100話
「そっちは、左だぁ!!?」
しまった。また僕は、左右を間違えた。
こればっかりは、なかなか直らない。左利きの宿命ってやつですので、どうか見逃して頂きたい。
テロリストが、突進していく僕に気づいたけど、反応が遅すぎる。
車を周り込んで、次々に切っていく。
近すぎて、味方に当てないように、躊躇を見せた奴もいた。
お構いなしに、味方ごと撃って来る奴もいる。
日本にしてみればテロリストでも。この人たち、絶対どこかの軍隊でしょうに、こんな練度の低さでいいのだろうか?他人事ながら心配になる醜態ぶりだ。
RPGまで飛んで来たので、ここは放棄して隣の車を襲撃しよう。
車を障害物に、鬼ごっこだ。
もちろん、鬼は僕だ、交代は認めない。
銃口の向きさえ気をつけていれば、当たる事はない。
難しい時は、刀を射線に置いてやればいい、振り回して当てるよりは簡単だ。
転がって来た手榴弾を、優しいタッチで蹴り返す。大丈夫だ、落ち着いてやれば出来る。
ただ、ギルド内の滑らかなフロアと違って、銃撃戦の起こった広場は足場が悪い。
ガリガリと地面の擦れる音に、己の技の未熟さを感じて嫌になる。
そんな時は、テロリストを切って憂さ晴らしだ。
冷静になったら、また足運びを意識する。
粗方かたづいたと思ったら、おかわりが来た。
「広場の前を固めろ!連中をギルドにもダンジョンにも入れさせるな!!」
「通りの向こうへの着弾は極力避けろ!戦闘区域を広げるな!警告射撃は要らん、ぶち殺せ!」
「民間人はどうします!?」
「こんな所に民間人がいるか!!探索者なら自分で勝手に逃げるだろ!逃げない奴にこそ注意しろ!敵のおそれがある!!」
・・・間違えられて、自衛隊員と殺り合うのはまずい。僕は、さっきの自衛隊員さんを探して合流した。
「無茶をやるなぁ君は、まあ、おかげで助かったけどな。」
「ちょっと、左右を間違えちゃって。」
「・・・もしかして、君は左利きか?」
「そうなんですよ、実は。」
「そうか、大変だなぁ。まだやれるようなら、次は間違えないでくれよ?」
「気をつけます。」
僕らは左翼から攻めかかる、防御側が攻めるってのも、なかなか斬新な考えだ。
戦の素人としては、守るものだとばかり思っていた。
「援護する!無茶は・・・。」
最後まで聞く事もなく、僕は敵に突っ込んだ。
後から考えると、この時の僕は血に酔っていたのかもしれない。
普通に考えたら、一応、民間人の僕は、自衛隊員に任せて、後ろに引っ込んでる場面だ。
それが、緊急時とはいえ、テロリストに突っ込みまくっている。どう考えても異常だ、なのに、この時の僕は、そんな事、これっぽっちも考えやしなかった。
敵は車を盾にして撃ってくる。
「・・・飽きもせずに、同じ事ばかり・・・。」
普通に考えれば、当たり前の事なのに、そこに思い至らない。
軍人さんなんだから、基本の行動を繰り返す、基本の行動は有効だから基本なんだ、だから、それを繰り返し出来る事は、練度の表れでもある。
僕ら探索者なら、もっと色々と試すところなのに、彼らは同じ事しかしてこない、そこに僕は苛立ってしまう。
「・・・面倒くさいな。そうか、車ごと切ればいいんだ・・・。」
実は僕、面倒くさがりなんだ。
ちょっと考えながら切って、車ごと解体していく。
火花がガソリンに引火して、危なかった。
「あ?・・・やばっ・・・。」
その瞬間に逃げ出して、ちょっと炎に巻かれただけで済んだ。
装備のおかげか、熱くも何ともなかった。
「危ない、危ない、面倒くさがるのはダメか・・・。」
Lvが上がると、割と無茶もきくんだという事が分かったけど、さすがに、丸焼きを自分で試したいとは思わない。
敵に接近しながら、近くに飛んで来たRPGの弾頭を右手で優しく逸らして投げ返した。U字に慣性を逸らして、向きを変え、そっと手を離すんだ。弾頭に衝撃を与えないようにソッとね。
背後に自衛隊員さんがいるから、避けずにやったけど、案外上手くいくもんだ。
秒速100mと目に見える速度とはいえ、僕の器用値が火を噴いたね!
見事テロリストの車に命中し、僕は次弾が来ないかと期待したんだけど、あれは本来、人間に向けて撃つような物じゃないから、次は飛んで来なかった。
「・・・楽な方法を見つけたと思ったのに・・・。」
「助けられて、言う事でもないが。お前めちゃくちゃだなぁ。」
何この人!?
ひどいんですけど!
それからしばらくして、戦闘は終了した。
終わると同時に、身体にかかる負担が、支援の終わりを告げていた。
最高の引きで支援してくれた遥君に、僕は心から感謝した。
「コウタ!!」
「え、エミリア・・・?」
飛びついて来たエミリアを、僕は右手で抱き止めた。
「あ、危ないよエミリア、武器が・・・。」
迷ったけど、僕は無粋な事を言うのは止めて、相棒の『小鬼丸』にはしばらく地面で休憩してもらう事にして、空いた左手もエミリアの背にソッと回した。
Lv10以上の、超人の領域を垣間見る事が出来たと思います。
幸太はまだLv4ですが、支援や装備で擬似超人を体験してもらいました。ちょっと、調子に乗ってる雰囲気を出したつもりですが、上手く伝わったでしょうか?
なお、右と左を間違えたのは、調子に乗っているからではありません。
左利きのパッシブスキルですので、あしからず。