壁パス?
画面の表示は3Q、4分ほど。
『リバウンドから、攻撃に移ろうとした大松の不用意なパスを宮瀬がスティール!
まだ敵陣近くに残っていた内柴が、リングへ強襲します』
殺到する富山の巨人達。エゴロフと小嶋が待ち構え、ゴール下の内柴へのパスコースは大松に潰される。
『ゴール前の超密集状態に宮瀬くん、フリースローラインから果敢に飛び込みます』
(強引過ぎるよ!?パスもシュートもまともにできないやん!)
滑空する宮瀬のレイアップシュート…はフェイクで、巨人たちの壁の中、腕と身体を大きくひねって背中回しのビハインド・バックパスを強行する。
(あ、それは無理)
――――パコン、と間の抜けた音。
ボールはパスに反応していなかった内柴の背中に当たる。
やっちゃったー、という顔で内柴が振り返り、跳ね返り宙にふわりと浮かぶルーズボールにカメラが切り替わり、ブロックに飛んでいた富山の大男たちが着地して足が止まった…その時に!
黒豹のごとき、 漆黒の風が、 革のボールを掴みとり、
《ぎゃおおおおおおおおおん!!!!!》
野獣のごとく、高く高く声を響かせて、画面には映っていなかったスラムダンク王が、走りこんでいた。
瞬時に、宮瀬と内柴がゴール下の大松たちをスクリーンアウトで遮り、密集地帯に、ゴールへの隙間を作る。
『ドゥドゥ選手の!』
金属の輪をへし折らんばかりの勢いで、
『とてつもないスラムダンクが炸裂!!』
剛腕を叩き込んだ。
静かだった満員の究極電力記念体育館が、割れんばかりの歓声に包まれた。
「………かっけー………」
足蹴にしたまま寝てると思っていた弟が、ぽつりと一言。
「………は、はは」
アタシの方はというと、空いた口が塞がらない。
(…うっそでしょー、まさか…あの強引なカットインはこれを狙って……?
ノールックパスで、味方が反応できないことまで利用して?そんな発想ふつうできないってば)
考えれば考えるほどわけがわからなくパスに、なんだか頭がクラクラしてきた。
理解の範疇を超えていたのか、ナレーターの声も震えている。
『狙ったのか、たまたまなのか、好プレーなのか、珍プレーなのかは分かりませんが、この1プレーをきっかけにして、』
三人で顔を見合わせた後、苦笑する内柴は宮瀬の髪をぐしゃぐしゃにしながら撫でて、大笑いするドゥドゥは宮瀬の背中をバンバン叩く。
『<ショータイム>が、始まります』