セットオフェンス
次のプレイでは、デイビスも意地を見せた。
プロの先輩としての意地を、
バスケ母国アメリカ人としての意地を、
大人としての意地を。
強引なパワードリブルで中に切れこみ、ディフェンスを引き付けてヒューストンへアシスト。
ヒューストンの3ポイントが、輪を通過して同点!
91ー91
TGN陣営が沸き立つ。まだ勝負を諦めていない、と。
「……うぜえ」
聞こえてきたのは、南部の声。
エンドラインからボールを入れる前に、南部が宮瀬に話しかけていた。
アタシ達の席からすぐソコだから、大観衆のざわめきの中でも声が通る。
「なかなかしぶといですね」
汗を拭う宮瀬に、南部が器用に片眉だけ吊り上げて言い捨てた。
「…とっとと決着つけるぞ」
「うん、次のプレイで…」
宮瀬と南部が声を合わせた。
『息の根、止めよう』
…心臓を鷲掴みされたかと思うほど、身体が震えた。
いつものぼんやりとした風情からは思いもよらない、宮瀬の静かな激しさ。
(……ばか)
それを今まで気付けなかった、見抜けなかった、ぶつけてもらえなかった自分が……悲しくて、悔しくて。
富山監督が叫び、TGNの選手達がゴール下をぎゅうぎゅうに固める。
静かに戦況を見つめるノルウェー人監督から、指示は無い。
214のユニフォームがアタシから離れていく。
宮瀬が右手を高く掲げる。右手は親指と小指を伸ばし、他三本を曲げて。耳に当てたらケータイのジェスチャーになりそうだ。
それを見て、FFSメンバーが動く。
1イン4アウトのセットオフェンス、クラレンス以外の四人が3Pポジションに広がる。
「これは……」
「……3P狙い……かな?」
きーちゃんと後田が分析する。
「それでも富山は、ゾーンを外さない、か」
「今日は南部がキまくってるから、南部に撃たせるんじゃないか?」
「でも、宮瀬もスリー上手いからなあ」
「そう見せかけて、ドゥドゥに合わせてくるんじゃねえか?」
「内柴は…スクリーン要員かな」
「多分な」