Ep26. 欲しいという感情
欲望は、人間を狂わせる。
前世の俺は、それを嫌というほど見てきた。
金。
権力。
名声。
愛情。
◇ ◇ ◇
人は、欲しがる。
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そして。
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欲しがった瞬間から、弱くなる。
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だから俺は。
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“欲しい”を切り捨ててきた。
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必要か不要か。
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それだけで十分だった。
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欲望は、判断を鈍らせる。
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非効率。
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無価値。
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……そう思っていた。
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「ルーク、見て」
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オリヴィアが、小さな花を見せてくる。
◇ ◇ ◇
白い。
◇ ◇ ◇
小さい。
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薬効は——。
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ない。
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少なくとも。
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知る限りでは。
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つまり。
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価値は低い。
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前世の基準なら。
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そこで終わりだ。
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「かわいいよね」
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オリヴィアが笑う。
◇ ◇ ◇
……理解不能。
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花は花だ。
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咲いて、枯れる。
◇ ◇ ◇
それだけ。
◇ ◇ ◇
なのに。
◇ ◇ ◇
なぜ、そんな顔をする。
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俺は。
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花を見る。
◇ ◇ ◇
白い。
◇ ◇ ◇
小さい。
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風に揺れている。
◇ ◇ ◇
……それだけ。
◇ ◇ ◇
なのに。
◇ ◇ ◇
なぜか。
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視線が離れない。
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理由は明確だ。
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“オリヴィアが見せているから”。
◇ ◇ ◇
つまり。
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花そのものではない。
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関係性の問題。
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……合理的に説明するなら、そうなる。
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だが。
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説明できたからといって。
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納得できるとは限らない。
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「ルークにも、あげる」
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差し出される。
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花。
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価値の低いもの。
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すぐ枯れるもの。
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保存もできない。
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実用性もない。
◇ ◇ ◇
……無意味だ。
◇ ◇ ◇
だが。
◇ ◇ ◇
俺は。
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受け取ろうとしていた。
◇ ◇ ◇
無意識に。
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手が動く。
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触れる。
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柔らかい。
◇ ◇ ◇
軽い。
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壊れそうだ。
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「ふふ」
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オリヴィアが笑う。
◇ ◇ ◇
その瞬間。
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俺は。
◇ ◇ ◇
理解してしまった。
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——欲しい。
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……最悪だ。
◇ ◇ ◇
何が?
◇ ◇ ◇
花ではない。
◇ ◇ ◇
この反応。
◇ ◇ ◇
この笑顔。
◇ ◇ ◇
それが。
◇ ◇ ◇
もう一度、欲しい。
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……ありえない。
◇ ◇ ◇
それは。
◇ ◇ ◇
期待だ。
◇ ◇ ◇
欲望だ。
◇ ◇ ◇
前世の俺が、切り捨てたもの。
◇ ◇ ◇
なのに。
◇ ◇ ◇
今の俺は。
◇ ◇ ◇
それを否定しきれない。
◇ ◇ ◇
なぜなら。
◇ ◇ ◇
実際に、軽くなるからだ。
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胸の奥が。
◇ ◇ ◇
ざわつきではなく。
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別の感覚に変わる。
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暖かい。
◇ ◇ ◇
……理解不能だ。
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こんなものに。
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価値があるのか。
◇ ◇ ◇
だが。
◇ ◇ ◇
身体は、正直だった。
◇ ◇ ◇
俺は。
◇ ◇ ◇
花を握ったまま。
◇ ◇ ◇
考える。
◇ ◇ ◇
欲しいと思うことは。
◇ ◇ ◇
本当に、弱さなのか。
◇ ◇ ◇
前世の俺は、そう断定した。
◇ ◇ ◇
だが。
◇ ◇ ◇
今の俺は。
◇ ◇ ◇
少しだけ。
◇ ◇ ◇
迷っていた。




