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【第10話】ヌクドナルド その3

「ウミ、俺が空手をやめてロボコン部に入った理由、知りたいか?」


リビングのテーブルに着いてカレーを食べていると、お兄が言った。


夕飯はいつもふたりだ。

父はあたしがまだ小さいころに母と別れて家を去っており、

母は仕事で出張が多く、平日はあまり家にいない。


「……誘われたからじゃないの?ツキ子姉に。」

「まあ、最後はそうだけど、

 ツキ子先輩が俺を誘ってくれたのにも理由があったんだよ。」


まさかのろけ話を聞かされるわけじゃないだろうな。

警戒しつつ、あたしは黙って話の続きを待った。


「俺な、実は高校の入学式前、春休みにケンカしたんだよ。」


春休み中に友だちと遊んでいたら、

今日の死武矢男みたいなのに絡まれている人がいて、

止めに入ったけど、相手が手を出してきて、

はずみで中段突きを返してしまった。

あばらに一発。

骨折だった。


母と道場に連絡があって、空手の先生からもひどく叱られたらしい。

破門はされなかったけど無期限の空手禁止になった。


「母さんに心配かけて、先生に怒られて、

 何より相手の苦しそうな様子や、相手の親の悲しい顔が印象的だった。」


だから、空手部には見学すら行かず、

部活の見学や仮入部の期間もぼーっと過ごしていたらしい。


「そのときに声をかけられたのさ、ツキ子先輩と真黒(まくろ)さんに。」

「まくろ?」

「うちの部長だよ。見学会で会っただろ?」


ああ、あのワガハイ先輩か。


「ツキ子先輩は高校で俺の様子がおかしいから気にかけてくれたみたいで、

 ロボコン部に連れて行かれたんだ。

 そしたら、真黒さんに言われた。

 不良の骨を折ったぐらいで孤独なヒーローにでもなったつもりか。

 お前が挑むべき強敵はほかの場所にいる。

 青春の最前線に連れて行ってやる、ってね。」

「え?待って。なんでお兄が春休みにケンカしたこと、知ってたの?」

「あの人、すごい情報通なんだよ。怖いぜ?」


その後、空手の先生にも相談したらしい。


「やってみろって言われた。

 ほかの人の思いを乗せて戦うことで、

 戦う意味を見つけられるかもしれない。

 高校のうちにまた会いに来いってさ。」


何それ。ツキ子姉、ほとんど関係ないじゃん。

なんでケンカのこと、あたしにだけ教えてくれなかったの。


「バッカみたい。」

「まあ、俺が空手をやめたのは自業自得だし、

 今、ウミにわかってくれとは言わないよ。

 ただ、みんなのロボットで戦うって意外と悪くない。

 俺はそう思ってる。」


お兄は笑った。

あたしはまだ笑えなかった。

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