ネオンテトラと漆黒の女王 26
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-1996年3月-
卒業式を終えた俺は、講堂の出口で手を振っている有希を見つけた。
薄桃色の着物に、えんじの袴、髪はアップにしている。
とても美しく、目立っている。
「久しぶり」
「久しぶりだな」
若干のギクシャク感はあるが、もう友達として仲直りはしている。
桜が咲き始めた並木道を歩く。
「今日名古屋に帰る」
「そうか」
大学時代は、楽しかった。
有希との思い出もたくさんある。
サクサクと落ち葉を踏む音が聞こえる。
「有希」
「なに?」
「困った事があったら、連絡して来い。
力になる」
「うん」
並木道の向こうのベンチに、4年生になる【ネオンテトラ】の三人が屯しているのが見えた。
「これからみんなと、お別れ女子会するの」
「そうか。楽しんで来い」
「うん」
俺は【ネオンテトラ】の幹部会があるから、みんなとの付き合いは続く。有希の東京生活、厳密に言えば横浜生活は、ここで終わりだ。
「じゃあな」
「バイバイ!」
木漏れ日の中で笑う有希は、眩しかった。
横浜駅からすぐの百貨店、【桶田屋モローズ】にある、
ケーキバイキングの店、【スイーツ活動!】略してスイ活。
1,980円で90分間ケーキ食べ放題の、女子に人気の店である。
「さて、第一回、妙子のラブラブ作戦会議を行います!」
ぱちぱちぱち。
「ちょっとやなんだけど……東堂先輩もいるし……」
真っ赤になった妙子は、恐縮しきりである。
「良いの良いの!昨日の敵は今日の友よ!
岸谷くんを任せられるのは、妙子ちゃんしか居ないと思ってる!
私が言うのも何だけど!!」
切り替えの速い女、有希。
さすがは敏腕経営者である。
未来の、であるが。
【ネオンテトラ】の幹部内では、妙子が岸谷を好きなのは、公然の秘密……というより、バレバレなのだった。
岸谷がウジウジしていた間に、女子4人の間では、話が纏まってしまっていたのである。
「妙子、河内先輩の告白、また断ったんだよね?」
イチゴショート半ホールを前に、格闘する新垣。
イチゴ好きがブレない。
「うん……やっぱり好きな人がいるのに……
OKすることは出来なくて……」
モジモジとする妙子。
公開処刑である。
「くー!会長、愛されてますなぁ!」
シュークリームを頬張る皿橋。
豪快にくっついているクリームは、拭いたほうがいいだろう。
そして、ナレ死した河内に合掌。
「妙子ちゃん!」
「は、はい!」
「私、今となっては、妙子ちゃんを全面的に応援するわ!」
「ありがとうございます……」
「……誰とは言わないけど、ライバルは多いわよ」
……やはり。
3人が息を飲む。
「モタモタしてたら、食われるわよ」
……ゴクリ。
「……食うか食われるか、ですね」
誰もが思いついたけど言わなかった事を、言ってしまう皿橋。
「でも、どうすれば会長に振り向いてもらえるか……」
さらりと流す妙子。
無慈悲である。
「妙子ちゃん、そこは心配ないわよ」
「え?」
「岸谷くん、妙子ちゃんのこと、好きだと思う」
「ええ?」
「私と付き合ってたから、意識しないようにしていた、というか……なんて言えば良いのかな……。
とにかく、そこは大丈夫だと思う。
後は、きっかけかな……」
「会長、意外に鈍感ぽいですからね」
あーだこーだと、90分のケーキバイキングは、あっという間に、過ぎ去っていくのだった。




