21.茶髪の陽キャを侮っていた理由⑤
ゲームの制限時間に達したため、俺達は元居た中央広場まで戻って来た。
そこには既に他のグループの奴らが集まっていた。
「いやー余裕だったわ」
「嘘つけ、お前何にもしてねーだろ」
「結構難しかったけどなんとかなったね!」
「まさかテーブルの下にあるとは思わなかったよ」
「宝の場所から学校見えたよー」
「私達の宝、糸だったんだけど」
「え、ま?ウチのとこもなんだけど」
他のグループのクラスメイト達は宝の場所や宝の内容を上機嫌に報告し合っていた。どうやらそれなり楽しんでいたようだ。
しかし、俺の属するグループの雰囲気はそれとは真逆と言っていいものだった。
「はぁ、結局私達のグループだけ……」
「……」
どんよりとした雰囲気を纏う牛込が項垂れて呟く。そんな様子の牛込にグループの奴らも安易に声を掛けられないようだ。
……まあ待て牛込。
そんなに肩を落とすような状況じゃない。もうゴールは目の前だ。俺達も有終の美を飾ろうじゃないか。
だいたいお前にそんな格好は似合わない。もっとちゃんと背筋を伸ばせ。じゃないとちゃんと拝めないだろ?お前のそのバンヤヤヤイーンが。
「宝取ってくるわ」
俺は今なお落ち込んだ様子の牛込にそう声を掛けると、樫井の元へと向かった。途中、「…え、それって……」と言う牛込の声が聴こえたが、俺はそれを無視して歩みを進めた。
目的地に辿り着いた俺は、目の前のベンチに座る男を見据える。
茶色に脱色された髪は整髪剤で程よく整えられ、彼の人懐っこい顔立ちを引き立たせている。
サッカーで鍛えられたであろう程よく引き締まった体。最近知ったことだが、学年一位と賞される程の成績でもあるらしい。そこそこの進学校にも拘らずだ。しかし、そんな秀才さをひけらかさず、決して驕らない。
『爽やか』という言葉を具現化…いや擬人化したような男。いつも周囲に目を配り、誰一人として見捨てないような。
困ってるなら一緒に考えよう、悩んでるなら一緒になって悩もう、だって俺達は仲間じゃないか。
……そんな事を平然と言ってのける。
よく人物対比の比喩表現で「月とスッポン」などと謳われるが、彼と俺では「太陽とゴキブリ」とかの方が合っている気がする。……ほら俺って意外に生命力高いじゃん?火星とか行ってもムキムキに進化して暮らせそう。
……まあとにかく何が言いたいかと言うと、この樫井大政という男はそれだけ隙が無く、嘘みたいに良くできた人間なのだ。
だから、誰にも理解されないし、理解できない。
もし、仮に理解できる人が居るとするならば、全くの対極に位置する者なのではないだろうか。
いや、「理解」という言葉は適切ではない。「推量」や「揣摩」と言う方がよっぽど的を得ている。
それくらい目の前の好青年は掴みどころが無く、現実性に欠ける存在なのだ。
「やあ、解は出たかな?」
全てを見透かしていそうな眼の樫井が俺に問いかける。
「…ああ」
俺は短く答える。
「樫井、悪いが一瞬立ち上がってくれないか?」
俺はベンチに座っている樫井にそう指示する。
「流石だね」
樫井はそう言うと、満足げな表情で腰を上げ、俺にその場所を譲るように空けた。
俺は今さっきまで樫井が座っていたベンチの真下へ手を伸ばす。
そこには、ティッシュ箱くらいのサイズの宝箱が置いてあった。
俺はその宝箱を持ち上げると、「これ、貰ってくぞ」と言い残し、牛込の所へと歩いて行った。
「ほらよ」
驚愕の表情で固まっている牛込に俺は宝箱を渡す。
「……え、なんで……なんであそこにあるって分かったの?」
突然宝を見つけ出した俺に、戸惑いを隠せない牛込がそう問いかける。
「ああ……この広場に戻ってくる時にあいつの足元が見えてな…」
まぁ嘘だが。
こいつに懇切丁寧に説明する必要もあるまい。
「それよか早くそれ開けてみろよ」
「…う、うん」
宝箱を持ったまま固まっていた牛込にそう促す。
「…なんだろこれ……クリップ?」
ようやく手に入れた宝箱に入っていたのは、よくある何の変哲もないクリップだった。職員室なんかに行ったらごまんとありそうだ。
しかしどういうことだろうか。
宝がクリップ?
ハサミ、糸、糸、糸と来て、クリップ?
これはマジであやとり大会説濃厚か?だとしたらこのクリップは負けた奴の罰ゲーム用か?別にそれは構わないが挟んでくれる相手は女子にしてくれよ?
などと、紳士として当然の事を考えていると、ゲームマスターである樫井がその通る声でゲーム終了を告げた。
「みんなお疲れ様。現時点を以て宝探しを終了とする。結果は全グループクリアだ。おめでとう。一時間しか無かったのにみんなよく頑張ったね、俺は嬉しいよ」
樫井は拍手を交えながらクラスメイト達のゲームクリアを褒め称えた。
そんな樫井の賞賛にクラスメイト達は「こっちこそありがとー」「楽しかったよー」などと言葉を返した。
「それはよかった。……ところで、宝の内容に疑問を持ったんじゃないかな?なんでハサミなんだろう?なんで糸なんだろう?ってね。実はこれにはちゃんと意味があってね。厳密に言うと、君たちはまだ宝を手に入れてない。だから今から手に入れることになる。……七瀬さん、いいかな?」
樫井はそう言うと、クラスメイト達の方へ軽く手招きをした。
すると、比較的大人しめの雰囲気が漂う女子が前に出てきた。
「……あの、七瀬光彩です。……えっと私、手芸部なんですけど……今日はみんなにミサンガを作ってもらおうと思います……」
七瀬さんとやらはあまり人前には慣れてないのか、モジモジとしながらそう言った。
「…ヒカリちゃん……そういうことか。……よかった」
聞こえるか聞こえないかギリギリの音量で瀬尾がそう呟いた。心なしか安堵の表情をしている。
どうやらこの七瀬さんとやらは、樫井に告白するだのしないだの噂されていた女子みたいだ。恐らく、樫井と二人で居たのはミサンガの件の打ち合わせとかだったのだろう。
しかしミサンガとはまたえらく懐かしいものを……。
今時の小学生とか知らねぇんじゃねえの?
「と、いうことだ。みんなが協力して見つけ出した道具と材料を使って、今からミサンガを作ろう」
「なんでミサンガなの?」
瀬尾が興味深そうに質問する。
「そうだな……強いて言うなら、目に見える形でみんなとの仲間である証が欲しいからかな?この先、辛いことや苦しいことがあっても、自分には心強い仲間が居る。一人じゃ乗り越えられない壁にぶち当たっても、みんなと一緒なら越えていける。……そう思えたら素敵じゃないかな?」
相変わらずキザの塊みたいな奴である。
しかしこいつはなんでこんな事を照れもせずにすらすらと言えるのだろうか。キザキザの実とか食ってるのだろうか。
「……素敵」
そして瀬尾がしっかりと堕ちてた。
……お前将来絶対ホストクラブとか行くなよ?そんな事でいちいちときめいてたら破産する未来しか見えないぞ?
「ってことで七瀬さんが作り方を教えてくれるから、沢山作ってみんなで贈り合って欲しいな。贈る相手のことをちゃんと想って作ってね。一生の宝になるように。……ああ、もちろんクラスの子以外の分も作って大丈夫だよ。糸は予備も用意してあるからね」
はぁ、一生の宝ねぇ……
ミサンガなんか直ぐに切れて捨てるハメになるんじゃねえの?
そう意味では人間関係と似ている。脆くて、気付いたら無くなってる。擦り切れた糸は元には戻らないからな。
「りょーかい!じゃあ私、39個つくる!」
瀬尾は細い腕をブンブンと振りながらそう言った。
あれ?ウチのクラスって40人じゃなかったっけ?
……ああ、そうか。そういえば今日休んでる奴居たな。確か2人?……だっけか?恐らく瀬尾はその内の1人のことが嫌いなんだろう……
……………。
分かってるよ!
俺が一番分かってんだよ!ちょっとくらい現実逃避させろよ!露骨過ぎんだろその発言!
だからみなまで言うなよ?
じゃないと坊、泣いちゃうぞ?
……ふんっ!別にあんたの作ったミサンガなんか、これっぽっちも要らないんだからねっ!
我ながら情緒不安定過ぎる今日この頃である。
⑥まで続きます。




