SS バスガイドと少年 ④
ブックマーク有難うございます!
残酷描写が少しあります!
何が起きたのか解らない。光に包まれ気付けば森の中。
辺りを見回しても、居るのは私と学生が一人。森の騒めきが無性に不安を煽る。
みっともなく騒ぎ立て、大人の余裕なんて微塵もない。情けない大人だと思われたかな・・・。
無口で不愛想、でも引っ張られた手は温かく。頼りになる子供だ。
どうして?なんで私が!?そんな風に騒ぎ立てたい。帰りたい。
でも、またみっともない姿は見せたくない。だから・・・。
「さっさと殺しなさいよ!!」
突きつけられる漆黒の剣、それに対する答えに愉悦の表情を滲ませる青年。
「ふふ、キミ・・・いいね!」
嗜虐的な笑みを向けた青年はアズサの手に剣を突き立てる。
「っ――」
必死に我慢する、でも溢れる涙は堪えきれず決壊する。
「っあああああ!!」
無理矢理動かされ声を上げる女に、青年は楽しそうに語る。
「アハハ!キミは最後。殺して殺して殺すから。最高の形相を見せておくれ!!」
とても正気とは思えない青年に恐怖し、泣き叫びたい。
(逃げて・・・健人君・・・)
痛みを我慢し、声を殺し少年を心配する彼女の顔がどう変わるのか。
「・・・何してるんだよ、お前!!」
己のした所業に対し激怒する少年を前に、青年の口元は裂けんばかりに三日月を描いていた。
・・・
・・
・
炎の上がるエルフの集落へと急ぐ、辺りは暗く走るには危険だが構わず駆け抜ける。
「あれは・・・帝国兵か!?」
「馬鹿な!あれだけの兵がどうやって結界を超えてきたというのだ・・・」
見えてきた集落では、木から降り鎧姿の兵士と戦うエルフや、木の上から弓を射る者。
帝国の兵を正確無比に射抜くが数が多い。
そんな弓兵に向かい、帝国の魔術らしき炎が放たれる。・・・場違いなピコンといった音が頭で鳴る。
「魔術師から片づけるぞ!」
シークを筆頭に弓の名手であるエルフ達が一斉に弓を引く。
矢は頭を射抜き喉を貫く。
初めて見る人の死。
「っあああああ!!」
心に浮かぶ靄も、聞き覚えのある悲鳴に掻き消される。
戦場の奥、何人ものエルフが地に伏せている中で、一人の銀髪の男がアズサに剣を突き立てる光景が目に入る。
「ケント!」
アーサーの声が聞こえる前に走り出していた。その声は制止の声だったのだろうか。
リアの魔法詠唱が聞こえる。僕も走りながら詠唱を開始する。
不安定で今にも暴走しそうな魔力を無理矢理押さえこむ。
「風の精霊よ、我が敵を打ち抜く必中の矢となせ。ウインドアロー!」
リアよりも先に詠唱が完了する。集まっていた光の粒子は、無数の風の矢と成り帝国兵に襲い掛かる。
放たれた魔法の矢は、悉く帝国兵を捉え打ち倒す、それでもまだアズサの元へ行くには敵が多い。
歯を食いしばり剣を持つ手に力が入る。この手で人を殺す。考えただけで体が震え足が遅くなる。
「ふん!ガキがビビ―ギャアァ!!」
こちらへと向かってきた帝国兵の足元の地面が槍状に変化しその腹を貫く。
血反吐を吐き、臓物をまき散らす。その光景は僕の目の前、広範囲に渡り広がっている。
あまりに惨たらしい戦場。
(――だけど今は)
痛みに堪え涙を流す、そんな彼女を痛めつける奴が目に入る。
震えは止まり、混乱する戦場を駆け抜ける。
「――」
この場では不釣り合いな軽装の銀髪の青年。その手にもつ漆黒の剣をアズサの手に突き刺している。
「何してるんだよ、お前!!」
今までに体験したことのない程の怒りに任せ怒声を浴びせる。
「ふふ。キミもなかなか・・・美味しそうだ!」
「っああ!」
口角を上げ気持ちの悪い笑みを浮かべる青年は、剣を無理矢理抜きアズサを端へと蹴り飛ばした。
「やめろ!!」
怒りに任せ距離を一気に詰め踏み込む。ロングブーツに白のズボン、黒のジャケットと剣が有ってもとても戦場にいる恰好ではない。
勢いそのままに切り掛かる。レベルの上昇により強化された強烈な一撃が青年を襲う。
キィイン!
剣と剣のぶつかり合い。悲鳴を上げたのは僕の剣。スケルトンリーダーとの戦闘で消耗していたのか半ばから砕け散る。
慌てて距離を取り、地面に落ちていた剣を手に取る。
舐められているのか。青年による追撃は無い。
「ハァ・・・。少年、武器は選ぼうよ。萎えるだろ?」
落ちていた剣は重く。使っていた片手剣とは違い、両手用の長剣だ。
「うるさい!」
自分でも熱くなっているのがよく解る。今まで経験したことの無い悲惨な光景。
唯一自分と同じような境遇に立たされた、同郷の仲間が傷つけられた。
そしてこの青年に対する生理的嫌悪感。
・・・何もかもが僕を苛立たせる。
苛立ちをぶつけるように長剣を振るい続ける。
慣れない武器も【剣Lv3】の効果か、使い方を体が理解してくる。
「へぇ!やっぱり・・・面白い!」
「――ぐっ!!」
漆黒の剣の強烈な一撃。体が軽い僕は後ろへ飛ばされそうになるのを無理矢理抑える。
青年の繰り出す、重く鋭い攻撃は徐々に激しさを増し、一方的になってくる。
連続の強敵との戦闘。大量の汗と血が飛び散り、精神も肉体も限界に近い。
「あぐっ――ガアッ!」
「アハハ!いいよ・・・いいよぉ!!」
まるで試すように。体中を刻まれ、打ち付けられる。
「ハァッ、ハッ・・・・ハッ・・・」
限界に達し膝を突く僕を見下ろし、口角を上げる。
「んん!実に惜しいなぁ。その成長速度、それに底の見えない潜在能力。」
僕とは違った意味で鼓動が高鳴る青年。
「でも、残念。今回はここの殲滅が任務なんだよね・・・。」
そう言い放つ顔は愉悦を帯び、とても残念には見えない。
「まぁ才能有る若者の芽を摘み取るのも大好きなんだけどね!―アハハ!!」
振り下ろされる漆黒の剣をギリギリの所で転がり躱す。
「っ・・・鑑定・・・」
転がり距離をとり、余裕を見せる青年に『鑑定』を行った。
「は?」
「!」
・・・
・・
・
クドラクト・ミルセン辺境伯。『嗜虐卿』と他の貴族からは揶揄される程の性格の持ち主だが。
その反面、天人族の末裔として、自ら前線に立ち圧倒的な武力を示す。兵士からの信頼は高い。
・・・だが。
「おい!・・・あれは!?」
辺境伯が自身の戦いを邪魔されることを極端に嫌うため、エルフ達を相手にしていた兵士達が異変に気付く。
「クドラクト卿なのか・・・?」
「だが、あれではまるで――」
少年と対峙していたはずの高貴なる人物、だが今は自分たちの怨敵である魔族の姿をしていた。
青白い肌、長く尖った耳、最大の特徴は血の様に真っ赤な瞳に、体から放出される赤紫色の魔力。
戦場に動揺が走る中、彼の人物から黒い光球が放たれた。
・・・
・・
・
――――――――――――――――――――
Name:クドラクト
Race:魔族
age:167
job:魔術師
Lv: 35
MP:1900
Vit:251
Str:184
Int:476
Agi:168
Dex:124
Luc:95
Skill:【剣Lv3】【闇魔法Lv4】【変身Lv4】【魔力強化Lv3】
【自己修復Lv3】【魔力感知Lv3】【死霊魔法Lv1】
Unique:【血の狂乱】
「鑑定?・・・それも私の変身を上回るだと?」
霧が晴れたように、その真の姿を露わにした魔族。
「ふ、ふふ。本当に・・・面白いなぁ、キミは!」
血のように真っ赤な瞳がこちらを見つめる。恐怖によって息をすることすら忘れてしまう。
「予定変更!キミはお持ち帰りだね。」
ニィっと頬を上げれば鋭い牙のような歯が見え、魔力を籠めた手を向けた。
「そうなると。もうキミには死んでもらおうかな!」
赤紫色の魔力は揺らぎ、薄暗い光を放つ。
『ダークボール!』
闇の魔弾が、アズサへと襲い掛かる。
手以外も酷く怪我をしているのか、腹部を押さえ動くことのできない彼女に避けるすべは無い。
「ぐうううう!!」
だから、傷だらけの体で黒い光の球を受け止める彼を見ていることしかできなかった。
「ハハ、初歩も初歩とはいえ、私の魔法を耐えるなんて面白くないね。」
初めて、嗜虐的な笑みが消え不機嫌な顔を見せる。
「あぁ、そういえば、あいつらもこの姿見ちゃったし消しとかないと。」
まるで消し忘れたテレビを思い出したかのように、自分の兵士達へと黒い光の球放つ。
『ダークショット!』
発射された複数の球は、兵士もエルフも関係なく戦場を蹂躙していく。
癇に障ったか、誇りを傷つけたか判らないが、不機嫌な顔は消えず。
「やっぱり殺して、それから眷属にすればいっか!」
殺したいだけなんだろ!と、すでに力は入らず、今にも切れそうな意識を必死に繋ぎ止める。
『ダークネスボール!』
先程より大きく、闇の深い黒い光の球が襲い掛かる。
「ファイヤーボール!」
【ラーニング】により先程覚えた火魔術、スキルの効果か、使い方を理解している。
「火の精霊よ!燃えろぉおおおおおお!!!」
ありったけの魔力を籠め、ファイヤーボールを上書きする。
ただの思いつき。やけくそ。
だけど魔力を対価に炎の球は進化する。
火の精霊により燃え上がらされた火の球は、まるで蛇のようにうねらせ、龍のように大口を開け黒い光の球を飲み込む。
「なんだと!?」
そのままの勢いで魔族を焼き払う。
ゴォォ!と音を立て火柱が吹き上がる。
「人族風情が!ふざけるなよ!!」
だがその火柱も、魔族の右手を振り払う動作で掻き消される。
眉をつり上げ怒りを顕わにし、口元からは牙も見えている。
(死ぬ前に少しはやり返せたかな・・・)
もう口を開く力もない。そんな少年へと無慈悲に今まで以上の魔力が高まる。
「もういい!シ――」
言いかけた言葉を止め。全力の回避を行う。
その刹那。雨霰と氷柱が魔族へ降り注いだ。
「その辺にしておきなさいよ。小僧」
そんな声を魔族にかけながら、僕の傍らへとふわりと降りてきた。
「アルメリア・フォン・リヒトゥームの治める森で、随分好き勝手してくれたじゃない。」
金糸のような金髪は僅かに光輝き、水色の清楚なローブに身を包んだ美しきエルフ。
女神のような慈愛に満ちた魔力に包まれ、僕は意識を手放した。
お読み頂き有難うございます。




