表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

46/200

ネオンテトラと漆黒の女王 25

2-25


-1996年1月-


「おお、岸谷君、出資してくれるかね」


「ええ、2億出資させて頂きます。

はい、特に条件はないです。

利益分配も、お任せします。

結城さんの手腕に期待しております」


俺はPHS片手に、ドリップコーヒーを淹れていた。

芳しいキリマンジャロの香りが立ってくる。


「わはは!君も言うようになったね。

なに、期待は裏切らんよ」


「結城さんにベットするのは、分の良い賭けだと思っておりますよ。

ご連絡が遅くなり、申し訳ございませんでした。

ええ、それではまた」


PHS(personal handy-phone system)の通話OFFボタンを押す。

ついに、携帯電話の登場だ!!

もう待ち合わせで、すれ違う事もない。

急な用事で電話ボックスを探す必要もない。

ああ、なんて便利なんだ!

テレホンカードよ、さようなら!


あまりに嬉しくて、結城さんに、新年の挨拶ついでで、延ばし延ばしにしていた出資の連絡をした。


チャコフは、10年後には日本でも有数の投資ファンドになる。

結城さんはすごい人なのである。


出資金を集めているステータスの今、わざわざ結城さん自身から勧誘されて出資出来るのは、幸運と言っていい。

数年内に、出資させてくれ、と皆が殺到することになる。

今なら、ばーんと無条件出資することで、ある程度の恩義を感じてもらえるステータスなのだ。


なるべく目立たず金儲けするつもりだったが、島田のせいで、一部で有名人になってしまっているし、成り行きで会社の買収もしてしまっている。

だったらもう、今のうちから、使えるコネは積極的に使っていく方向に、方針を変えた。


出資金は、そのうち倍以上になって帰ってくるだろ。

少なくとも損はしない。



12月いっぱい、大学以外は、ほとんど引きこもっていた。

気持ちに整理をつけたかったから、一人で考える時間が欲しかった。


が、渋谷に出てこないとわかると、青木さんは容赦なくウチに仕事を持ってきたし、皿橋たちも、何やかんやとウチに来て騒いでいった。


なんか、気を遣わせてしまったかもしれない。


有希とは、年末に話し合った。

少なくとも、俺は有希を憎む気にはなれなかった。

未練はあったが、こういうこともあるさ、と気持ちの整理もついた。

伊達に年食ってるわけじゃない。


なので、素直に有希の幸せを願うことにした。

そして、これからは友達として仲良くして欲しい、と提案した。


有希は、涙ぐんで謝罪していたが、

もう二度と謝るな、と言っておいた。


そして、やらしい話ではあるが、出来る限りで【シャインガレット】のバイトは続けてもらうことにした。

有希は名古屋と行き来しながら、卒業まではこちらにいるらしい。


今、大急ぎで管理人材を用意しようとしている。

【ブラックエンゼル】については、元々ほとんど無報酬で役員にしてたから、問題はない。



「お待たせした」


応接ソファには、青木さんが待機していた。

テーブルに、二人分のコーヒーを置く。


「ありがとうございます。

お話というのは、例の、勤続年数に応じた報奨金についてですね?」


そう、【シャインガレット】は、他社に先駆けてIT化に対応し、社員教育に取り組んだ結果、早くもデータ入力や経理補助等で、依頼が引きも切らない状況だ。

派遣報酬を値上げしてもこれだ。

この時期、パソコンが使えて、若い女性で、期間契約出来る人間など他に存在しない。使わない方がおかしいのだ。

そして、ちらほらと、他社から正社員として引き抜きが掛かっている気配がある。


それ自体は、本人の選択だし好きにすれば良いのだが、【シャインガレット】に居続けてくれる人材に、メリットがあるようにしたい。

今の所【シャインガレット】は、アットホームで、社長が事あるごとに寿司を差し入れたりする程度で、特に競業他社と比べて待遇が良いという訳でもないのだ。


「うん、そうだ」


俺は、リビングに設置してあるホワイトボードに、自分のプランを書き込んでいく。


ーーーーーー

◇ノーマルクラス

→派遣就業12ヶ月未満の新人。

◇ブロンズクラス

→派遣就業12ヶ月相当以上。

時給100円アップ。

達成ボーナス10万円。

◇シルバークラス

→派遣就業36ヶ月相当以上。

時給300円アップ。

達成ボーナス30万円。

◇ゴールドクラス

→派遣就業72ヶ月相当以上。

時給500円アップ。

達成ボーナス50万円。

◇プラチナクラス

→派遣就業108ヶ月相当以上。

時給500円アップ。

達成ボーナス100万円。


※相当、というのは、期間+評価だから。

ーーーーーー


「こんな感じの昇格制度を作ろうと思う」


「なるほど、わかりやすいですね。

達成ボーナス、というのがエグいです。

次も絶対貰いたくなるじゃないですか」


「わかる?

ゴールドからプラチナのボーナスの上がり方がヤバいでしょ?」


「ええ、これは絶対取らなきゃ!と思います」


「うむ。キャリア6年と言えば、一番仕事が出来る時期だ。

そこで、一層奮起して欲しいわけだ」


「辞めにくいのも、肝ですね」


「そう、一度ボーナスを貰ってしまったら、プラチナ達成まで走り切らなきゃ勿体無くなるんだ。これは、引き抜かれないための施策でもある」


「恐ろしいです。

社長、あなたは恐ろしい事を考えつきますね」


いわゆる、スマホゲームのイベント、みたいなものだ。

一度取り組んだら、完走しないと勿体無い、そう思わせる心理効果を利用する。


「一つ……懸念があるとすれば、派遣期間を延長するために、手段を選ばない輩が出て来る可能性がある、という事だ」


「ウチの子が、枕すると言いたいのですか?」


「そうは言ってないが、有り得ないとも言い切れない」


「……」


「惚れた腫れたは、世の常だ。

ある程度は、やむを得ないとしても、クライアントの責任者が男性の場合は、更新時の態度に気をつけるように」


「承知しました。

ところで、プラチナから先は、無いんですか?」


「うむ。意図的に用意しない。

なるべくなら、そこで辞めて欲しいんだ」


「何となく意図は察しますが、年齢的な制限を気にされているんですよね?」


「そうだ。うちは、若い女性がやる仕事が多い。

三十を超えてくると、どうしても仕事の幅が狭くなるし、仕事が入らないことも予想される。

それは、従業員と会社、双方にとって不幸な事だ」


「確かにウチは、業態を絞っているからこそ、効率的に仕事を回せてます……」


「うん。そこはブレたくない。

で、あれば、ウチに合わない年齢になったら、別の会社に転職するなり、貰ったボーナスを結婚資金にするなり、次のキャリアを考えて欲しいわけだ」


「ああ、ボーナスがあれば、このタイミングで辞めるか、という踏ん切りもつくかもしれません」


「うん。

まあ、別に居てもらっても良いんだがな。

仕事の幅は狭くはなるが」


マキとメグは、ババアになるまで居そうだ。


「いったん、持ち帰って検討します」


「うん、そうしてくれ」


青木さんは、帰って行った。



ちなみに青木さんには、死ぬまで付き合ってもらいたいので、特にオプションは用意していない。

何か考えておこう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ