43話
「魔物の臭いがするニャ・・・」
馬がやってきたほうを見ながらポチが呟く。
ネコだけあって相当鼻がいいのだろうか。いや鼻がいいのは犬だっけ?ややこしいな・・・。
「どのくらいの距離か解りますか?」
「数5、結界のすぐ外まで来てるニャ。」
予想以上に近くにいるらしい、結界はどの程度もつのだろうか?
「小型の魔物程度では、どうすることもできません。飛竜の攻撃ですら通さないと言われています。」
何とも頼もしい答えが返ってきた。
行方不明の生徒を探すという目標もある。
その為には旅をし、魔物と対峙する時もあるだろう。
(結界の中なら安全だよな・・・魔物も見ておくか。)
情けない話だが、魔物に対して恐怖心が大きい、それもこれも最初に見たグリフォンが圧倒的だったせいだろう。
魔物を見に行くと言う提案に、3人とも異論はないらしい。
田んぼを抜け、トウモロコシなどの穀物畑が見えてくる。
「近いです、注意してください。」
穀物畑を通り過ぎれば、小規模な野菜畑、その中を暴れまわる何かが2つ見える。
悲鳴を上げながら王都の方へと逃げる農民達、それらを追いかける犬が3頭。
「おぃおい!結界があるんじゃないのかよ!?」
予想外の光景につい声が大きくなる。
「稲田までです。」
なるほどね!柵とか覆われてるなと思ったらそのせいか。・・・などと、どうでもいい感想を述べている場合ではない。
決して広くないあぜ道、すぐ横を農民達が走り抜けていく。
それはつまり、魔物が迫っているということだ。インベントリから80cmほどの鉄製の棍棒をとりだす。
さすがに今回は、一本足打法で構えることはしない。
『グルウゥゥ!』
勢いそのまま突っ込んでくる犬、口角を上げ鋭い牙を剥き出し、涎を垂らしながら獲物を狙う。
大きさは大型犬といったところ、その目は白く濁り、酷い悪臭を漂わせている。
「ゾンビドッグにゃ!」
見たまんまの名前だ。
ビュン!と石礫が一匹のゾンビドッグの顔に命中する。
『ギャイン・・・』と首を曲げ飛び跳ね地面に伏せた。
委員長のパチンコによる狙撃だ、ヘイトを稼いだのか、前衛に位置していたミレアを無視し、委員長へと二匹が進路を変えた。
そんなことを許すはずもなく、抜いた短剣で一匹の首を切り落とす。
「げ・・・」
「ガルァア!」
漏れた一匹と対峙する形になるが、悲しく空を切る棍棒。ヘイトが向いたか、こちらへ殺意を向け飛びかかるゾンビドッグ。
涎を垂らし牙を剥き出しにする、不衛生極まりない体臭。
――死ぬ!!
そう思った瞬間には、美しい銀髪が乱れながらも表情は崩さない、青い瞳の巨乳美女がゾンビドッグを打ち倒していた。
「っどっはっ・・・はっ・・・死ぬかと思った・・・」
心臓はバクバクして汗は止まらない。こんな時こそ一服が必要である。
終わった気分でいる俺とは違い、警戒を続け野菜畑で暴れる物に視線を移すミレア。
「あれは・・・ブラッドゾンビドッグの様です。」
そう言うミレアには僅かに緊張が走る。
「上位種ニャー!」
完全にワンを忘れたポチも尻尾をピンとする。
野菜畑は作物が倒され、デカく赤黒い体をした、先ほどのゾンビドッグと比べて遥かに大きい。
逃げ遅れた人を咀嚼している。野菜と一緒に食べるとは健康志向なようだ。
真っ赤に血走った眼がこちらを見据える、仲間がやられたのに気付いたのか、殺気をこちらへと向けてくる。
口元から血を滴り落とし、長い舌を横からぶらつかせている。
『地の精霊よ、我が求めに従い、我が敵を貫け。岩槍!』
まるで歌う様に、風の囁きにも似た呪文が、どこからか唱えられる。
ドドドド!と、ブラッドゾンビドッグの下の地面が槍状に変化し貫く。
一匹は逃げ遅れ串刺しになるが、もう一匹は高く飛び跳ね回避する。
その一匹へと迫る影、野菜畑を突っ切り大剣を担いだまま飛び上がる。
『オオオオ!』
「ガルルアァ!」
雄叫びを上げながら大剣を振り下ろし、ブラッドゾンビドッグの爪と交差する。
僅かに赤く発光する大剣は、爪を切り裂きそのままの勢いで、犬を両断した。
「ぐわ!クッセ・・・最悪だぜ・・・。」
返り血をもろに浴びる形となった大剣使い。鼻を摘み悪態をつく。
「よう、獲物横取りしちまったか?」
人族だろうか?かなりの大柄で筋骨隆々とした男は、こちらへ向かってそんなことを言ってきた。
「助かりました、感謝します。」
布を取り出し、返り血を拭く男へミレアが軽く頭を下げる。
「お、おう。」
ミレアの顔を見た男は顔を赤らめ、その豊満な双丘に目がいけば返り血を拭く手が早まる。
茶髪で短髪、顔立ちはそれなりに整っているが、イケメンとはいいずらい。
「・・・鼻の下が伸びているぞ、ジーノ。」
そんな呆れ声のほうへ振り向けば、僅かに光るまっすぐな金髪、緑の瞳に尖った長耳。
「るせぇ!伸びてねぇよ!」
自身の背丈ほどある、魔力の輝きを放つ銀の杖を持った、まるで女神のような麗しきエルフがいた。
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