている、真鍋 佳奈(まなべ かな)と、宮下 芳江(みやした よしえ)の二人か。


真鍋は、黒髪のワンレンで、切長の目が涼やかな美人だ。

したたかに見えるが、意外に優等生で一本気なところがある。

花明院が気に入りそうなタイプだ。

国際交流学部 国際交流学科。妙子の後輩だ。

濃緑の無地のホルターネックビキニが、大人っぽい雰囲気を醸し出している。世田谷のお嬢様らしい。


宮下は、肩までの茶髪で丸眼鏡をかけた、人懐っこい子だ。

経済学部 経済学科。有希の後輩だな。

ピンクの大人しめのワンピースが性格を現している。

長野の農家の出らしい。


この二人は性格は真逆なんだが、気が合うらしい。

俺は話に聞くくらいで、ほとんど話したことはないが。



で、俺が何をしているかと言うと、


「会長、これ、買い出しリストです」


何やら書き連ねたメモを渡してくる皿橋。


パシリである。

全員チャーターバスで来ているので、自家用車で来ている俺が買い出しをすることになる。

うーむ、1990年代、下田に店は少ない。

来年からは熱海にするか……。


「会長?」


「おお、すまん。考え事をしていた」


愛車のラーバーNINIに乗り込む。


「会長、妙子ちゃんお手伝いに付けときます」


「え?」




……という訳で、海岸沿いの道路を走っている。


妙子は、気持ち良さそうに全開の窓の外を見ている。

ワインレッドのキャミソールの上に、白の半袖シャツが爽やかだ。

髪は髪留めで緩く括っている。


「たえ……曽良岡、風強くないか?」


「ウフフ、大丈夫です。もう、妙子で良いですよ!」


「……そうか」


妙子と二人きりになるのは、久しぶりだ。

胸がざわつく。


もう有希とは、別れたのだ。

妙子とまた付き合っちゃうのも、良いのではないか?

いやいや、そんなあっちこっち気軽に乗り換えるような男、嫌われるに違いない。妙子に嫌われたら、半年は立ち直れない自信がある。


それに、河内を振ったらしいが、諦めの悪い河内のことである。

何度もアタックして、今では付き合っているかもしれない。

そんなことも知らずに、ノコノコと言い寄って断られたら、恥ずかし過ぎる。


そんなことを悶々と考えていた。


「先輩!あそこ!すごく景色良さそうですよ!

ちょっと見ていきませんか?」


「ええ?」


ちょっと先が岬になっていて、車を停められそうなスペースがある。


「仕方ないな」




「わぁ!きれい!」


岬からは、凪いでいる太平洋が、よく見えた。

キラキラと波が輝いて、地平線の向こうはぼんやりと霞んで見える。

風が気持ち良い。


世界は、こんなにも美しい。

そこに住む人間たちは、つまらないことで醜く悩み続けるというのに。


「風が気持ち良いな」


「ねえ、先輩!」


妙子は、後ろ手に、悪戯っぽく微笑んだ。


「ん?」


「私ね、先輩のことが……」







「大好きなんですーーーーー!!!!」







海に向かって叫びやがったー!!

なんて恥ずかしい!


俺は言葉を失った。

だが、この上なく嬉しかった。

妙子は、やっぱり最高過ぎる。


顔を真っ赤にした妙子は、こちらをみて、上目遣いになり、

そして俯いた。


「……つ、付き合ってください」


なな、なんてあざといんだーーー!!!


蛇に睨まれたカエル状態だ。

もう逃れられない……!



こ、これはあれか、アンサーソング的な何かを求められてるのか?

ぐぐ、仕方がない……。


「た、妙子?あのな……」


俺もやるのか……。






「俺も好きだーーーーーー!!!」





「……こんな俺だが、付き合って欲しい」


妙子の表情が、パァっと明るくなる。

可愛いなぁ。永遠に眺めていたい。


「先輩……」





少し離れた電柱の影に、4つの人影があった。


「妙子ちゃん、大胆!!」


「でも、あれくらいしないと、会長は心を決めないよね」


「会長も可愛いところがあるんだね」


「キーー!私は2号でいいです!」


皿橋に新垣、そして何故か花明院と二戸である。


「あれ、二人とも車に戻るよ」


「私たちはどうするの?タクシー返しちゃったけど……」


「し、しまった……考えてなかった!!」


「ちょっと!ここに置いてきぼりはやだよ!」


「ええい、ままよ!




会長ーーー!!

車乗せてーーーー!!」




「皿橋先輩、無茶苦茶だよ……」


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