不吉な言葉
試合前の客席の映像が映る。
『会場は今までにない超満員!去年の平均観客数1014人を遥かに上回る5188人が入場しました!』
昨日、開幕戦だというのにガラガラだった客席は立ち見まででる大盛況だ。宮瀬効果で。
「今日は美夏ちゃんはどこに映ってるのかしら〜?ん〜?」
ママもアタシの隣に座る。
「あー…今日は…入れなかった。チケット持ってなかったし、当日券もとっくに売り切れてたし……」
この画面の中の人達みたいに客席に居れたらどんなによかったことか。
「あらあら〜残念ね〜」
シュンとするアタシの頭を、ママのあったかい手で撫でられる。ママはあやすように
「まあ美夏ちゃんはこのお客さん達とは違って、明日には学校で会えるからいいじゃないの〜。
だからその分譲って上げたと思えばいいんじゃないのかしら〜?」
「べ、べつに宮瀬が目当てなわけじゃないもん!」
ヘッドスリップで撫で撫でを回避!
「あらあらそうなの?」
含み笑いをするママに
「そうなの!」
と牙(八重歯)を見せて唸った。
「ぐうぐう、ただの寝言だけど〜、姉〜ムキになんなよ〜余計あやしいぜぇ〜」
「寝てろ!しゃべんな!」
左足で不穏な寝言をいう弟の顔を踏んづけた。
「ぎゃ〜暴力はんた〜い〜………ぐうぐう」
あくまで寝言と言い張るように、空々しい寝息を立てる弟………血が繋がっているとはいえ、ノリとテンポと感性の違う家族にいじられるのは、疲れる。
そうこうしているうちに、試合のダイジェストが始まった。
昨日、アタシ達がいたところとは違う、斜め上からのアングルで撮られる試合。違う視点からみる宮瀬。相変わらず、大男達の中に混じって、実際の身長よりすごく小さく見える。
映像で見る試合は、日頃部活で聞きあきるほど聞くボールが床を叩く音、バッシュが立てる鋭い金切り音が欠けていて、少しだけ現実感に乏しい……けど、昨日の興奮がよみがえる。
(………がんばれ、宮瀬)
と思ったのもつかの間、画面の右上に現れたテロップに、不吉な文字。
《ダンク王子、ダンク不発》