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前日譚そのに

 転生というのは。



 ・第一に、数多に存在するパラレルワールドや異世界のどれに着地点を置いてもおかしくない。

 ファンタジーだと思っていた魔法と剣がメインの世界や、言語を必要とせず他人との境界線も曖昧な世界、家畜が人を支配してる世界や、そもそも死生観が異なっており生物としての死が死ではないという世界もあった。

 いずれも結局最後には死を迎えたが、どんな世界にいても善悪のプラマイを0に保つのは俺にとっては難しい事ではなかったらしい。



 ・第二に、転生する時代は実に自由だ。

 過去や未来、例えるなら犬に転生した時江戸時代の風景が広がっていたし、逆にサイバー化が進みすぎて世界の至る所にモニターや電極が溢れている世界にだって行ったこともある。

 死者の儀(俺が死ぬ度に神と話をする場所)はどの時間軸にも存在しておらず、故に数多ある魂を同時に、もしくは完全に異なるタイミングで裁く事が可能なのだという。



 ・第三に、記憶は基本転生しても残っている。

 というのも、普通は記憶は生まれ変わるごとにリセットされるらしいが、一番初めの俺が神に向かって「頼む! 幼女になれるまで記憶は残させてくれ!」と頼み込んでいたようだ。

 よって、俺はこうして迷う事なく神の部屋で転生の儀式を行っているわけだが。




 長々と説明したが、このリセマラで俺は様々な存在になってきた。

 犬猫猿鳥魚にドラゴンなんかにもなった事がある。

 他にもゾウリムシや大樹やダニなんかにもなった事があった。

 前回が999回目の転生、今回で1000回目になるが、これまで人間になれたのは0回。

 言ってしまえば、リセマラなんかに固執する前の人生以前にも途方も無い回数転生してきたのに俺が人間として生まれてこれたのはあの時の一回だけだったらしい。



「どう? 決まったかい」


「ああ。それと、あれと、これを頼む」



 口と視線でブロックを指示する。

 今の俺はカクレクマノミ、夢の国映画のニモと同じ種類の魚だ。

 コップに水を入れてもらい、水面から顔を出す事でなぜか懐かしい人間の言語を喋れている、神様パワーなのだろう。



「どうだい? 神様よ。記念すべき1000回目なんだ、そろそろ人間にかすってくれても」


「かするどころかドンピシャだぞ」


「何……?」


「人間。女。顔の造形は整っていて、回復魔法が得意と記されている」


「マジか!?」



 1000回目にしてやっと幼女になれる? やばい、嬉しい。

 何この感動、何この達成感、リセマラ終了おめでとう俺、もう来世なくていいや。



「だがクマノミさんや。考えてみると、君はあくまで幼女になりたいんだよね?」


「ん? ああ、そうだな」


「ずっと幼女がいいんだよね」


「ある程度の成長はあってもいいが、老けたくはないな。程よく不老がいい」


「そうだよね。でも……それは種族が人間だと」「人間じゃなければいいのさ。簡単な話だよね? 魚」



 神様の声を遮り、何処かから甲高い声が響いたかと思えば、六畳間の天井がぱかっと開き、こちらを覗き込むように見ていた少女が俺らサイズにまで縮んで部屋に入ってきた。

 歳は神様と同じくらいで小学生の女の子に見える。



「何をしに来たんだい? 邪神バアル」


「スーハーくんはつれないなあ。なんでこんな面白そうな人材がいるのに教えてくれなかったのさ」


「えっ?」



 面白そうな人材?

 何の事だろう、何となく俺を指して言ってるのは分かってるが、それにしても目的が分からないのが怖い。



「どういう意味だいバアル」


「実は、レスレンシアっていう魔法の世界に新たな石を投じてみようかなって思って。平和ボケしてるあの世界の一つの国に魔物の卵を産み付ける為にさ」


「許可できない」


「許可は求めてない」


「神界の権力者だぞ」


「私縁故(えんこ)されてるから神界とは関係ないもんね」


「とにかく渡さない。1000回も生まれて死んでを繰り返したんだよ? 疲れてるはずなのに世界が終焉に向かうきっかけを与えそれを見せつけるのは鬼だと思わない?」


「思わないな。邪神だから。だから、ちょいっと借りるよーっと」



 バアル? さんが俺が入ったコップを奪い去ろうとする。

 しかし、神様がすんでの所で為に入り、俺とバアルの間に割って入る。


 神の片手にはいつの間にか光が凝縮して出来たかのような槍が握られていた。

 それを見たバアルも似たように、闇を凝縮したような錯覚の剣を具現化させ構える。



「あの、お二人とも? 喧嘩は俺を送り返してからでも……?」


「終焉の剣よ、厄災をもたらせ」



 ズオッ……!! バアルを中心に狭い六畳間の内側に黒い嵐が吹き荒れる、俺の声は届かなかったようだ。

 まあ、神様を隔ててるから聞こえなくても何らおかしくないよね。



「審判の槍よ、極光を指し示せ」



 カッ……! 神様も神様で、槍を掲げて圧倒的な熱量と光を集める。

 完全に臨戦態勢に入っている。

 俺の声、流石にあなたは聞こえてたでしょう、少しは耳を傾けてよねえ。



「ねえ、だから喧嘩は」「決着をつける時が来たようだね。バアル!」


「そうね。あはっ、手加減しないから」



 衝突。

 狭い六畳間で常識を逸した轟音と爆音が鳴り響く。

 神と邪神の喧嘩は殺し合いに発展し、殺し合いはやがて戦争に発展した。


 何の力も持たないカクレクマノミに過ぎない俺はゴッドウォーズに巻き込まれ、転生の手続きがキチンと整わないまま消滅した。




 *



「……っ! オギャアー!!! オッギャァー!!」


「おお……同胞達よ。我らが紅血一族の最後の希望が産声を上げたぞ」



 霧に包まれた十字架だらけの霊園にて、静寂を切り裂くように産声を上げる赤子とそれを抱き抱える吸血鬼がいた。



「我が愛しき娘よ。貴様には数年ほど、仮初めの死を与える。……すまない、我らの復讐の為なのだ」



 羽はボロボロ、欠けた歯で虚ろげに呟く吸血鬼は、赤子に指先で『呪い』を掛けて棺の中に入れる。

 元気よく産声を上げていた赤子の声は、棺を閉めるのと共に消え失せた。



「見つけたぞ!! 吸血鬼の始祖だ、捕らえろ!!」


「くっ、忌々しい人間どもめ。家畜風情が妾を捕らえるなどと、よっぽど惨めに殺されたいようだな!!」



 赤子の眠る棺を背に吸血鬼が人間と殺し合いを始める。

 同時に空になった赤子の身体に、行き先を失った名もなき魂が宿った。

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