表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

48/238

ネオンテトラと漆黒の女王 27

2-27


-1996年6月-


大学を卒業した俺は、精力的に働いて……

いるわけでもなく、ダラダラしていた。


始めは【シャインガレット】の本社業務を週4で手伝っていたのだが、4年生になった皿橋たちが、バイトに来てくれたのだ。

去年の有希みたいな感じだな。

どうやら彼女たちは、卒業後、俺の会社に来てくれるらしい。


あの3人は、俺が目をつけただけあって、流石にというか、普通に有能だった。全員コミュ力が高いし、真面目でかつ、臨機応変に動ける柔軟さがある。


お陰で、青木さんの負担も軽くなり、人員の増強に乗り出すことが出来るようになった。

そして、俺のすることもなくなった。

たまに顔を出して、酒を奢るくらいのものである。


なので、定期的に呼ばれる投資家の会合に顔を出したり、【ブラックエンゼル】の事務所を探したりする以外は、ジムに通ったりステファニーさんと英語でコミニュケーション取ったり、要はダラダラしている。


何故か河内が相談に来たり、二戸たち下級生が遊びに来たり、進路に困った4年生を皿橋が連れてきて予言を賜りたい、とか何やかんや、あるはあるんだが。


来年からの事業計画を考えないといけないんだが……

どうするか。


あの3人は、いったん3ヶ月間、【シャインガレット】の新人研修プログラムに放り込もう。

そのまま出向扱いで管理業務に入ってもらっても良いし、いくつかやりたいこともある。


であれば、【シャインガレット】と【ブラックエンゼル】のオフィスを一緒にするか。

あの探偵事務所、さすがに引き払いたいもんなぁ。

ついでに、【クラウンローチ】の本社住所も移動しよう。


うむ、そうしよう。

来年の新年度から、新オフィスでスタートだ!

なら、少し大きめの所を借りた方がいいな。

10席も置ければ良いから、30坪くらいあればいいか。

坪単価は1.5万くらいか?



と、物思いに耽っていると、玄関のチャイムが鳴った。


……河内である。


「よう、すまんな」


「まあ、入れ」


河内豪太郎は、【河内葉通信機器】の社長に就任している。

昨年の暴露騒動で、河内の父である河内葉太郎は、逃げ切れないと判断、引責辞任して会社を離れ、会社を存続させる方向に舵を切った。

ついでに言えば、当時の取締役も総辞任したらしい。


葉太郎の握り潰していた不良債権は、かなりキナ臭い案件だったらしい。掘り起こされると困る……おそらく、政治家絡みか。

マスコミ各社の過熱報道も、潮が引いたように沈静化した。


葉太郎個人の問題であり、会社のせいではなかった。

そのように何処かで筋書きが決まった、ということなのだろう。


そうなると、検察も粘れなくなり、恐らく有耶無耶になる。

後は、パワハラやセクハラなどの醜聞を、どう解決するか、という点に集約される。


そこで登場するのが、悲劇のヒーロー、豪太郎である。

登場がかなりスキャンダラスだっただけに、

【まあこいつが社長やるなら良いか】

的な謎の空気が醸成されたのが幸いした。

SNSも無いから、マスコミが沈黙すれば、そこで終わりなのだ。


比較的真っ当に商売していた電話交換機事業と、管理部門から、取締役を立てて、逆風の中、再スタートしたというわけだ。

株価は大暴落、時価総額は半分になった。

テレアポ事業は再建の目処も立っておらず、今期はともかく、来期から数年は大赤字確定だろう。


とは言え、前世ではあえなく倒産しているわけなので、随分マシな状況と言える。


似合わないスーツを着て、やつれた様子の豪太郎に、コーヒーを出してやる。


「親父さんは?」


「……ああ、憑き物が落ちたように静かになってな。

俺はやり過ぎたのかもしれない、なんて反省してるよ」


「おまえが動いた結果だ」


「そうだな。良かったのか悪かったのか、今もわからん」


苦笑。


「誰にもわからんさ」


おまえはかなり善戦してるぞ、と言ってやりたいところだ。


「それはそうと、言われた事を調べてみた」


豪太郎は書類を取り出す。


「ほう、どうだった?」


「うちの株を大きく買いに走ってる会社が、三社ほど見つかった。

NDDT系の投資会社、外資系の投資会社、国内系の銀行、の三社だ。

このうち、銀行については、ウチを支援してくれている大手メガバンクだ」


「ふむ、なるほど」


NDDTは、日本電話電信通社という、民営化された電話会社だ。

【河内葉通信機器】の株価は、暴落した割には、その後横ばいの状態が続いている。信用売りで売りまくられるとばかり思っていたんだが、思いのほか踏み止まっているのは、誰か大きく買っている奴がいるわけだ。


「大株主というほどでは無いが、買い集めているのは確かだな」


「外資系の投資会社は、下がったから買ってるだけだろう。

また上がると読んでいるのだから、むしろ買い支えてくれていると考えて良い」


「NDDTがよくわからんな。

昔から一定の株を保有はしているんだが」


「ふむ。ここ数年で、NDDTからの仕事で増えたものはないか?」


「それなら、アレだな。

先頃力を入れているらしい、携帯電話用の基地局の設置とメンテナンスの仕事は、徐々に増えてきている」


繋がった。


「それだ」


「何が?」


「NDDTは、いずれ親父さんから、株を買い取ろうとするかもしれない」


「買収するってことか?

確かに親父は、40%以上の株を持っているが」


「うむ」


「でもなんで?」


「確定ではないんだが、お前の会社の、機器運用の人員とノウハウが欲しいんだろう」


「別に頼まれれば、仕事はするんだがな。

買収するほどのことか?」


今はNDDTの一強だが、この先、携帯電話キャリアは増えていく。

それこそ、2020年代にも増えているくらいだ。

携帯電話の基地局増設スピードで、各社はしのぎを削ることになる。

豪太郎には、それが見えてない。

【河内葉通信機器】は、今までの仕事の延長の範囲で、基地局の仕事を請けているが、今後はそれがメインになるなんて、思ってないのだ。


「彼らにとっては、その価値があるんだろう。

今ならお買い得だしな」


刑事事件の回避から繋がっているかもしれない。

今なら親父さんも落ち込んでるから、株を売るかもしれない。

銀行と外資は、その辺を嗅ぎつけたのかもしれない。


「全ては、仮定だがな」


河内は難しい顔で、腕を組んで考え込んだ。

バカなんだから考えても無駄だろう、と口には出さなかったが。


「もしそれが現実になったら、どうしたら良いと思う?」


「さてな。その時は好きにしろ」


「最後は俺が決めなきゃいけないのか……」


「それが経営者、ってもんだ」


「で、人材派遣の件はどうなった?」


「ああ、それがメインの議題だったな」


豪太郎は、壊滅的に人が居なくなった、テレアポ事業の立て直しを考えていた。既存のテレアポ事業の部署は、今ある契約が終了次第、閉じるらしい。役職持ちはそれまでに全員リストラ。

残った若い平社員は別部署に移すそうだ。


とは言え、この会社のテレアポ事業は、人の使い方は最低だったが、クライアントからの評判は悪くなかったのだ。

営業ルートやノウハウ、まとまった設備がある以上、このまま撤退するほど、会社に余裕はない。

新規部署として、再生を目指すのだと言う。


「期末でほとんど整理はついている。

秋からは、再スタートを切れそうだ」


「そうか」


「なので、秋くらいから、もし人に空きがあれば、お願いしたい」


「わかった。ウチの副社長に言っておくよ」


マネジメントする社員がそもそも居ないのだが、現場で働くオペレーターの数も圧倒的に足りないらしい。そりゃ、こんな悪評の広がった会社に行きたがる奇特な人員はいない。


その為、零細派遣会社社長の俺にまで泣きついてきたのだ。

現場オペレーターでも、準社員扱いのマネジメント人員でも、とにかく使える女性が欲しいらしい。

セクハラの教訓を活かして、課長以下、現場に接する人員は、全て女性に統一するんだとか。


なかなか難しい。

三十を過ぎた女性は、お局様と言われる時代だ。

目端のきく女子は、すぐに家庭に入ってしまう。

そう。

共働きしなくても、マイホームを持って幸福に暮らせる時代なのだ。素晴らしいよな。


「とはいえ、ウチはIT系の仕事でしばらく埋まってるがな」


「ああ、余裕があれば、で良い」


【シャインガレット】の従業員は、1995年4月時点で10名だった。有希が管理業務を手伝ってくれたおかげで、1996年4月には、16名に増加している。

会社が傾く前の水準に戻った、という訳だ。


皿橋達がバイトに入ったおかげで、その後も青木さんは人材採用に力を入れているようだ。



「今日は色々良い話が聞けた。

予言者は伊達じゃないな」


「よせよ。

何かあれば、また気軽に連絡してくれ」


「ああ。それから……」


「ん?」


「……いや、何でもない。じゃあな」



河内はいそいそと出て行った。

これから、会議がいっぱい入ってるという事で、車を待たせてるらしい。大変だな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ