表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
136/174

Ep136. 初めての応急処置

医者に必要なのは速さだ。だが、慌てることではない。

前世の師はよく言っていた。「急げ。しかし焦るな」

その言葉の意味を、俺は何百人もの患者を診てようやく理解した。

   ◇ ◇ ◇

村の広場に、十人ほどの村人が集まっていた。輪の中央で、一人の少年が泣いていた。

「痛いよぉ……」

年は六歳くらい。膝を両手で押さえている。

「転んだんだ」と父親が説明した。「坂道を走っていて」

なるほど。バーバラはまず膝を見た。擦り傷だ。少し深い。砂も入っている。骨折ではない。関節も問題ない。俺も同じ結論だった。

「少し痛いけど我慢できる?」

バーバラが優しく聞くと、少年は涙を浮かべながら頷いた。偉い。

バーバラは水で傷を洗い始めた。

「いたっ!」

当然だ。砂が入っている。しかし洗わなければ化膿する。

「あと少しだからね」

母の声は落ち着いていた。その声だけで、少年は泣き止み始める。不思議な力だ。

傷を洗い終える。薬草を塗る。布を巻く。

「はい、おしまい」

「……もう?」

少年が目を丸くした。

「終わったわ。明日にはもっと楽になるから」

少年は恐る恐る立ち上がった。一歩。二歩。

「あ、歩ける!」

周囲から笑い声が上がる。父親が何度も頭を下げた。「ありがとうございます」

   ◇ ◇ ◇

その時、少年が俺を見た。

「ルーク!」

知り合いなのか。

「見て!」

膝を見せてくる。包帯が綺麗に巻かれている。

「よかったな」

本当はそう言いたかった。

「う!」

精一杯頷くと、少年は満足そうに笑った。そして走り出そうとして——

「こら」

バーバラに止められる。

「今日は走っちゃ駄目」

「はーい……」

しょんぼりした返事に、皆が笑う。俺も少し笑った。

   ◇ ◇ ◇

重い病ばかりが医療ではない。命に関わる患者ばかりでもない。

一つの擦り傷。一枚の包帯。安心させる一言。そんな小さな積み重ねが、村人の「大丈夫」を作っている。

そして俺は、その「大丈夫」を支えられる医魔術師になりたいと、初めて心から思った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ