モノオモフ秋
夕暮れ、赤い空。カラスの鳴き声…黄昏時。
物悲しいトロイメライが鳴り響いて、校庭から少しずつこども達の姿が消えていく。
二人、何も話さず…話せず、ただトロイメライを聞きながら…日が落ちるのを眺めていた。
「なんか………すごいことになっちゃったね」
先に口を開いたのはきーちゃんの方から。
「………うん」
半ば放心したままのアタシは生返事。 また沈黙。
きーちゃんが何かを言おうとして、ためらって、アタシから目線を外す。
アタシは宮瀬のメガネを胸元で手のひらに包む。
昨日……試合が終わって、きーちゃんの当初の予定ではみんなでカラオケに行くつもりだった。
もちろん、宮瀬も含めて。
でも、試合が終わっても取材だかなんだかで、宮瀬はアタシ達のところに戻ってこなかった。
究極電力記念体育館の出口で何分待っても、何時間待っても……出てこない宮瀬。
クラスメイトはそれぞれ別行動になって…アタシときーちゃんだけが待ち続けて……結局、諦めた。
家に帰ると夕方のニュースで宮瀬のダンクシーンが放送されてた。229センチのエゴロフを吹っ飛ばすダンクシーンに、ニュースキャスターが言葉を失っていた。
福岡フライングソーサーズは宮瀬直樹(十四歳)と日本バスケット界最年少のプロ契約(B契約、推定年棒200万円)を結んだと発表された。
夜のスポーツニュースで、ダンクだけでなく宮瀬のハイライトシーンが特集された。元日本代表ポイントガードが解説に来て、宮瀬の凄さを力説しまくっていた。
朝のニュースでも宮瀬のハイライトシーンが放送されまくった。
新聞の一面、左側に、ダンクした瞬間の宮瀬のカラー写真がどでかく掲載されていた。
母がにこにこと笑って写真を指差した。
「あらあら〜、みっちゃんも此処に写ってるじゃないの〜」
「え?…あ!ホント!?」
驚いてる観客の所にアタシも写っていた。
その写真は切り抜いて、部屋に飾ることにした。
昼には宮瀬をおうえ……試合を見に行こうと究極電力記念体育館に行ってみた。
「あ、美夏?あんたも」
「お〜、みなきち〜、おまえもか」
体育館に行く途中、特に約束した訳じゃないのに、昨日のメンバーの何人かと合流した。みんな気持ちは一緒だった。
でも、試合は見られなかった。
「ちょ…超満員……?」
開幕戦で半分も空席が出ていた試合が、今日は当日券完売、ダフ屋が横行するほどで……アタシ達のお小遣いじゃ、会場に入ることも出来なかった。
「かえろ…美夏。ここにいてもしょうがないって」
「……………」
「メガネなら明日学校で返せばいいじゃん。
………だから、さ」
「………うん」
会場の外まで響く大歓声に後ろ髪を引かれながら、アタシ達は……帰るしかなかった。
家に帰る途中、ふと立ち寄った母校、高鳥小学校のバスケのポールに、二人で寄りかかって…
「アタシたちが手を伸ばしても届かないくらい……遥か遠くの人になっちゃったぁ……」
返せなかった。
返そうと思ったけど、届かなかった。宮瀬には、近づく事も出来なかった。
「……美夏……」
そっぽ向いて目をゴシゴシこするアタシの背中に、きーちゃんがおずおずと声をかけてくる。
「ここ、なんだ。
アタシが、
初めて、
宮瀬と、
話したのは」
ポールに背中を預けて、アタシはきーちゃんに打ち明ける。
五年前、小学四年生の時……