超新星
48分の激闘は終わり…男達は互いの健闘を称え合う。
「すげーなおまえ、前世はカンガルーか何かか?」
「完敗だよ、俺たちの…ところでお前、ホントに日本人か?」
「どこであんなイヤらしいプレイを覚えるんだよこのガキは」
宮瀬が富山のデカイ人達に取り囲まれて姿が全く見えなくなる。
改めて、身長差を感じさせる。そして改めて、宮瀬がその身長差をものともせずに結果を出したことに驚かされる。
「どうだい富山さんよぉ、うちの王子様は」
南部がニヤリと笑い、富山監督平石に問いかける。
「いや、登場してきた時は……何の冗談だと頭にきたもんだがね。人気取りにも他にやりようがあるだろう、と」
平石はたるんだ頬肉をぷるぷるさせながら笑った。
「いやはやしかし…日本バスケ界の至宝というべき存在だな。
しっかり育ててやってくれ。これからを楽しみにしているよ」
ブルドックのような強面を満面の笑みにして、南部に語りかける。
「もちろん、アイツにはもっともっとデッカクなってもらいますよ…最高峰までね」
日本人山脈トリオからもみくちゃにされた宮瀬がやっとこさ解放されたら、今度はデイビス、ヒューストン、あともう一人のアメリカ人トリオに捕まっていた。
なんか言われてるけど、宮瀬は答えられなくてまごついている。
(あ…なんかいつもの宮瀬だ)
クラスでぼんやりしてる時の宮瀬の一面がのぞく。
にっこにこのクラレンスとドゥドゥが富山のアメリカ人トリオと一緒になって宮瀬をもみくちゃにする。
おろおろする宮瀬が、なんか可愛い。
開幕につまずかされた優勝候補の一角、富山ゴールデンナゲッツの選手達が、自らの敗戦を悔いるより先に…敵選手の鮮烈なデビューを祝福している。
拍手。
万雷の拍手。
両軍の健闘を称える拍手、そして歓声。
「すごいね…美夏……」
「うん………うん………」
激戦が終わって、見ているだけだったのに全身から力が抜けてしまったアタシは、ただただ…見つめていた。
『さあ、みなさんもう覚えていただきましたでしょうか』
叫びすぎてしゃがれたマイケル・コールのアナウンスが響き、煽る。
『あなたの瞳に焼きついたでしょうか!』
…焼きついたよ、もう一生、忘れない。
『あなたの記憶に刻まれたでしょうか!』
…刻まれたよ。もう、忘れられない。
『今日の試合の主役……そして、これからの日本バスケット界の主役を!』
観客全員が怒涛の喚声を上げる。
『本日のマン・オブ・ザ・マッチを発表します!!
プレイタイムたった25分の短さで!
14得点 !
両チーム一位、7アシスト !
同じく両チーム一位の3スティール !
1ブロック !
1スラムダンク !
日本バスケット界の超新星!風雲児!!
ミヤセェェエ! ナオキィィイ!』
コート中央センターサークル。
チームDJが宮瀬にマイクを向ける。
輝かしいスポットライト、
「宮瀬くん!!
文句なしの、本日のマンオブザマッチ、でぇす!!」
鳴り響くシャッター音、写メを撮る電子音、フラッシュの光、スポットライトの光、
「あ、ありがとうございます」
「見てぇみんな!この子、僕よりちっちゃいよー」
おどけた拍子で宮瀬の背と比べて、体育館に笑い声が起こった。
落ち着くのを待ってから、宮瀬はゆっくりと話し始めた。
「僕のような若輩者を、チームの一員として認めてくれたことに感謝します」
「開始直後のスラムダンク!度肝をぬかれました〜ぁ。
狙って!ましたか!?」
ズズズイっと押しつけられるマイクに少し仰け反りつつ、
「相手が警戒する前に、チャンスがあればやろうと思っていました。
無理ならパスしようと思ってたんですが、エゴロフさんがほとんど跳ばなかったんで…」
「ガツンと?」
「ガツンと、行かせていただきました」
カッコヨカッタゾーと、二階席から聞こえてくる。
宮瀬がそっちを向いて手を振ると、大きな歓声が上がった。
「日本人でも、翔ぶことは、ダンクをする事は可能です。
ダンクは特別な才能じゃないんです」
「ダンクやジャンプ力だけじゃありませぇん、ポイントガードという難しいポジションを、まるでベテラン選手のようにこなしました」
「何よりも、チームの勝利に貢献したいと思っていました」
「小学校の卒業時点でフライングソーサーズの練習には参加させていただいていました。
紅白戦なんかでは僕も混ざっていた
」
「シュートのコツは南部さんから」
「監督からも多くの事を教わっています」
「十年以内に、NBAへ行きたい」
「その為の最短手段として、今プロになる事が必要だと思いました」
「今日見てくださったお客様は、どうか家族に、親戚に、友人に、同僚に、部下に、上司の方に伝えてください、日本でも面白いバスケをやってる所があるんだって」
「追いつきたい人がいるんです。
今のままなら、僕は一生その人に追いつけない。だから、追い付くことができるようにこの道を選びました」
宮瀬が客席に手を振って、喚声に応えた。
洪水のようなカメラのフラッシュに目を細めて。
「すげぇ……凄すぎるよ……」
遂に、鬼頭が認めた。
「勝てるわけねえ……あんなのに」
「………………負けたく、ない」
あたしは口の中で、呟いた。
「アタシは、アンタに、負けたくない!!」