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20.茶髪の陽キャを侮っていた理由④

「牛込、ちょっといいか?」


 俺は計画を実行に移す為、今なお考え込んでいる牛込に声を掛けた。


「は?何?今忙しいんだけど」


 今日、女子のこの表情を見るのは何度目だろうか。俺に声を掛けられた牛込は一瞬真顔になった後、不機嫌そうに返答した。


「宝探しを効率良く進める方法を思いついた。とりあえずアイデアだけでも聞いてくれないか?」


 俺は牛込と二人で話をするために軽く手招きしてそう言った。

 これは俺一人じゃ到底不可能な方法だ。こいつに協力……いや、実行してもらう必要がある。

 しかし、説明中に他の奴に茶々を入れられても困る。出来れば牛込とタイマンで話したい。


「はぁ?あんたが?……聞くのは良いけどくだらないこと言ったらはっ倒すからね」


 牛込はそう言うと、渋々といった感じで俺達が居た所から少し離れた場所まで移動する俺に着いて来た。

 ……というかなんでウチのクラスの女子ってこんな攻撃的な子達ばっかなの?惑星ベジータの生まれなの?


 グループの奴らに聞こえない所まで移動した俺は開口一番、牛込に質問する。


「SNSって何やってる?」


「は?何?キモいんだけど。あんたに教える訳ないでしょ」


 俺の唐突な質問内容に眉の端を一層釣り上げ、ふてぶてしく腕を組む牛込。お陰でモーモーと育った()()()()()()が一層盛り上がっている。あれ?今日って月曜日だっけ?


 まあそんな事は置いといて。

 説明を端折り過ぎたか……仕方ない、きちんと説明してやろう。


「いや、違う。そうじゃない。俺は別に牛込のアカウントとか全く持って興味が無い。これはこの宝探しをクリアする上で重要なことだ。教えてくれ」


「言い方うざ。……一応メッセージアプリ以外だとツイッターとインスタはやってるけど……なに?」


 まだ不信感バリバリの牛込が訝しむようにそう言う。


「そうか。クラスの女子だったらどっちの方がやってる奴多いんだ?」


「どっちが多いって……。…それは、インスタだと思うけど……」


 以外だな…。俺はてっきりツイッターの方が多いと思っていたのだが。……まあ女子はインスタ映えの鬼って言うしな。


「そうか。じゃあインスタに俺達のヒントを写真に撮って投稿してくれ。説明欄には……」


「はぁ?なんでそんなこと…っていうかそれルール違反でしょ」


 俺の提案に牛込が食い気味に反応する。

 予想通りの反応だな……


「いや、ルールでは他のグループとの協力が禁止されているだけだ。SNSのへの投稿は禁止されていない。だからSNSを使って宝の在処を見つけ出す」


「いや、だからってインスタ上でも直接やり取りしたら『協力』って事になるんじゃないの?それはダメでしょ」


「ああ、その通りだ。だからコメント欄やDMでのやり取りはしない。あくまで一方的に投稿するんだ。それならば、ルール違反には当たらない」


「…そんな屁理屈……」


 確かに屁理屈かもしれない。でも、現状を変える最善策であることには違いない。俺はそう確信している。


「…なあ、お前さっき言ってたろ、宝が見つかったら渡にプレゼントしたいって、笑顔が見たいって。それは嘘なのか?」


「嘘じゃない!私は渡さんともっと仲良くなりたい!……でも…」


「じゃあ話は簡単だ。宝を見つけてあいつに渡せば良い。あの手のタイプは友達からのプレゼントとか一生大事にするタイプだぞ?今日はそのチャンスだと思わないか?」


 会話練習も兼ねた学校での昼食の際、渡は「手芸部の友達が作ってくれた」と動物の刺繍の入った弁当包みを自慢していた。


「…それは…………」


 俺の畳み掛けるような説得に牛込が言い淀む。そして暫し黙考した牛込はやがて…


「………分かったわよ。あんたの口車に乗せられてやるわよ」


 「友達」「一生」という言葉が響いたのか、俺の提案に先程までいまひとつな反応をしていた牛込は折れたように承諾した。


「……っていうか何で急に協力的なのよ。朝とか渡さんの事、無茶苦茶言ってたじゃない」


「……ああ…そ、それはだな…………あれだ、藤井寺に脅されたからだ。次ちょっかい掛けたら容赦しないって。だからこれは罪滅ぼしみたいなもんなんだよ」


「……そ。ま、あんたの事なんかどーでもいいけど」


 そう言った牛込はスタスタと俺達のグループの奴らが居る方へと戻って行った。


 さて、とりあえず牛込の尻を叩く事には成功した。ようやく下準備が整ったと言える。暫くすれば進展があるだろう。


 さあ、今こそ超情報化社会で生きる現代っ子の力を見せてくれ。


××××


(つがい)って言葉の意味調べたら、二つ一組の事らしいよ」


 牛込の取り巻きの女子がスマホを弄りながら端的に説明する。


「二つ一組……二つ……。…ねぇ、テントのソファって二つ無かった?」

 

 もう一方の取り巻きの女子がテントの内部を想起しながらそう質問する。


「ソファ…あ!そうだ二つだ!よし、ソファのこと投稿するね!」


 そう言った牛込が高速で投稿内容を書き込む。


「お、瀬尾さんのグループ、お宝見つけたみたいだぞ。……ん?これは糸か?」


 クラスメイトの女子達の投稿内容を随時チェックしていた同じグループの男子が不思議そうに呟く。


 どうやら俺の作戦は成功したらしい。

 残り時間十五分にして、瀬尾のグループが宝を見つけ出したみたいだ。


 やはりSNSの持っている拡散力というのは凄まじい。

 なに、別に特別なことをした訳じゃない。単にSNS本来の使い方をしたまでだ。


 俺達がやったことは単純。

 まず初めに自分達のヒントを投稿する。もちろん、「#宝探し大好き」とか「#他のヒント気になる」とかを付け加えるのも忘れない。

 そして、その投稿を見たクラスメイトはヒントに関連する物や場所を投稿する。それを見て探索を行う。その繰り返しだ。

 他のグループの奴らもこの方法がギリギリのグレーなやり方であることは理解しているらしく、直接的な質問・応答などは発生していない。


 はっきり言って裏技に近いやり方だが、今のところ樫井からのストップは掛かっていない。キングオブ陽キャの樫井がこの手のSNSをチェックしていない訳が無いので、恐らく知っていて黙認しているのだろう。つまりセーフなのだ。


 その後も他のグループの奴らから、SNSを通じて続々と報告が上がってくる。

 

 藤井寺のグループのヒントは、

『番となるものには、往々にして分つものありて。』だった。

 宝はテントの二つのソファの間に設置されたローテーブルの下にあったらしい。これは先程の牛込の投稿が効いてるな。

 そして、ローテーブルの下の小さな宝箱に入っていたのは何の変哲もないハサミだったらしい。……ナニを切るのだろうか?


 瀬尾のグループのヒントは、

『平生の喧騒を忘れ、時にその美しさを感じよう。』だった。

 宝の在処は俺が藤井寺にぶちのめされたあの絶景スポットだったらしい。恐らくあの光景を思い出した藤井寺が投稿したのだろう。

 そして、肝心の宝はオレンジ色の糸。……糸?何か意味があるのだろうか。


 渡のグループのヒントは、

『伝え、語い、育む。結びとは得てしてそう云うものなり。』だった。

 宝の場所は中央広場のハート型オブジェの裏だったそうだ。恐らくあの胸焼けのする光景を俺以外も見ていた奴がいたのだろう。

 そして、宝箱の中身はまたしても糸だったらしい。ちなみに色はイエロー。


 牛込とは別の二軍女子グループのヒントは、

『大地を踏み、火を灯す。本来の温もりは我々ヒトにしか分かるまい。』だった。

 宝は今朝の樫井による朝礼の際、瀬尾の傍にあった薪の裏だった。ヒントの意味は木を()べるのは人間だけだからという意味じゃないだろうか。

 そして、この宝も糸。グリーンのやつ。……いや、あやとり大会でも始めんの?俺、「川」しか出来ないよ?「トンネル」とかマジで無理ゲーなんよ。


 こうして、残り時間五分を残し、俺達以外のグループは宝を見つけ出した。今は俺達のグループの為、他のグループの奴らが必死になって情報をかき集めている。しかし、未だこれと言った情報が出て来ない。

 そして、俺も体内のブドウ糖を総動員し推理していたのだが……


 ……クソ、全然分からねぇ。

 先程からずっと考えているのだが、全く閃かない。やっぱり謎解きはディナーの後じゃないと駄目なのだろうか。でもディナーくらいの良い肉は食べましたよ?


 そんな事を考えていると、投稿を(つぶさ)にチェックしていた牛込が口を開いた。


「…ねぇ、灯台って言ってるよ」


「ウッシーそれどういうこと?」


 牛込の取り巻き女子が反応する。


「渡さんがね、海を照らす灯台を見に行きたいって投稿してる」


 どうやら渡が俺達のグループのヒントについて投稿したらしい。


 灯台?


 確かに航海の目印として夜間、光りを灯す灯台は『海を照らしている』と言えなくもないが……じゃあ灯台を照らすものは何なのかという話になる。


 ん?灯台を照らす?……いや、待てよ……

 もしかして……


 思い出せ…

 あいつは何と言っていた?

 あの時、どんな顔をしていた?

 

 考えろ…

 あいつがどういう人間なのか。

 あいつは一貫して何を願ってきたのか。

 あいつ自身は何を考えているのか。


 そして、今の俺の役割は……


 ……そうか、そういうことか。


 まだ確かめた訳じゃないから確定ではないが……恐らく…いや、間違いなく宝はあそこにある。


 ……いやしかし恐ろしい奴だ。一体あいつはどこまでを見据えて行動しているのだろうか。

 ちょっとした恐怖すら覚える。

 

「あ、時間になっちゃった……」


 スマホと睨めっこしていた牛込が観念するようにそう漏らす。


 ……牛込、どうやら試合終了にはまだ早いみたいだぞ。

 まだホイッスルを鳴らすような時間じゃない。今から延長戦へ突入だ。

 任せろ、PKは俺が決めてやる。

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