64話
僕の予想通りだね。
ゴールデンウィーク初日、豊田ダンジョンには人が押し寄せていた。特に若い世代の人たちが、連れ立って、次々とダンジョンに入って行くんだ。
1階層は潮干狩りの浜辺の如く、人間でごった返していた。
早朝から、2階層に向かった自分の判断の正しさを、帰りながら実感する。
僕らが帰る頃には、2階層の入り口にまで人が来ていた。
「なんか・・・、すごい人数だね・・・。」
「春先に出来た友人と、ダンジョンに行ってみようかって人たちでしょう。」
「僕らもそうだよね。」
「そうだね。でも、この混雑に巻き込まれないように、春の始めから、スタートダッシュを決めたわけだ。」
国の行ってる、キャンペーンの効果だろう。
ダンジョンに親しみを持ってもらうには、良いのかもしれないけれど。気軽に入って、その広さと戦いの痛みに、多くの人がダンジョンに潜らなくなる。
その上、お金や生活の事を考えると、探索者一本でやって行くのは難しい。
なかなか、探索が進まない原因が、そこにある。
古い人間の、探索者に対する偏見もあるしね。
どこの国も、世間と危険を天秤にかけて、政治を行っているって訳だ。
欧州では少しずつスポーツ選手から、ダンジョンの探索者に投資対象が変わって来ている。
スポーツ競技に、探索者が出てしまうと、競技自体が機能しなくなってしまう。
これを嫌って、探索者の参加を拒否すれば、国の徴兵で入らされてる所の人たちが、参加出来なくなってしまうし。
陰でこっそりダンジョンに入る人たちが、いるに決まっている。
投資するには、何か収益に繋がるものが必要だ。
物でも、その人の能力でも、比べて、誰に投資するべきか、参考にしなくちゃいけない。
ただ何を、比べて競ってもらうかが、問題になってくる。
1番わかりやすい、強さでは、探索者が危険過ぎるし。到達階層では、まだまだ横並びなのが現状だ。
だいたいどこの国も、6階層又は7階層だ。
まだ、今はLvくらいしか参考になるものがない。
一時的に探索者を、過剰に取り合いしすぎたのが原因で、能力を隠すのが主流な今、エンターテイメントとして、社会に浸透させる事が求められている。
僕らがやろうとしてるのは、その一端を担う事でもある。
もちろん、僕らはそんな事、これっぽっちも考えていない。
なのにミラが・・・。
「素晴らしい!これこそ、まさに今やるべき事だ!世界に情報を発信し、ダンジョンに興味を持ってもらう。今の経済に、大きな影響を与えているダンジョンという存在を、知らずに生きて行く事なんて出来ないんだ!!是非やろう!」
昼に、何かヤバイ物でも食べたのか?
「最近、メキシコのダンジョンで、生配信に成功したって話だしな!いずれ日本でも実行されるだろう!おそらく今年中にもテストをして、年末には使えるようにするのでは?」
メキシコの話は僕も知っている、だけど、日本の進み具合は分からない。
エミリアのただの憶測だろう。
「いや!今でも限定的には使えるんだ、常時使えるようにするには、人員が必要なだけに、見送られてきたんだ!ただ、メキシコの発表のせいで、日本やドイツも動かざるをえない。夏にでも一般テスターの受付があるはずだ!」
「ミラそれって、一応、機密情報とかじゃないよね?」
「ギリギリ、アウトだな。まあ、近日中に発表があるよ。」
ちょうど良い塩梅の秘密の共有、一緒に秘密を抱える覚悟もあるのだろう。
知人のスキルを隠す事は、人道を外れるようなものではないし、むしろ仲間思いの彼女の協力なら、安心して頼る事が出来るというものだ。
ならば、乗るさ。
「今のうちに実績を積んでおけば、そのテスターに選ばれる可能性も増すな!」
「その通りだ幸太!話題になれば、資金も充実してくるって寸法だ!さらに探索が捗る事だろう!」
「あ、あの・・・!」
ミラの剣幕に気後れしていた遥君も、なんとか喋ろうとした。
だけど、ミラが口元に人差し指を立てて、遥君の言葉を遮った。
「秘密は喋らなくて良い。だけど、私たちが困っていたら助けてくれよ?」
「うん!」
ミラはニヤリと笑って、話を纏める。
若干、勢いで押し込まれた感はあったものの、本人も了承して、僕は肩の荷が下りた。
「何か、ミラたちが困りそうな事ってあったっけ?」
「まあ、とりあえずはあたしのLv10だな。」
「ああエミリアの、確かに。そういえば、アデレード先輩は?」
「帰ったよ。私たちの問題だったしな、わざわざ付き合う事もない。」
僕は、動画の編集と投稿を、ミラに丸投げする事に成功した。
まさか、1番面倒くさい作業が、僕の手から離れた事は望外の喜びだった。
その夜、僕のスマホで撮った遥君の映像と、エミリアのスマホで撮った僕の映像が、一緒になって、投稿されていた。




