ネオンテトラと極彩の王 36
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よく思い出して欲しい。
【ツキテレビ】には、【ラジオジパング】というウィークポイントがあったから、たまたま上手く行っただけだ。
【TTN】を手中に収めようとした場合、時価総額7000億の企業の株を掻き集めなければならない。
単純に過半数を取ろうとしたら、3500億必要なのだ。
いかに海老谷さんとて、そこまでの資金力はない。
実際前世では、海老谷さんは1500億を投じて【TTN】株を15%以上取得、経営統合をせまるのだが、見事に失敗し撤退のために600億以上の大損失を出すことになる。
その裏では蒲田さんから海老谷さんに【TTN】株が渡り、蒲田さんは数十億の利益を上げることとなるのだ。
さて……
蒲田さんは、俺に一枚噛まないか?と言ってきた訳だが、俺がその手の話に乗らないことを、蒲田さんはよくわかっているはずだ。
では何故、このタイミングで俺と話しに来たか?
それは、俺の顔色を見てここで利益確定するか、もう少し突っ込むかを判断したい、ってことなんだろう。
蒲田さん、油断のならない男だよ。
華やかな手柄が欲しい海老谷さんを言葉巧みに誘導して、自分はとっとと撤退するんだからな。
「岸谷さん。
私はIT業界を牽引して、業界の未来を作る責務があると思っています。その為には、ITとメディアの融合はマストだと考えているのです」
「なるほど」
間違ってはいない。
現実的ではないだけだ。
「あなたは巷では、未来を見通す【預言者】と言われているとか。未来が見えているなら、教えて頂けませんか?」
海老谷さんは柔和な表情を崩さないが、この人はこれからかなりの賭けをするつもりでいるのだ。未来がわかっていてしたり顔をしてる人間がいるなら、それは聞きたいだろう。
真偽はさておき、ね。
占い師や詐欺師が食っていけるのは、こういった心理を上手く突くからなのだ。
「あっはっは!
いや、すみません」
俺は膝を打って呵呵と笑った。
海老谷さんが怪訝な顔をする。
「私は、自分のことを【預言者】だと言った覚えはありません。そうですよね?蒲田さん」
「え?ええ、まあそうですね」
「私はただ私見を申し上げているに過ぎません。
それをどう解釈されるかは、聞いている人次第です」
「ごもっともです」
「それを理解した上で、海老谷さん。
あなたは私に何を期待されるのですか?」
海老谷さんは、はっ、とした表情となった。
蒲田さんはやや渋い表情だ。
「……失礼しました。
少々視野が狭くなっていたようです。
岸谷さんは、我が社の取り組みについてどう思われますか?」
少々驚いた。
周囲の人間を全て顎でこきつかえる身分にいると、傲慢になりがちだ。思い通りにいくと思い込んでしまう。
それを理解し、あまつさえ頭を下げることができる人なんだな。
俺は海老谷さんの評価を改めた。
前世の印象で言えば、ステレオタイプな傲慢社長のイメージだった。
やはり、なんだかんだ巨大企業を束ねる人物。
俺に会えないからと、取り乱してブチギレる小物政治家とは一味違う。
「そうですね……」
俺はハイボールを一口煽った。
「取り組みは素晴らしいと思います」
「「おお」」
「しかし……」
「しかし?」
俺は言い淀んだ。
どこまで言っていいのか、言えるのか、わからないからだ。
経営統合の失敗は、不可避の歴史なのかどうなのか。
「……先方の経営陣は、海老谷さんのように頭の柔らかい方達だと思われますか?」
うん、これは大丈夫らしい。
言い回しに注意だな。
「それは何とも……。
しかし、大きな未来へのビジョンは、きっと彼らの心を動かすものだと考えています」
うーん、その自信が今回は悪い方に転ぶんだよな。
俺としては、売国的経営者ではない海老谷さんには、順調に成功の道を歩んで欲しいと思っている。
ここで会ったのも何かの縁だしね。
この国には、金の為なら会社や従業員はおろか、平気で国を売る経営者や、日本人のフリをしてこの国の富や税金を掠め取ろうとするエセ経営者が多過ぎる。
そりゃ国も落ちぶれるってもんだよ。
マトモ寄りの海老谷さんには、早く力をつけてもらいたいものだ。
【TTN】絡みで海老谷さんが被る損失は600億を軽く上回る。
その金は、別の有意義な投資に使っていただきたい。
そうすればさらに未来、携帯電話事業に乗り出した時などに、より迅速に、より良い形で臨める筈なんじゃないかな。
ただ伝え方が難しい……。
「ええ、それはそうかもしれません。
しかし、相互理解を得るには、気の遠くなるような時を待たなければならない、かもしれません」
「ふむ……」
「仮にあなたが興味を持っているのが巨大なメディアだとするなら、まずはこの辺から……とハムをスライスするように慎重に進めていった方が、頭の硬い老人とコミュニケーションを取るよりも建設的なのでは無いかと思います」
「ふふ、サラミスライス戦術か。
悪くないが、いささか地味だな。
成果がわかりにくい」
「成果が上がらないよりは宜しいかと」
「ふむ」
海老谷さんは、少し興が削がれたような雰囲気となった。
追従するような人間に囲まれていると、自分に賛同しない意見には耳を貸さなくなる。
経営者のあるあるだ。
「なるほど岸谷さんは、【預言者】ですな」
「……はあ」
「……【救世主】になれるのでは?」
「……」




